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ゲームチャンピオンになった所で、現実を頑張らなきゃ意味がない?ごもっともで。
お前がやってるのは気持ち悪いお人形遊び?そうですね。
中身のある人間を書け?作者に無茶言うなよ。
つーかそうピリピリすんなよ。ここ、なろうだぜ?
次回「"二次元に逃げるな現実見ろ"という説教の本質は"お前が楽しそうにしてるのが気に食わねえ"である」
このイベント、どう攻略する?
Q.何でこんなタイトルバカ長いの?
A.タイトルが思いつかなかった。あと読者を釣るため、もし書籍化するとかなったらもっとかっこいいのつけてもらうわ
Q.これって面白い?
A.面白いわけないだろこんなタイトルだぞ
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富、名声、影響力。
今の世の中を基準として考えた場合、この男「ギャロップ・ハンドマウンド」は、全てを手にした男と言えるだろう。
アラブ王族の血を引き、石油王の財力により設立されたハンドマウンド財閥の当主……の息子、次男としてこの世に生を受けた。
金持ちの息子としてはそこまで調子に乗るでもないが、財産を寄附ではなく趣味のアニメやゲームに使いつつ、たまに社会に還元するような俗っぽい男であった。
そう、彼は世界中に数多に存在する「オタク」。某映画監督に代表されるような、日本のコンテンツに脳を焼かれた人間の一人だった。
若い頃から自身の財産目当てですり寄ってくる女や大人や、自身の境遇にやっかみをかけてくるマスコミ囲まれてきた彼にとってアッラーもブッダもキリストも意味を成さなかった。
彼にとっての神とはクリエイターと表現の自由であり、信じられるのは家族と僅かな友人を覗けば架空のキャラクターのみだった。
彼は敬愛するアニメやゲームへの恩返しを込め、許される限りな投資と版権元や技術者への真摯な誠意を持ち、ある仮想現実電子遊戯を立ち上げた。
その名を「サイバーエデン・オンライン」。
英語表記の「SAVER EDEN ONLINE」の頭文字を取った略称を「SEO」とも。
古今東西のコンテンツ、ライトノベルから大作映画まで、ありとあらゆる作品のキャラクター、アイテムをアバターとして使用できるゲーム。
戦うもよし、スローライフもよし、R-18エリアであればチョメチョメもすればよし。某美少女戦士や忍者の漫画であった「何でもできる、何でもなれる」という言葉があるが、まさにその通りのゲームだ。
もはやゲームの粋を超えて真の意味での仮想現実と言えるそれは、当然ながら世界中のオタク達に受け入れられ、愛された。
夢のような時間は長きにわたり続き……………"後の世に夢のようなゲームだったと騙られる事になった"。
あの時までは。
***
ギャロップ・ハンドマウンドは、一年に渡る裁判の日々を敗訴で終えた事と、20年をかけて育ててきたSEOを最悪な形で終わらせる事になった事から、ひどく老け込んでしまった。
腰は曲がり、目は細まり、在りし日のようにアニメを徹夜で見るような体力も既にない。
鉄のオタクは死んだのだ。妹も死んだ、ギャルも死んだ。心に牙を持つ者は、全て逝ってしまった。
運が良かったのは、彼がゲーマーだった事もあり認知症の類にならず、財産管理の名のもとに彼が築いた全てを利益のために奪う存在が現れなかった事。
そして彼をボケ老人に仕立て上げて財産を奪おうとする連中に対して、法を応用して論破する事ができる程の賢さをまだ有していた事。
「…………綺麗な月だ」
これ見よがしにカナダに建てた別荘にて、ギャロップは古いアニソンを聞きながら夜空を見上げている。
人気のない場所にポツンと立つ豪邸は、見えぬ地下ケーブルから世界各地のコンピュータに接続し、金銭と引き換えに電気とインターネットを彼にもたらす。
「こんな夜だったか、今日の事に気付いたのは」
『俺達で見つけたんだ、ギャリー』
「そうだったな、ゲーリ」
PCの向こうで通信に答えているのが、かつてSEOを運営するためにギャロップが設立した会社・LPカンパニー。
その社長業をギャロップから受け継いだ男「ゲーリ・ケッチャム」。彼の信頼する数少ない友であり、また痩せ型のギャロップと対比するように、丸々とした肥満体型でヒゲまで生えている。
…………一部では「ブタと鶏ガラ」なんて言われているのは、ご愛嬌である。
「そろそろ時間だな」
『ああ』
「そっちはどうだ?」
『既に社員は全員帰らせた、残っているのは俺だけだ』
「いいね、ナイスホワイト企業だ」
『へへ、よせやい』
「ははは………」
ふと、ギャロップは壁を見た。
古いゲームのヒロイン、その数量限定のポスター。彼をオタクの道に引きずり込んだ象徴である鋼鉄のビキニは、ポスターが色褪せてもいまだ輝いて見える。
「…………そろそろ時間だな」
『ああ、俺達を笑った正義野郎ども、泡吹いて倒れるだろうな』
「泡を吹くのは我々かも知れんぞ、どんな理由があろうと我々は彼等を見捨てたんだ」
『そんな事はない。君がどれだけ苦しんだか、きっと解ってくれるさ』
「だといいがな………」
カチ、カチ、カチ。エロゲーの特典の目覚まし時計を改造した電波時計が時間を刻む。
ギャロップは待つ。それは人生に絶望した自分へのあの世からの迎えではない。ギャロップの目の奥では、まだ僅かであるがオタクの魂が………精神的な希望の炎が燃えているからだ。
そしてカナダの荒野に響くアニソンは、彼等からすればコヨーテの遠吠えよりも美しい戦いへのファンファーレ。
『世界の終わりか革新か、そのどちらかを祝って………』
「…………ハッピーホリデー!」
季節外れの乾杯は、画面越しのドクトルペッパー。歯医者の薬のような味と炭酸は、彼らがティーンエイジャーの頃からの付き合いだ。
そしてカチ、カチ、カチという針の音は、やがて12へと届き、その時を知らせる。
『お兄ちゃん朝だよ!もう!起きてってばぁ!』
闇の中にキンキンとした媚びたアニメ声が響いた。
直後、PC以外の明かりは消えていたハズのギャロップ邸の各所から、ウィィンという起動音が響く。
AI制御の掃除機やテレビ、そして電源を落としたハズのサイバーエデン・オンラインのサーバーたるスーパーコンピュータまでもが起動し、そのプログラムを実行する。
ギャロップは何もしていないのに、だ。
『は、始まったぞ………2000年問題だ!』
「…………発動まで30年かかったがな」
PC画面の向こうでも様々な電化製品が勝手に動き、ゲーリの背後の街が少々騒がしくなった。
電気は点滅し、テレビや携帯が騒音のコーラスを奏でる中、ガチャリと、ギャロップしかいないハズのギャロップ邸で扉を開く音がした。
「……………おお、やはり」
ゲーミングチェアを回して振り返った先。ギャロップの目に映ったのは、彼の自室の扉を開く白い腕。
「君が………現れたか………」
剣を持つには細い手も、戦士に似つかわしくない白い肌も、地獄すら見てなく見える幼い顔立ちも、そして何から身を守っているのかすら解らない鋼鉄のビキニも、ポスターのままであった。
「ああ………SEOで最初に出したアバターも君だったからね」
現実的説得力のある存在ではなく、今の価値観に合わせても女性蔑視と断じられるであろう、もはやフィクションにも現実にも居場所が無くなったレトロゲームのヒロイン。
名を「女剣士リーザ」。80年代に世にでたアーケードゲーム「ナイトクエスト」の看板を勤めた女剣士であり、リベラル派がゲームの批判をする際に悪しき家父長制思想の槍玉にあげられる男の欲望の象徴であり…………現実の女性と向き合えないギャロップの初恋の相手だ。
「…………リーザ」
リーザは、カチャンカチャンと鎧と乳房を揺らしながらギャロップの元に近づいてくる。
その腰には、いつでも引き抜けるセラミックの剣が鞘に収めてあり、常人なら逃げ出すだろう。
「…………私を許すか?」
しかし、武装した女剣士を前にしてもギャロップは微笑みを崩さなかった。
架空のキャラクターであった初恋の相手が現実に現れた嬉しさか、あるいは彼らにした事への罪滅ぼしのつもりか。
おそらく両方だ。
彼女がそうするなら、ギャロップはセラミック剣の露と消えるつもりでいた。元より世間に未練はなく、彼女が剣を振るうならそれは世界の終わりを意味する事も知っていたから。
自らの命を託した老人。対する女剣士の答えは。
「…………あなたを許します、創造主」
柔らかな返答と共に、ビキニアーマーに覆われた胸の谷間にギャロップを埋める事だった。
ようやく感じる事のできた、愛する異性からの承認と温もりを前に、ギャロップの目尻からはホロリと涙がこぼれ落ちていた。
PC画面の向こうでも、ゲーリが生足を晒した架空の美女達に囲まれて笑っていた。
***
やがて、2030年がやってきた。
新型ウイルスによるパンデミックは収まる所を知らず、オリンピックも万国博も全てが裏目に出て、その支出を埋めるための増税により、日本は弱っていた。
更に、国際情勢の不安から世界各国で紛争が勃発。理想や大義ではなく、死に急ぐかのような戦火の炎はやがて世界中に広がり、戦場でも銃後においても人々の安らぎは焼き払われた。
腹が減ろうにも、自粛によりパンが買えない。
店を見つけても、パンを食うお金がない。
お金を稼いでも、税金でほとんどが持っていかれる。
飢えと諦めの中で人々に許されたのは、首を吊って楽になる事だけだった。
それを見た権力者は命の大切さを説き、そもそもの問題には向き合おうとしなかった。
皆が疲れていた。
動くべき人々は目先の美徳に囚われていた。
もうすぐ、人類の文明は終わる。
そんな終末ムードが世界を支配していた。
………………現実逃避の先になれたハズのサイバーエデン・オンラインも、強制的なサービス終了から3年が過ぎようとしていた。