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第2話 元カレ?大集結 ③

 そして私は、無事に朝を迎える。

 窓から差し込む暖かな日光に起こされ、私はまぶたを開いた。


「おはよ、ユイちゃん」


 それとほぼ同時に、頭上から声が降ってくる。

 顔を見なくても分かる。イダくんだ。どうやら、最後に私を見張っていたのは彼だったらしい。

 そんなことを寝ぼけ眼でぼんやりと考えていたが、次の瞬間、私は頭まで布団を被って顔を隠した。


「わわっ! おはよ!」

「あはは。どうしたの?」


 私の突然の奇行に笑うイダくん。

 …寝起きの顔を見られたくないのだ。それくらい分かってほしい。普段、思わせぶりな言動で翻弄してくる割に、こういうところは鈍いらしい。


 その後、私は顔を手で覆い隠したまま、イダくんを押しのけて洗面台に直行し、顔を洗った。

 ……顔、見られてませんように…と願ったが、昨日のイダくんの「交代になるまで見ている」という発言を思い出し、その願いは望薄だということに気付いた。


 肩を落としながらリビングに戻ると、そこでは、既に起床していた祖母が昨日の晩御飯の残りを出してくれていた。

 食卓には既にイダくんが着席していて、早朝にも関わらず白米と惣菜を怒涛の勢いで掻っ込んでいた。男子はすごいなぁと小学生のような感想を抱きつつ、私もキッチンで白米を少量お椀に盛る。


「おばーちゃん、おはよー」

「あらおはよう。今日は早いわねぇ」


 祖母に朝の挨拶をしながら、私も食卓に着いた。

 寝起きで覚醒しきっていなかった私は、ここでようやくあることに気付く。


「あれ…アラトさんは?」


 先程からアラトさんの姿が見当たらない。

 私のその疑問には、祖母が自分の白米をよそいながら答えてくれた。


「アラトちゃんならねぇ、朝早くに出てったよ」


 どうやらイダくんと最後に交代した後、早々に出ていってしまったらしい。

 私を守ってくれるんじゃなかったのか、と心の中で身勝手に悪態をつきつつ、考えていても仕方がないと思考を放棄する。今はとりあえず登校が先決だ。



 それからは、イダくんがそばにいる点以外は、普段と何ら変わりないルーティンが続いた。

 歯磨きをして、制服に袖を通し、鞄を持って玄関へ。


 イダくんもいつの間にか制服に着替え終わっていて、玄関先で待ち構えていた。

 一体どこに制服を持っていたのだろうと疑問を抱きつつ、尋ねるほどでもないのでスルーして一緒に路地へと出る。


「おれ、通学中も見張ってるから。多分あの男も見てると思う。何かあったらすぐに駆け付けるから、安心して」


 イダくんはそう言い残すと、私が普段通学に使わない、入り組んだ裏路地へと入っていった。


「……どこから見てるんだろ…?」


 アラトさんといい、あの不審者といい、一体私のことをどこからどう見張っているというのだろう。

 疑問は尽きなかったが、今は考えていても仕方ないだろう。そういった話はいずれ本人たちに尋ねるとして、登校することにした。


 予想はしていたが、通学路は驚くほど普段と変わらなかった。私も同じように、何食わぬ顔で進んだ。

 しばらくすると、いつもの合流地点に辿り着く。そこには、既に親友のヤエちゃんとヨウちゃんが待ち構えていた。


「ユイ―――ッ!!」


 私の姿を見るや否や、二人が飛びついてくる。昨日に引き続き、人との物理的接触が多いなぁと感じた。


「あんた、昨日あれからどうしたの!?」


 尋問のような気迫に気圧されつつ、私はどう説明したものかと考えあぐねた。

 ……謎の不審者に絡まれた後、見知らぬ眼鏡の青年に攫われ、イダくんに助けられ、二人が自宅に上がり込んで……なんて、説明できるわけがない。


 まず信じてもらえないだろう。前世や転生の話はもちろんとして、まず二人から助けられたという話の段階から。何より、彼女たちをこれ以上巻き込みたくない。

 そして一番の懸念は、こんな話をついうっかりしてしまった日には、恐らくこの先一生話のネタとして擦り倒されるだろうということ……。


「なんとか家まで逃げ込んだよ。ごめんね、二人を置いて…」


 状況を説明しつつ、通学路を進む。

 とりあえず無事ではあることを強調しつつ、二人を落ち着かせる。


「置いて…っていうかさ……なんか、昨日の昼頃から記憶抜けてんだよね。昼休みとか何してたっけ?」

「え?」

「警察に話そうにも、あの後から急に記憶が曖昧になっちゃって…」


 そのヨウの一言に、背筋がぞわりと凍る。

 …やっぱり、あの不審者が二人に何かをしたんだ。

 記憶まで操作できるのか、あの不審者は。


 が、そんな私の心配など露知らず、二人は間髪入れず例のあの話題を再び持ち出してきた。


「んで、伊田くんは!? どうする!?」

「え?」

「実質ユイに告ったみたいなモンじゃん! 今日会ったらどうすんの!?」


 …あの不審者。折角ならイダくんの関連の記憶も消してくれれば良かったのに……。

 既に今日はもう会っている…何なら、一晩ほぼ一緒に過ごしていた、なんて口が裂けても言えないな。



 イダくんの話を躱しながら通学路を進んでいたら、つい長話になってしまい、うっかり遅刻しそうになってしまった。


 チャイムと同時に教室に雪崩込む。

 ほとんど遅刻のようなものだったが、なんとか朝のホームルームには間に合ったようだ。

 程なくして担任の教師も教室へやってきて、私たちの着席と同時に教壇に立った。


「おー。神田たち、今日遅いなー」

「さーせーん」

「帰りは遅くならないよう気を付けろよー」


 気怠げに話す担任に、適当に返答する友人たち。

 変わらない日常がそこにあった。

 と思いきや、次の瞬間に担任が放った一言で、その日常は呆気なく崩されてしまう。


「昨日の夕方、不審者出たらしいからな。あと、同一人物かは分からんが、夜間に住宅街の方で叫んで走り回ってた馬鹿どもが何人かいるそうだ。このクラスじゃないと思うが、気をつけるように」


 ……住宅街で叫んで走り回っていた、馬鹿ども……。

 担任の警告が耳に痛い。言われなくとも分かる。イダくんに抱えられてアラトさんから逃げ回っていた時の私たちだろう。私は恥ずかしさと申し訳無さに顔を赤らめ、一人俯いた。


 だがそれに続く担任の一言に、今度は耳を疑うことになる。


「あと突然だけど、今日このクラスに転入生が入ることになりましたー」


 一切の予告が無かった転校生の話に、ざわめく教室。

 …嫌な予感がする。

 そして嫌な予感というものは、大概よく当たるものだ。


 担任が廊下側に向かって「じゃ、入って―」という合図を投げかけると、教室の扉が開いた。

 転入生と呼ばれた男子生徒は、一糸乱れぬ歩みで教壇へ上がると、担任の隣で立ち止まる。


 昨晩あれだけ見ていれば、見間違えようもない。


桐生(キリュウ)新人(アラト)だ。よろしく」


 その男子生徒は、昨日出逢った〝転生者〟アラトさんだった。



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