第2話 元カレ?大集結 ②
恐る恐る脱衣所に出るが、二人の姿はなかった。流石にここまで侵入するつもりはないのか、まだ食事中なのか。
それから私は、比較的新しく、かつあまり人に見られても恥ずかしくない部屋着を選び、いつもより速いスピードで着替えを済ませた。
代わりにヘアケアとドライヤーは念入りに行う。他人の手前、見窄らしい格好はできないし、あと二人と対面する時間をとにかく減らしたかった。
鏡に自分の部屋着姿を映して、最終確認を済ませる。
大きく深呼吸をしてから、廊下に出た。
「お祖母様の飯はどうするんだ」
「ヒッ!?」
脱衣所から廊下に出た途端に声をかけられる。
外の廊下にはやはり、アラトさんとイダくんが待ち構えていた。声をかけてきたのはアラトさん。
二人は文字通りの意味で睨み合っていたようだったが、私が風呂から上がってきたのを察知して、すぐさま視線をこちらに向けてきた。
少し気味の悪さを覚えながらも、無視することはできないので、間を持たせるためにもこれからのことを尋ねてみる。
「わ、私もう寝るけど……二人はどうするの?」
「お前を交代で見張ることになった」
見張り。これまでの彼らの過保護さから、薄々そういう流れになるのではないかと思っていけど、まさか本当にそうなるとは。
先程から牽制し合っていた二人だったが、そこはお互い合意に至ったらしい。そこに、最も必要な私の同意は無い訳だが。
「み、見張るって……何で?」
「さっきの男が来てもお前を助けられるように、だ」
「な、なるほど…」
と頷いてみたものの、正直、就寝中の姿を見られるのは嫌だ…。それ自体が目的ではないとは分かっていても恥ずかしい。
だけど、あの不審者がまた襲ってくる可能性がまだあることが他者の口から改めて語られて、再び緊張が走る。
眠っているところを襲われるのが一番まずい。夫婦だ何だと抜かすような不審者だ。何をするか分からない。
「ああ、寝顔を眺めるとかじゃないよ。さっきの、こいつじゃない方がまた来て何かしてくるかもしれないからさ。あっちからはどうも良い気を感じなかった」
「俺としてはお前も危険だと思うがな」
「今はお互い協力し合った方がいいだろ?」
「あ、あの…私の意思は…?」
本人を差し置いて、再び睨み合って火花を散らす二人。
私がおずおずと手を上げて会話に加わると、やっと意識と視線をこちらに向けた。
「じゃあ、ユイちゃんはどうしたい?」
「えぇ…ええと…」
イダくんがこちらに譲歩してくれる。
わがままを言うと、見張りはしてほしい。でも部屋の中に入られるのは嫌だ……なんて感情論は言えないので、妥協案を伝える。
「部屋の外じゃ駄目ですかね…」
「寝ているところを運ばれたらどうする。助けも呼べんぞ」
「おれらも相手方の気配をすぐに察知できるわけじゃないから、できれば部屋の中に入れてほしいな」
「……じゃあ、中でお願いします……」
このタイミングでまさかの一致団結した二人からまくし立てられ、あっさりと言い包められてしまう。
そんなこんなで、不承不承ではあったけど、二人に見張りを頼むことになった。
祖母には既に話をつけていたらしく―――見張りの話ではなく、泊まり込みの話だったけど―――祖母は私の部屋の隣部屋に、既に二人分の布団を敷いてくれていた。
毎晩きっちり十一時に就寝する祖母に、布団を敷いてくれたことの感謝と、晩御飯は明日の朝に食べることを伝えてから、私は自室へ戻った。
「……おれが先で良いだろ?」
「…だから、その話はもうナシだ。ここは俺が……」
戻る道中、廊下から言い争う声が聞こえてきた。
二人はあれから再び揉めていたらしい。よく飽きないなぁと思う。
「今度は何…?」
「どちらが先に見張りをするか決めてるんだ!」
「はぁ……」
うんざりしながら尋ねると、案の定、どうでもいい理由だったので、呆れて脱力する。
再び私を蚊帳の外に追いやって、言い争いを続けるイダくんとアラトさん。
連続で疲れ切っていた私は、投げやりに解決策を提示した。
「言葉で解決しないなら、拳で決めろ!」
「え?」
「何?」
困惑する二人に利き手を前に出させて、私は片手を大きく振り上げる。
「はい! 最初はグー!!」
ジャンケンは二度あいこになった末に、イダくんの勝利で決着した。
「はい! ここ。私の部屋、です!」
言葉に詰まりながら、ぎこちなくイダくんを招き入れる。
…正直、私としては、イダくんよりアラトさんに見張られる方が良かった。
今日の夕方のこともあって、イダくんと二人きりになるのが気まずいのだ。それなら、初対面のアラトさんに見られる方がまだマシ。
だけど彼の手前、アラトさんの方が良いとも言えず…。
彼だってもちろん、見張り以上のことはしないだろう。だけどドギマギしてしまう。
そんな私のことなど露知らず、イダくんは高揚した声色で私に話しかけてきた。
アラトさんより先に見張りができるのが余程嬉しいらしい。
「ねぇユイちゃん。おれ、どこに居たら良い?」
「ええと……ベッドの枕元から対角線上の部屋の角に居てくれれば…」
遠回しな表現をしたが、言ってしまえば私から最も離れた場所だ。
ちょうど近くに勉強机があって、読みかけの小説や漫画の単行本が散乱している。それらを指さして、私は続ける。
「部屋の電気、点けておくから。暇だったら、私の持ってる本読んでてね。面白いか分かんないけど…」
「うん。ありがとう。でも大丈夫だよ」
そう言うと、イダくんが腰を折って、私の顔を覗き込んできた。
そして、私に思いもよらない返答を告げる。
「交代になるまで、ユイちゃんのこと見てるから」
そう言われて、私は思わず顔を背けてしまった。
普段から飄々としていて冗談ともつかないことを言うタイプの男の子だったけど、まさかこんなことを言うなんて。
「や、やだなイダくん…そういう冗談言うんだ」
照れ隠しでそう言ってみたものの、彼からの返答が一切なく、照れは次第に焦りに変わっていった。
イダくんの目は本気だった。
返す言葉が見つからず、しばらくの間、その場を支配する静寂に身を委ねていた。
「……じゃ、あ……見張り、お願いします……」
いたたまれなくなり、私はベッドに逃げ込む。
一晩中、背中に熱い視線を感じ、まともに眠れなかったのは言うまでもない。




