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第1話 前・前・前… ②

 放課後の通学路。最寄りのショッピングモール。テイクアウトしてきた惣菜やスイーツを片手に、三人で肩を並べて座るベンチ。

 飽きるほど見てきたこの光景も、あと一年で見納めだと考えると、やはり寂しく感じる。


 隣の親友二人はというと、感傷に浸っている私をよそに、二人して一つのスマホを弄っていた。

 私も同じように覗き込んでみると、画面にはタロット占いの文字が。


「まーだやってんの…?」

「うん。ユイのね」

「しかもまた私かよ!!」


 なんてしつこい奴らなんだ。そんなに人の恋路が気になるのか?

 まぁ、どうせ最近他の知り合いに浮いた話が無いから、暇しているだけなのだろうけど。どうにかして色恋沙汰に繋げたいのだ。

 彼女たちを諦めて、買ってきたジュースに口をつけた、その時だった。


「何してんの?」


 そんな剽軽な声と共に、私の肩の合間から顔が割って入ってきた。

 伊田くんだった。

 予期せぬ出来事に仰天して、飲んでいたジュースが気管に入って咽せてしまう。隣の二人も「うわっ!?」と喫驚の声を漏らしていたが、すぐにこの状況に順応し、伊田くんと会話を始めた。


「タロット占い! ユミがどの占いでも恋愛運からっきしだから、最後の賭けに出てんの」

「え。ユイちゃん恋愛運ないの? なんで?」

「知るかそんなん」


 恋愛運が最悪なことを暴露されてしまったこと、そして何より彼の顔が真横にあるのが恥ずかしくなり、私はふてくされたフリをして外方を向く。

 その隙に伊田くんは身を乗り出して、何やら二人と


「えい」

「あ」

「あ!」


 伊田くんに続いて、呆気に取られたような短い声を上げる二人。

 何をしたのか気になって、つい逸らした目を戻してしまう。

 どうやら、伊田くんがタロット占いのアプリのシャッフル開始のボタンをタップしたらしい。

 画面いっぱいにエフェクトが過剰に使われた演出が入って、その後、カードが整列される。表示されたのは以下のカード。


 塔の正位置。

 星の逆位置。

 魔術師の逆位置。

 死神の逆位置。


「怒涛の逆位置祭り……」

「死神て……」

「あ、いや、正位置? もあるじゃん!」

「……塔の正位置って、確か良い意味じゃなかった気がする」


 唯一の正位置である最後の砦が崩され、その場がしんと静まり返る。

 各カードに表示された解説は、とてもではないが見る気が起きなかった。


「おれよく分かんないんだけど、もしかして悪い結果だった?」

「た、タロットはなんとか良いように解釈できるから……多分大丈夫だよ!」


 とは言うものの。

 占いは基本的に信じていないが、ここまで悉く悪い結果だと、やはり不安になってくるものだ。恋愛面ではなく、主に学業面で…。

 そんな私の不安を悟ったのか、伊田くんが笑顔を浮かべ、私の肩をぽんと叩いてきた。


「でもさ、俺がいるんだから恋愛運なんて占わなくても良くない?」

「は?」


 突如、どでかい爆弾が投下された。

 困惑する私たちを置いて、伊田くんは片手を上げ「じゃ」とだけ挨拶をして、そそくさと帰っていく。

 残された私たちは、彼の姿が見えなくなってから、溜まっていた興奮を解き放った。


「ちょ、何何!? 何なの今の……!?」

「ちょっと! フツー好きでもなんでもないヤツにあんなこと言わないでしょ! 絶対ユイのこと好きだって!」

「だから何でって! だって接点マジで無いんだよ!?」


 照れ隠し半分で否定してみたが、私とて、そこまで鈍感ではない。ここまでアピールが過剰だと、もう認めざるを得ないんじゃないだろうか…。

 初めての異性から向けられた露骨な愛情表現の嬉しさ、周囲を憚らない友人たちからの冷やかしの恥ずかしさ、そして、伊田くんから惚れられることの腑に落ちなさに、悶々とする。

 色んな感情と情報で処理が追い付かなくなっていく脳内。

 最終的に私が取った行動は、逃避だった。


「ヨシ! とりあえず帰ろ! ね!!」


 黄色い歓声を上げる二人の腕を引っ張って、私の強制でショッピングモールを後にする。

 時刻も午後六時半なので、お開きにするには良い時間だろう。


 もうすぐそこまで、夕闇が迫っていた。

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