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妖怪裁判  作者: 川住河住
第1回裁判 木を切ったのはだれ? 鬼の目にも涙事件
2/15

第2話 妖怪裁判開廷

「おかしいな。ここは行き止まりのはずなのに。いつの間にこんな道できたんだろう」


 道の先にも緑色の木々の葉がしげっている。

 茶色い地面には、ひとりぶんの小さなくつあとが続いている。


「鬼丸さんの家は、この先にあるのかも。だけど、勝手に入ったら怒られるかな」


 進むか、帰るか。

 ほんの少し考えた後、ヒロは思いきって足を一歩前へみ出す。


 地面についたくつあとをたどって行くと、だれかの話し声が聞こえてきた。


「お前がやったんだろ!」

「あたしはやってない!」

「うそをつくな!」

「うそじゃない!」

「お前以外にこんなことできるわけないだろ!」

「あたしが近づいたら勝手にたおれたんだから!」


 毛の生えていないツルツルピカピカ頭で着物姿の男の子と顔をまっ赤にした鬼丸が言い争っている。

 すぐそばには、細くて背の高い木が道をふさぐようにしてたおれている。


「待ったー! ケンカはよくないよ!」


 学級委員長のヒロの体は勝手に動いていた。

 ヒロの通っている学校では、たとえどんな理由があってもケンカしてはいけないというルールがあるのだ。


「ど、どうして! な、なんでここに?」

 鬼丸は、おどろきの表情を見せながらバンダナを巻いた頭を手でおさえる。


「落とし物を届けにきたんだよ」

 ヒロがお守りを渡そうとする。

 

「なんだお前! どうしてここに人間がいるんだ! さっさと出て行け!」

 そこに着物姿の男の子が声をはりあげてきた。


 変なことを言う子だと思ったけれど、その顔を見たとたんにヒロの目が点になる。


「め、め、目が……目が……」


 なぜなら男の子の顔には、口が一つ、鼻が一つ、そして《《目も一つ》》しかなかったから。それもサッカーボールと同じくらい大きな目玉が、顔の真ん中にあるのだ。


「当たり前だい。おいらはひと目小僧めこぞうだからな! どうだ人間? 怖いだろう?」

 一つ目小僧はもっとおどろかしてやろうと、目玉をぎょろぎょろと上下左右に動かしたりくるくると回したりして見せる。


「すごい! 本物のおばけだ! 妖怪って本当にいたんだ! サインください!」

 しかし、おばけや妖怪が大好きなヒロにとっては、大よろこびの結果となった。


「こ、こいつ! 人間のくせに怖がらないのか? だったらこれでどうだ!」

 一つ目小僧は、目玉を回しながら口から長い舌をべろりと出した。


「すごいすごい! 本で見るより生で見た方がずっとかっこいい! もっと見せて!」

 ヒロは、二つの目玉をキラキラさせながら両手を合わせてお願いする。


「そ、そんなにほめんなよ。はずかしいじゃないか。ちょ、ちょっとだけだぞ?」


 まんざらでもない一つ目小僧は、期待にこたえてさらに勢いよく目玉を回していく。

 しかし、調子にのって目玉を回しすぎたせいでその場にバタンとたおれてしまった。

 

 直後、草むらや木のかげにひそんでいた者たちがぞろぞろとはい出てくる。

「あら。一つ目小僧がたおれているわねぇ。どうしちゃったのかしら」

 見た目は着物姿の人間の女性なのに、首だけが長く伸びているろくろ首。

「こりゃおかしいわ。ま、少し休めばすぐに起きあがるだろうよ」

 手をふるたびにすなをぼろぼろとこぼしている砂かけばばあ。

「おやおや。一つ目小僧に鬼の子はともかく、人間の子どもまでいるじゃないか」

 ひらひらとした白い布のような姿で宙にういている一反木綿いったんもめん

「なに、人間の子どもだと? いったいどうやってこちらの世界に入り込んだ」

 赤い顔に長い鼻、背中には大きな翼を生やしている天狗てんぐ

 他にも本にのるほど有名な妖怪やおばけたちが、ゾクゾクと集まってきている。


「わあ! こんなにたくさんの妖怪に会えるなんて夢みたいだ!」

 まさか本当に夢じゃないか。

 不安になったヒロがほっぺを思いっきりつねってみたらすごく痛かった。

「いてて。でも、よかった。夢じゃなかった。えへへ」

 痛くてなみだが出そうなのに、これが現実だとわかったヒロはうれしくてまた笑う。


「う、うう~ん。ま、まだ目がぐるぐるする~。おお、みんなも来てくれたのか」

 一つ目小僧がようやく起きてきて、周りにいる妖怪たちに大声で話しかける。

「みんな聞いてくれ! 鬼の子が木をたおしたのにあやまらないんだ!」


 妖怪たちは、道に転がっている木と立ちすくんでいる鬼丸を交互こうごに見る。

「ここはみんなが通る道なのよ。こんなところに木が置かれたら困るわぁ」

「鬼の子よ。悪いことをしたなら、ちゃんと謝らないとダメじゃあないか」

「そうだぞ。『ありがとう』と『ごめんなさい』を言えない妖怪は、人間に笑われてしまうぞ」

「さあ、早く謝ってしまいなさい。たおれた木は、わしらが片づけておくから」

 妖怪たちが厳しい視線を向けながら口々に謝りなさいと注意しだす。


「ちが……えっと、あたし……」

 鬼丸は口を開こうとして閉じて、また口を開こうとして閉じるのをくりかえす。


「鬼丸さん?」

 さっきまで大きな声で「やってない!」と言っていたのにどうしたのだろう。


 もしかしたら、妖怪に囲まれて怖いのかもしれない。

 そう考えたヒロは、すぐに口を開く。

「待ってください! 鬼丸さんは、木をたおしてなんかいません!」

 妖怪たちの視線が一斉いっせいに向けられても、ヒロはまったく怖さを感じなかった。

「そうだよね、鬼丸さん?」

「う、うん」

 鬼丸は、大きくうなずいてみせる。

「だけど一つ目小僧さんは、鬼丸さんが木をたおしたと思ってるんだね?」

「そうだ。おいらは目が一つしかないんだからな。見まちがえるわけねぇよ」

 一つ目小僧は、大きな目玉を指さして断言する。


「これはどういうことだ。鬼の子と一つ目小僧の意見がちがうではないか」

「あらあら、いったいどちらの言うことを信じたらいいのかしら」

「わからん。こんな時どうしたらいいのか、なにもわからん」

 周りの妖怪たちも困った顔やむずかしそうな顔をしてうなりだした。


「はい! ぼくにいい考えがあります!」

 その様子を見ていたヒロは、すかさず手をあげて提案する。

「こういう時は、話し合えばいいんだよ」

「話し合う?」

 天狗が不思議そうに首をかしげる。

「そう。ふたりからそれぞれ話を聞いて、気になったことをみんなで考えて、最後にみんなで答えを出すっていうのはどうかな」

「なるほど。いい考えじゃな。しかし、みんなの意見をまとめるにはどうすればいい?」

「それならぼくに任せてよ。今までたくさん学級裁判をやってきたかられてるんだ」


 ヒロたちの学校では、たとえどんな理由があってもケンカは禁止。

 それでもケンカが起きたり意見が分かれたりすることはある。

 そんな時はみんなで話し合い、みんなが納得する答えを学級裁判で見つける決まりになっている。そして学級裁判の進行も学級委員長の大切な仕事だ。


「にらみ合いでも、話し合いでも、おいらは負けねぇぞ。目に物見せてやるぜ!」

 どうやら一つ目小僧は、やる気満々のようだ。


「あたしはやってないし、ウソなんかついてない。絶対に負けないんだから!」

 さっきまでしょんぼりしていた鬼丸も、いつの間にか元気を取りもどしていた。


「よし。決まりだね」

 ヒロは、息を大きく吸って裁判の開始を告げようとする。


「それでは、これより学級裁判を……」

 最後まで言いかけてやめる。

 ここは学校ではないし、参加者も人間ではなく妖怪たちだ。

 それならもっとふさわしい名前があるはずだと思ったから。

 ピッタリの名前はないかと考えている時、頭の中でピンとくるものが見つかった。



妖怪裁判ようかいさいばんを始めます!」



 あらためてヒロは大きな声で宣言する。


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