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妖怪裁判  作者: 川住河住
第3回裁判 手がかりはぬれた葉っぱ? たぬきときつねの化かし合い事件

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第13話 カワ

「ぽんぽこぽこぽん! ぽこぽんぽん!」

 たぬきは、さっきよりも元気よくおなかをたたいて話し出す。


「今日は太陽が出ていてぽかぽかとしていたから、みんなでひなたぼっこしていたんだ。しばらく丸くなってうとうとしていたら川の方から水しぶきの音が聞こえてきて、だれかが陸に上がってきたところまでは覚えている。でも、おいらも仲間もそのまま目を閉じて眠っちまったんだよ。もしかしたら、そいつが葉っぱを持って行ったのかもしれないぞ」

 またおなかをぽんとたたいたところで話を終えた。


「たぬきさん、話してくれてありがとうございました」

 ヒロが感謝の言葉を告げながら頭を下げると、あることを思い出した。

 鬼丸に姿を変えていた茶色い動物は、川を泳いでいた、と話していた。

 おそらくたぬきの縄張りにやってきたのは、その動物だったのだろう。


「この橋を渡らないで、わざわざ川を泳いでくる動物ってだれ?」

「どうしてたぬきの縄張りにある木の葉っぱを持って行ったの?」

 ヒロと鬼丸が首をかしげながら疑問をつぶやく。


「どうせ寝ぼけて見まちがえたに決まってるわ。相手にするんじゃないよ」

 きつねは、あきれたような口調でしっぽをふる。


「なんだとぉ? おいらが夢でも見ていたっていうのかよ!」

 たぬきは、口を大きく開けて怒りをあらわにする。


「ケンカはダメですよ。ちゃんと話し合いしましょう」

 注意されたきつねとたぬきのしっぽがしゅんと元気をなくす。


 それからヒロは、さっき言いかけていたことを話す。

「やっぱり草むらへにげていったのは、たぬきさんじゃないと思う」

 ヒロは頭に手をあてて少しずつ思い出していく。


「たしかに茶色い毛の動物だった。でも、たぬきさんよりも体が小さくて細かった。それに毛の色もうすい茶色だったんだよ。たぶん、別の動物だと思う」

 それを聞いた二匹の反応は、またそれぞれ異なった。


「その子の言う通りだ! おいらはやってないぞ!」

「なに言ってんだい。子だぬきなら体が小さくて細いじゃないか」

「うちのチビたちを疑うのか? あいつらは、まだ小さすぎて化けられねぇよ!」

「フンッ。どうだかねぇ」

 たぬきは大声でさけび、きつねはそっぽを向く。


「鬼丸さん。妖怪の世界に住んでいる動物ってどれくらいいるのかな?」

「たくさんいるよ。イノシシや熊、うさぎにシカ、ヤマドリやキジ。どれもおいしいよ。今度、うちに来たらごちそうしてあげるからね」

「あはは……ありがとう……」

 楽しそうに話す鬼丸に対してヒロは苦笑いをうかべる。


 人を化かす動物といったらたぬきときつねが有名だ。

 しかし、たぬきはやっていないと言うし、きつねも使う葉っぱがちがうと言っている。ヒロが見た動物の色はたぬきに近いけれど、体型はきつねに似ている。


「これはむずかしい問題だ」

 ヒロは頭に手を置いて考える。

 いったい、たぬきときつねのどちらが化かしたのか。


 その時、川の方で大きな音ともに水しぶきがあがる。

 魚がはねたか、水鳥が飛び立ったのだろうと、みんな気にもとめなかった。

 しかしヒロだけは、なんとなく気になって手すりの間から川をのぞいて見る。


「あっ! きみは!」


 そこでハッとひらめいた。

 川を泳いでいる茶色い動物を見つけたことで思い出したのだ。


「そうか。そうだったんだ」

 いつものように手を空高くかかげて宣言しようとしてやめた。


 あることを思いつき、いたずらのお返しをしようと考えたからだ。

 ヒロは口元をニヤッとさせた後、ゆっくりとふり返ってからたずねる。


「きつねさん。聞きたいことがあります」

「なんだい。そろそろ毛づくろいにもどりたいんだけどねぇ」

「たぬきさんの縄張りの葉っぱを取ったのは、きつねさんではありませんか?」

「えぇ! きつねが?」

 それを聞いた鬼丸とたぬきが目を丸くして口を半開きにする。


「そんなわけないでしょう。なんでわたしがそんなことをしなくちゃならないのさ」

 きつねは、あきれたような口調で話す。


 それでもヒロは、真剣な表情で話を続ける。

「ぼくを化かしたのがたぬきさんだと思わせるためです。落とし穴のそばにたぬきさんの縄張りの木の葉っぱがあったら、だれだってたぬきさんが化かしたと思うはずです。それに、草むらへにげていった動物も茶色い毛だったから、きっとたぬきさんがやったと考えるでしょうね。実際ぼくは、すっかりだまされてしまいまいました」

「つまりあんたは、たぬきが化かしたと思わせておいて、実際はきつねのわたしが鬼の子に化けてあんたを落とし穴にはめた。そう言いたいのね?」

「はい。きつねさんは、さっきまで仲間と毛づくろいをしていたと言っていましたよね。それは、落とし穴をほった時に土でよごれた体をきれいにするため。ちがいますか?」


 鬼丸とたぬきは、目を丸くしたまま様子を見守る。

 また川の方で水しぶきがあがり、橋の下でなにかがぶつかる音がした。


「まちがっているわよ。わたしは、そんなことしていないわ」

 きつねは、すました顔で話す。


「そもそも、どうしてわたしが川を泳いでたぬきの縄張りに行かないといけないのよ。目の前に橋があるんだから、それを渡ればいいだけじゃないさ」

「あれだけ深い落とし穴をほったら体がよごれますよね。だから、川で水浴びをしたと思ったんです。それをごまかすために泳いだと言ったんじゃないですか?」

「フンッ。なに言ってるの。いくら太陽が出ているからといっても川の水は冷たいのよ。そんなことしたら風邪をひいちゃうじゃないか」

「そうですか。やっぱりこの時期に川を泳ぐ動物なんていませんか」

「そうよ。こんな冷たい川に入ろうとするなんて妖怪のカッパか、動物ならカワ……」

 きつねがなにか言いかけた直後、あわてて口元をしっぽでかくす。


「カワ? なんですか?」

「な、なんでもないわよ!」

「あっ!」

 鬼丸がなにかに気づいたような声をあげる。


「そっか。そうだったんだね」

 ようやく彼女も真実を突き止めたらしい。


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