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妖怪裁判  作者: 川住河住
第3回裁判 手がかりはぬれた葉っぱ? たぬきときつねの化かし合い事件

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第11話 大事な日

「ヒロ!」


 またしても名前を呼ばれて体が固くなる。


「だれ?」


 おそるおそる声のした方を向くと女の子が立っていた。


 その子の頭には、見覚えのあるオレンジ色のバンダナがまかれている。


「……鬼丸さん?」


 ヒロは不安そうにたずねる。


「うん。あたし、鬼丸あかりだよ」


 ヒロは、念のため本物かどうか確認するためにいくつか質問していく。


「鬼丸さんがクラスでやっている係は?」


「え、生きもの係だけど」


「好きな科目は?」


「理科と体育」


「じゃあ……」


「さっきからどうしたの? あたしは鬼丸あかりだよ」


 鬼丸は、質問攻めにされることを不思議に思ってたずねる。


 そこでヒロは思い出した。ふだん鬼丸は「あたし」と言っていることに。


 けれど、さっきまでいっしょにいた女の子は「わたし」と言っていたのだ。


 ということは、最初に会った鬼丸はニセモノ。


 今話している彼女こそが本物ということになる。


「よかった。今度は本物の鬼丸さんだ」


 ようやくヒロは、ホッと一息つくことができた。


「本物ってどういうこと?」


 鬼丸は、穴に落ちているヒロの手を引っぱり上げながら聞く。


「どうしてきみ一人で妖怪の世界に入ってこられたの?」


「え? いつもと同じように鬼丸さんといっしょに手をつないで来たんだよ」


「そんなわけないよ。さっきまで裏山の頂上できみが来るのを待ってたんだから」


「じゃあ、この落とし穴を作ったのは……」


「あたしじゃない! あたしはそんなことしてないから!」


「そうだよね。このベンチは、鬼丸さんのお父さんが作ったものなんだから」


 大切なものが近くにある場所に落とし穴を作るとは思えなかった。


 そもそも鬼丸がだれかにいたずらするとは、とても考えられない。


「いったいなにがあったの? あたしに話してみてよ」


「それじゃあ……」


 ヒロは、これまであった不思議なことを鬼丸に一つずつ話していく。


 裏山の頂上へ行ったらバンダナをしていない鬼丸が現れたこと、鬼丸からモモタロウと呼ばれたことや茶色い毛の動物がにげていったことなど、どんなに小さなことでも起きたことはすべて伝えた。


 鬼丸はだまって聞いていたけれど、ヒロが話し終えた時には顔が赤くなっていた。


「ひどい! そんなことするなんてひどすぎる!」


 鬼丸は、怒りの声をあげながら辺りを見回す。


「だれがこんなことをしたんだろう」


 さっきまで混乱していたヒロも、人に話すことで気持ちが落ち着いてきた。


「こんな落とし穴はふさいじゃおう。手伝ってくれる?」


「わかった。だれかが落ちてケガでもしたら大変だからね」


 鬼丸とヒロは、協力して穴に土を入れてふさいだ後にしっかりとふみ固める。


 こうしておけばもうだれも落とし穴には落ちることはないだろう。


「あれ、なにか落ちてる」


 ヒロが落とし穴のすぐそばにある葉っぱを拾いあげる。


 なぜかその葉っぱは、雨にでも降られたかのように水でぬれていた。


 ここしばらく晴れの日が続いていて、しばらく雨は降っていなかったはずなのに。


「茶色い動物……葉っぱ……。あっ!」


 そこでヒロは、祖父の言葉を思い出した。


『たぬきやきつねに化かされないように気をつけろ』


 ヒロが裏山へ遊びに行く時、いつも祖父から教えられていたことだ。


 耳にタコができるくらい何度も聞いていたのに、すっかり忘れてしまっていた。


「あたしにも見せて」


 鬼丸がぬれた葉っぱを手に取ると、目を大きく開いた。


「この葉っぱ知ってる! たぬきやきつねが化ける時に使ってるやつだよ!」


「え? たぬきやきつねって本当に化けるの?」


 ヒロもおどろいて目を大きくさせる。


「そうだよ。あいつらは、いたずら大好きな動物だからね」


「すごい! あんなに上手く化けられるなんて知らなかったよ!」


 化かされて穴に落とされたというのに、ヒロはおもしろがっている。


「感心してる場合じゃないよ! あいつらには、いつも困らされてるんだから!」


 相変わらず鬼丸は、顔をまっ赤にして怒っている。


「一つ目小僧は眠っている時に顔に落書きされて、ろくろ首は長い首をなわとびに使われて、一反木綿は白い布を黒く染められて、カッパたちもきゅうり畑をあらされたってよく言ってる。あいつら、何度しかられてもまたすぐにいたずらするんだからね」


「それは、ちょっとやりすぎだね」


 さっきまで感心していたヒロもさすがに笑えなくなってきた。


 もし学校でそんなことをしたら毎日のように学級裁判が開かれるだろう。


「今日だって、大事な日だったのに……」


「大事な日って?」


「な、なんでもない!」


 鬼丸は、首を大きくふって赤くなった顔を冷ます。


「そ、そんなことよりやることがあるでしょ!」


 ヒロの手を引っぱりながらどこかへ連れて行こうとする。


「こんな時こそきみの出番だよ。あたしも手伝うからね!」


 鬼丸の言葉を聞いて、ヒロも自分が今なにをすべきか気づいた。


「妖怪裁判を始めます!」


 ヒロは大きな声で宣言すると、鬼丸といっしょに走り出す。


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