第43話 二人の魔法使いは永遠に②
先週の金曜日投稿できなくて申し訳ないです…では
「我々は魔法使いを一人残さず殲滅しなければならない!」
一万数千人は入る大きなドームで、スーツを着た若い男がそう叫んだ。すると、会場を埋めるほどの聴衆が盛大な拍手で男を称賛した。
「皆様申し遅れました、警察庁長官の息子、官房長の栗林と申します。以後お見知りおきを。」
すると、栗林はステージを左右に往復しながら、はきはきとした声で続けて語り始めた。
「さて、本題を放させていただきます、皆さま、本日は何の日でありましょうか。」
栗林は正面にいた人へと質問した。
「そこの君、今日は何の日だ」
その人は何かを言った。
「そうだ、今日はあの悲惨な事件、渋谷魔法使いテロ事件から五年めだ。正確には今日の夜なので、あと六時間後と言った方が正しいんだが。」
「皆様覚えているでしょう、建物が歪んでいたり、地面が溶けていたり、車が丸焦げになっていたり。あの光景を見たものは誰しもこう思ったでしょう、どこかの国で起きた戦争だと」
栗林は声を低くし、怯えたような声で言った。
「これは紛れもなくこの日本と言う先進国で起こったことであります。」
「それも、創作物でしか見たことが無い魔法使いと言う存在によるものであるというじゃないですか。私も初めは耳を疑いました。この国は科学によりここまで成長してきたと言って過言ではなく、科学を信仰している我々にとってあれはあまりに非科学的な出来事だったからです。」
すると、栗林はスマホを取り出し言った。
「ですが、この文明の利器であるスマホで取られた映像には、確かに魔法と思われる存在と、それを自由自在に操る魔法使いの光景が写っていて、たちまちネットに拡散されて人々に知れ渡りました。」
栗林の後ろに置いてあった大きなモニターに映像が準備された。
「これから再生する二本の動画は、まだネットにアップロードされていない映像です。ご覧ください」
会場の照明全てが落され、映像が再生された。まず一本目の動画では、建物の正面玄関の中から撮影されたものだった。
男は息を切らせながらも走って外へ向かい、カメラを上空へと向けた。するとそこには無数の槍が上空を埋め尽くしていて、男性は「まじかよ」と思わずこぼしていた。
その瞬間、爆発音に近い衝突音と共に男性の目の前に一本の槍が突き刺さり、男性は腰を抜かしてしまった。そしてカメラが建物の目の前の道路へ向けられるとそこには、無数の槍が地面へ突き刺さっていて、穀倉地帯を彷彿とさせた。
そこで動画は終わっていて、二本目の動画へ切り替えられ再び再生された。今度の動画はとても短いもので、大きな翼を広げた少女が凄まじいい速度で飛び、一人の魔法使いの所へ急旋回し目の前に来たところで動画は終わった。
すると、栗林にだけ照明が当てられ、深刻そうな表情と声で話し始めた。
「皆さん…いかがでしょうか。」
ホールは静寂に包まれていた。
「私は恐ろしいです。一本目の動画は皆さんも恐ろしいと感じるでしょう。しかし私は違います。本当に恐ろしいのは二本目なのです。」
大きなモニターに戦闘機と、対空ミサイルの画像が映された。
「これらは我々日本が世界に誇る戦闘機と対空ミサイルです。しかし、これらを用いても、またどんなに改良を加えたとしても彼らに対抗できないのです。」
聴衆達はどよめき始めた。
「この少女は我々の持つどの兵器にも追いつけない速度で飛んでいて、推定三十Gがかかる飛行を難なくこなしています。これは耐Gスーツを着用した熟練のパイロットでも耐えられない、人間では確実に死んでしまうほどのGです。」
「そんな異次元な飛行で魔法を放ってくると考えると、現時点で存在するどんな兵器よりも恐ろしいことは誰でも想像がつくでしょう!」
ホールは混乱する聴衆の声で溢れていた。すると、栗林は声を張り叫んだ。
「でも皆さまご安心ください!本日、あの英雄をこの場に招待しております!」
すると、舞台袖から黒いスーツを着た、黒く髪を染めたアキトが上がってきて、栗林の横に来て立ち止まった。ホールはたちまち称賛の声で溢れ、同時に盛大な拍手で迎えられた。
「では皆様、英雄の演説です!」
栗林は笑顔でそう言うと、胸元につけていたピンマイクを取り外し、舞台袖へ捌けようとアキトの後ろを通り、その笑顔のまま去り際に小さな声で言った。
「触れてはならないものに触れたんだ、責務を全うしろ」
アキトは下を向きながら眉間にシワを寄せ歯を食いしばると、勇敢で真っすぐな瞳を作り英雄を演出し言った。
「皆様安心してください、日本には、いや、この世界には我々が付いています」
スタッフ同士が忙しそうにすれ違うコンクリートでできた地下通路に、「すんません、すんません」と言いながらスタッフをかき分け進む、柴田の姿があった。そして、柴田は「英雄 吉川組組長アキト」と書かれた白い鉄扉のまえで立ち止まった。すると、その扉の奥からは嗚咽する声が聞こえた。
「姉貴!」
そう叫び勢いよく扉を開くと、そこには部屋の隅で弁当と箸を持つアキトの姿があった。
「あ、姉貴…心配させないでくださいよ」
アキトは慌てて何かを飲み込む動作をすると、すぐ下にあったゴミ箱へ弁当を捨て言った。
「わりぃわりぃ、腹が減っていたんだ」
「全くあなたと言う人は…。それより本題ですよ!発注してた調合魔法の瓶が事務所に大量に届いているんですよ、もう事務所の倉庫じゃいっぱいいっぱいで」
「わかったわかった。あ、たしか地下に部屋が余ってたはずだ、わかりずらい場所にあるから一緒に行こうか」
「ありがとうございます、助かります」
そう言うとその控室から二人は出て行ったが、柴田は最後まで弁当の蓋が空いていなかったことには気が付くことはなかった。
読んでくださりありがとうございました!
明日同時刻にて完結致しますので、是非読んでいってください!




