第39話 当然猫は怒り悲しんだ③
「近衛班はこの場で待機!王班、メアリー班、フレディー班はそれぞれ左右に展開し挟みこめ!」
大魔女メルクは、非常に険しい表情でそう命令した。
「ダン、佐藤、ルシーはアサルト班として先陣を切れ、いけるか?」
それぞれ大きな声で「はい」と返事をすると、大魔女メルクは続けて言った。
「私がタイミングを知らせる、それに合わせて迅速に攻撃すること、さあ散れ!」
ダンダンダンと三度衝撃波の音を響かせ、それぞれどこかへ配置につきに言った。それを見送っていたメシアムは、大魔女メルクに質問した。
「大魔女メルク様」
「なんだ」
「あの女、恐ろしいとは聞いていますが、到底そうは見えません。」
大魔女メルクは、歩いてこちらへ向かってくる音虎の方を見て言った。
「あの娘には…、まあ見てみるのが早いだろう」
そう言うと、右腕をゆっくりと上へ上げた。その合図とともに魔法使いがあの衝撃波のような音を引き連れ、音虎の方へ向かっていた。だが、その姿は一人だけしか見えなかった。
「あのバカ二人は何を…」
「そういうことだ」
メシアムが不思議そうな表情を浮かべていると、大魔女メルクはは続けて言った。
「すでに戦いは始まっている」
「は?そんな馬鹿な」
「第一、先ほど私が放ったあのベルギー式錬金魔法の槍には、一級の硬化魔法を施してあった」
それを聞いたメシアムは、今まで音虎に向けていた目とは打って変わって、恐怖と興味が入り混じった鋭い目で観察した。先ほどの魔法使いは地面を這うように猛スピードで飛んでいき、音虎の目の前に来た瞬間、地面へ衝撃波のようなものを発生させバク宙をするように浮くと、音虎の頭上を取ると杖を向け言った。
「獲った!」
魔法使いは勝ち誇ったような表情をしたが、急に青ざめた顔で硬直した。なぜか宙に浮いたまま身動きが取れなかったのだ。そのまま恐る恐る自分の横腹を見ると、左右の雑居ビルからコンクリートが針のように突き出て刺さっているのだった。
「なんで」
呼吸する間もなく無数の針が次々と魔法使いを襲い、杖を握りしめ宙に浮いたまま血を垂れ流し息絶えた。その様はまるで、蜘蛛の巣に捕まった羽虫のようだった。
「ごめんね、シマちゃんと約束したから」
するとどこからか聞き覚えのある声がした。
「この異端児がああああ!」
メシアムだった。メシアムは轟音を響かせるほどの凄まじい炎、いや、高温すぎてもはやプラズマ化してるまであるそれを身にまとい、音速に近い速度で飛び、鬼の形相で音虎へ近づいてきた。そして、音虎まであと五メートルへ近づいた時だった。
「フットオントハス!」
メシアムはそう叫びながら右腕を振りかざすと、スミレの花よりも濃い紫色の巨大な魔法陣が現れ、一秒もしないうちに魔法陣が三層に連なった。そして、その魔法陣の中央から直径一メートルはある太い火柱が放たれ、音虎の方へめがけ飛んで行った。
だが、音虎が張ったたった一枚の防御魔法でさえ貫通することはできず、川の中の岩を避ける水のように火柱は二股に裂けていた。
「なぜ祖は彼女を選ぶんだ!」
メシアムはそう叫ぶと右腕に左手を添え、震えながらも右手に魔力をより集中させていた。そのおかげか火柱の火力は上がってはいたが、鼻からは血がポタポタとこぼれていた。しかし、それだけ集中して放った火柱でさえ、たった一枚の音虎の防御魔法を貫けることはなかった。
「クッ…ソが…」
メシアムは疲弊したのか魔法を解き、浮遊したまま立ち尽くしていた。音虎はそれに気が付き防御魔法を解くと、周りのアスファルトが溶けて赤く発光し煮えたぎっていたのを見て言った。
「シマちゃん見ててね」
すると、音虎は目を閉じると、顎を少し上にあげ鼻からゆっくりと息を吸い、再び鼻から息を吐くと、ほのかに口角を上げ言った。
「久しぶり、力を貸してね」
夜が明けてきているのだろうか、空があの澄み切った青色を取り戻し始めていた。音虎は腕と肩甲骨を力強く前に押し出すと、音虎の伸長を軽く超えてしまうほどの翼が生え、それを力いっぱい広げた。その羽は道を覆いつくしてしまうほど大きく、眩しいほどの黄金の輝きを放ち、あの金色の砂のような粒が羽のあたりに漂っていた。
音虎は後ろを振り向き島田の方を確認すると、アキトに頭を支えてもらいながら仰向けになり、左手でグッチョブマークを作り笑顔でこちらを見てきたのが見え、それを見た音虎もニコリと微笑んだ。そして島田は小さな声で囁いた。
「あの娘は塩湖の…」
すると組員は言った。
「エンコ?島田さん指でも詰めるんかい?」
島田はフッと笑みをこぼし言った。
「何でもない」
読んでいただきありがとうございました!
今週は沢山投稿するつもりですので、楽しみにしていてください!




