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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第36話 猫

「殺せ!」


メシアムは魔法使いたちの方を向き声を荒げ叫んだ。


「どこの誰かか知らんがあの魔法使いは反逆者だ、もう奴は同胞ではない、容赦するな!」


次の瞬間、メシアムの右耳をかすめるようにそのあたりの空間が歪み、後ろを振り返りながらとっさに左へと退避しようとした。だが、それと同じタイミングであの地響きが再び鳴り、メシアムの右耳から血が流れ、その先にいた魔法使い一人がまたも水風船のように弾けた。


「クッソ!」


メシアムはそう吐くと、頭上を通る緑の鷹に杖を向け叫んだ。


「エスコーペータ!」


すると、メシアムの杖の先から小さくも十数個ある火球が現れ、即座に真っすぐ飛んでいき緑の鷹に

命中した。緑の鷹はそのまま地面へと落ちてゆき、地面へ落下しきる前にエミーはジャンプして転がるように着地した。


エミーは一〇九の前を走り道玄坂の入り口に入ると振り返り、すぐに態勢をを整えた。だが、すでに二十人ほどの魔法使いがエミーの周りを囲み、杖を向けていた。そして、魔法使いたちよりも少し高めに浮遊したメシアムが落ち着いた声で言った。


「貴様の所属と名を言え」


エミーは硬直したままだったため、メシアムは即座に杖を向け言った。


「エスコペータ!」

メシアムの杖から再び十数個の火球が放たれ、エミーの方へと飛んで行ったが、エミーは横へと転がったため回避することができた。


火球が着弾した痕には、弾痕の中心が熱を持っているのか黄色く発光していて、その周りのアスファルトが溶けてグツグツと煮えていた。それを見たエミーはため息をつくと吹っ切れたように言った。


「じゃっま!」


そう言いケープマントを脱ぎ地面へと叩きつけ、さらにそれを魔法使い達へ見せつけるように踏みにじっていった。


「ブリジット・エモニエ、二十二歳!エミーって呼ばれてる!」


「エモニエ、お前の家族共々儀式送りだぞ」


エミーは鼻で笑うと言った。


「ははっ、親がいなくてよかったよ」


「そうか、その方が我らも気負いなく殺せるよ」


メシアムはそう言うと、「やれ」とだけ言うと黒い虎の方へ飛んで行ってしまい、下っ端の魔法使いたちは一斉に呪文を唱え始めた。


「エリカ!」


「ララービア!」


「氷柱!」


「ジェイル!」


魔法使いたちから、火や氷、稲妻や剣など様々な魔法がエミーへ向けて放たれた結果、その周辺だけ激しく照らされ、地割れを彷彿させるような音や爆発音が連続して響き渡り、大量の白煙に包まれていた。


さすがに魔法使いたちもエミーを殺したと思ったのか手を止めたが、もう誰も魔法を使っていないのにも関わらず、魔法使いたち周辺を蛍光灯で照らしたような光で包まれていた。皆不思議に思っていると、その光は次第に緑色へと変化していき、気が付いた頃にはその空間全体が歪み始めていた。


「歪み」


あの緑の鷹に掴まれながら遥か上空にいたエミーは、両手を開き魔法使いたちの方へ向けそう言うと、何か固いものを握りつぶすように両手を握りしめた。すると、魔法使いたちがいる周りにある街灯の金属パイプでできた柱がギシギシ音を立て潰れていき、それに気が付いた魔法使いたちはあの球体の防御魔法を即座に身にまとった。


だが、次第にコンクリート製の雑居ビルでさえ壁に亀裂が入り、魔力に馬力が無かったのか一人二人と防御魔法が破壊され、そして一瞬で人だったとは思えないような肉塊へと変化し、恐怖に耐えきれず逃げようとした者は、防御魔法と浮遊魔法への魔力配分にズレが生じ、同じ肉塊へと姿を変えてしまった。


「うっそ、頑張ってるのに…!」


エミーは拳を強く握り全力を出していたが、数人ほどしか殺せていない現状に焦っていた。


「死にたく…ない」


そう呟くと、爪が手のひらに食い込み血が出てきてしまうほど強く手を握りしめた。だが、今生き残っている魔法使いたちは冷静な表情でエミーを睨みつけていて、自分との実力の差に絶望してしまった。


そのせいか魔力の供給バランスが急に不安定になってしまい、一瞬だけ「歪み」が解けてしまった。


「やばっ」


もちろん魔法使いたちはその隙を見逃すはずもなく、三度ほど破裂音が聞こえエミーは気が付いた。


「逃げられた!」


エミーはすぐに「歪み」を発動させ残りの魔法使いたちの動きを止めたが、後ろに明らかな気配を感じるとすぐに「歪み」を解除し、人差し指と親指を銜え指笛であの鷹を再び呼んだ。するとすぐ近くの建物の屋上に緑の光が集まり鷹の姿へと帰ると、滑空するようにしてエミーの方へと飛んでいった。


エミーは背を上に向けるようにしてうずくまり、鷹が自分を掴みやすいようにして待機し、左の方から羽音が聞こえすぐそこまで飛んできたことが分かった、その時だった。左耳の鼓膜が破れてしまうんじゃないかと思うくらいの爆発音がエミーを襲い、そして三メートルほど右に吹き飛ばされると状況を理解した。


すぐに体勢を整え鷹の方を見たが、そこに鷹の姿は無く、周りには浮遊した十五人ほどの魔法使いが自分に杖を向けていることに気が付き、不意に不満がこぼれた。


「私飛べないんだよ」


その時だった。黒くて赤いあの霧がエミーの背後からすさまじい勢いでやってきて、魔法使い共々飲み込んでしまった。エミーはつい恐怖から目を瞑ってしまったが、違和感を感じ恐る恐る目を開いた。


すると驚くことに、その霧が見事に自分を避けているのであった。エミーはその光景に驚いていると、強い風が吹き、一瞬にして霧が晴れた。エミーはすぐにあたりを見渡すと、翼をバサバサと扇ぎ徐々に降りてくる黒い虎の姿が見え、言った。


「君は…」


困惑していた表情は安堵した笑顔に変わり、そしてすぐに黒い虎の目を見て言った。


「これからだ、本命はあのクソ婆だ」


黒い虎はゆっくりと首を縦に振った。ところが、エミーはすぐに黒い虎様子がおかしいことに気が付いた。最初は息が荒かっただけだったが、そんなもんなのかと疑問は残りつつもそう考えたが、体からじわじわと湧き水のように噴き出してくる黒くて赤い血を見て、その疑問は確信へと変わった。


「え、大丈夫なの?なあ」


黒い虎は首を縦に振り、大魔女メルクの方を睨んだ。




 一方そのころ、アキトたちは黒い虎の現状を知らずに、黒い虎ととエミーの快進撃に勝利を確信し、喜んでいる最中だった。


「姉さんっ、勝てますよ!」


柴田がそう言うとアキトは笑顔で言った。


「ああ!あの野郎心配させやがって、なあ音虎チャン!」


アキトはそう言い音虎の方を見たが、無機質で、そしてどこか悲しそうな表情で、黒い虎がいるであろう方を眺めていた。アキトは最初はそれが不思議だったが、すぐにあること思い出し、アキトは喜んでいた自分が嫌になった。


その時だった。斜め右の奥の方にある雑居ビルが砕け破片が上空へ舞い、それに気が付いたのも束の間、同じ方向にある手前の雑居ビルを黒い何かが突き破って飛んできて、音虎の目の前まで落ちてきて転がった。


「シマちゃん…」


音虎の妙に低いトーンの声が、組員たちの喜びの声を黙らせた。


読んでいただきありがとうございました!!

引き続きよろしくお願いします!

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