表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
35/44

第35話 罪悪感と猫

 黒い虎は、男女二人の魔法使いを睨み雄叫びを上げた。その二人の魔法使いはその凄まじい雄叫びに怖気づき、男の魔法使いはいったん距離を置こうと高く飛ぼうと腰を低くした。


だが、もうその時には大きく口を開いた黒い虎が腰のところまで来ていて、「へ」と抜けた声で言った瞬間口は閉じ、腹のあたりから噛み千切られてしまった。それを見ていた女の魔法使いは口と目を開き驚いていたが、すぐに眉間にシワを寄せ叫んだ。


「斎川ああああ!」


そしてすぐさま杖を黒い虎に向け言った。


「ララービア!」


するとその杖の先が赤く光り、そこから細くて黄色に近いような赤い炎が黒い虎めがけて飛んでいき、黒い虎の目の前で十数個に広った。そして広がった細い炎が大量の火の粉へと変化すると拡散し、黒い虎をまんべんなく包み込むと火の粉一つ一つが白く発光した。


すると火の粉のそれぞれが爆発し、あたりを白く照らした。女の魔法使いは冷や汗を頬から垂らしながら、爆発するそれを注視していた。そして爆発が止み、充満する煙の先に目を凝らしていると、そこには虫一つないことに気が付いた。


その瞬間、後ろからすさまじい殺意を感じ振り返ったが、それと同時に黒い虎が女の魔法使いの首元に爪を立てていた。この時お互いに目が合っていたが、黒い虎はお構いなしにその女の魔法使いの首を刎ねた。女の魔法使いは首から血を吹き出しながら落ちてゆき、下半身の無い男の魔法使いの横に顔を合わせるようにして力尽きた。


「大魔女メルク様!もう私が行ってもよろしいでしょうか、私ならあんな魔獣一匹」


メシアムは焦った様子で大魔女メルクへ訴えたが、沈黙を貫いたまま無視されてしまった。


仕方なくメシアムは他の魔法使い四人に命令し黒い虎の方へと向かわせた。今度は広く間隔をあけた陣形を取り、黒い虎に一番近かった魔法使いが杖を向け叫んだ。


「バイロン!」


するとその魔法使いの杖の先から白い稲妻がバチバチと音を立て弾けたかと思うと、漢字で書かれた白い魔法陣が現れた。そして魔法陣から鋭利で糸のように細い白い稲妻が、龍のようなものとなり黒い虎へと飛び込んでいった。


だが、軽々とそれをかわし黒い虎の真上を通った先頭の魔法使いの足に飛びついて噛みつき、下へ落下しながら空中から引きずり込んだ。さらに地面へ着地した瞬間、足を強く噛んだまま首を横へ振り、その勢いで足を食いちぎった。


魔法使いは勢い余りそのまま雑居ビルの壁へと飛んでいくと、まるでトマトを壁に叩きつけたかのように弾けた。そんな光景をみた残り三人の魔法使いたちは、恐れる暇などなく死に物狂いで奮闘していた。


すると、そんな様子を見ていた大魔女メルクは、革製の細いホルスターから杖を取り出すと、それを黒い虎と奮闘する魔法使いの方へと向け、言った。


「それは女王陛下のために」


メシアムは目を大きく見開きひどく驚いた表情で大魔女メルクの方を見ると、すぐに空を見上げた。するとそこには渋谷を包み込んでしまうほどの、万は超えるであろう大量の槍が一秒もせず現れ、さらにそれが何層にも増えていった。


「そして私のために」


大魔女メルクがそう言うと、上空にあった槍全てが黒い虎の方を向き、一斉に飛んで行った。黒い虎はその槍にすぐに気が付き退避しようとしたが、凄まじい勢いで向かってくる槍に魔法使い共々なすすべなく串刺しにされた。


魔法使いたちは何が起きたのかわかっていなかったのか、銛に刺された魚のように暴れていたが、すぐに動かなくなった。一方、さすがに黒い虎でも百は超えるであろう槍は致命傷だったのか、うずくまってしまっていた。ちょうどその様子を見ていたアキトたちは、絶望からか真っ青な顔をして黒い虎を眺めていた。


「おいまじかよ…シマちゃんが」


自分たちが戦おうとしていた敵が、島田が身を削ってまで対抗しているのにも関わらず敵わないと知り、その強大な力に絶望していた。


「音虎チャン逃げよう、せめて音虎チャンだけでも」


慌ててそう言うアキトとは裏腹に、音虎は真っすぐな瞳でただ黒い虎を見つめていた。


「音虎チャン!」


「まって、わかってる」


音虎は黒い虎から目を放そうとはしなかった。アキトはこんな状況であるにも関わらず島田を信じるその音虎の姿を見て、自分をひどく軽蔑した。そしてその軽蔑を辞めようと黒い虎の方へと目をやったが、死んだ虫のように包まって背中に大量の槍が刺さっているその情景からは、まったくと言っていいほど希望の希の字すら連想させなかった。


そして再びアキトは音虎の方を向いた。だが、音虎の一片の曇りなき眼はいまだに黒い虎の方へと向いていて、愛はここまで人を狂わせてしまうのかと恐怖さえ感じていた。


「音虎…チャン」


アキトは恐る恐る口を開き音虎に声をかけた、その時だった。


「生きてる!」


音虎がそう叫んだためアキトはとっさに黒い虎の方を見た。すると、明らかに弱ってはいるものの、何とか立ち上がる黒い虎の姿がそこにはあった。


「シマちゃーん!戦えーー!」


先ほどあれだけ叫んで声が嗄れたというのに、いったいどこにそんな余力があるのか、アキトにはわからなかった。だがその声が届いたのか、黒い虎は返事をするように雄たけびを上げた。すると黒い虎は体を震わせていた。


一同何をしているのかわかっていなかったが、黒い虎が大きく震えた瞬間、右肩から霧状の黒い大量の血が噴き出て、それらが集まり霧状の翼となった。そこでようやく何かをしようとしていることが分かったが、それは敵も同じなようで、下っ端の魔法使いが杖を上えと振り上げた。


「シマちゃん、上!」


音虎がそう叫んだ瞬間だった。音虎たちの頭上から魔法使い達の方まで、衝撃波のように空間が歪んだ何かが通り過ぎて言ったかと思うと、耳元で和太鼓を叩かれたような地響きとともに、その先にいた魔法使いたちの内三人が水風船のように弾けたのが見えた。


「リベフティ?」


音虎はそう呟きながら頭上を見上げると、ちょうど音虎の真上には、全長三メートルはあるであろう、ちょうど水仙の葉のように深い緑の羽を身にまとった鷹が飛んでいた。


さらにその鷹の背中にケープマントのフードで顔を隠した魔法使いが乗っていて、その人らはそのまま魔法使いたちの方へと飛んで行ってしまった。アキトたちはどうして魔法使いが味方をするのか困惑していたが、偶然風でフードが風でなびき、銀髪の髪が少しだけフードから出たのを音虎は見逃していなかった。


「エミー!」


音虎は驚きつつも笑顔で言った。


「音虎チャン、エミーって誰や」


組員の一人が聞いた。


「ブリジット・エモニエ、私の親友です!」


音虎はそう言い魔法使いたちの方へと向かうエミーの背中を見て、笑顔で言った。


「伝わったよ、エミー」


そして、エミーが黒い虎へ追いついたころ黒い虎の背中には、黒くて赤い、そして禍々しい霧状の両翼を大きく広げていた。




読んでくださりありがとうございました!

そろそろラストスパートに突入するので、楽しみにしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ