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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
33/44

第33話 戦と猫

 その虎が発した雄たけびは衝撃波のようなものとなり、街の建物のガラスを次々と破壊していき魔法使いたちの所へとたどり着くと、下っ端の魔法使いたちを恐怖へといざなった。すると、まったく恐れた様子を見せていないメシアムは、先ほど私語をしていた二人の魔法使いに命令した。


「斎川、セレーナ、行け」


その二人はお互い目を合わせると、元気のある声で返事をしてその虎の方へとすぐに飛んで行ってしまった。そんな様子を見ていた大魔女メルクは、眉間にシワを寄せながら言った。


「あれは実力だけはあるんだ」


「はい」


「生きて帰ってくると信じよう」


「はい」


メシアムは腕を後ろに回し左腕を右腕で掴み、足を綺麗にそろえながら二人が飛んで行く方を睨んだ。




 「あれがシマちゃん…なのか」


アキトたちは建物の陰に隠れながら、黒い虎の方を見て言った。


「別に今頃なんだって話だが、魔法は存在したんだな」


アキトは五ミリほど口を開いて言っていたが、アキトが黒い虎に向けている目は驚いた目ではなく、人を愛する気持ちが生んだそれに対し、同情と敬意を表しているように見えた。


「シマちゃん!」


音虎はそう叫ぶと、道路のど真ん中に立つその黒い虎へと走って近づいた。その黒い虎はすぐに音虎の方へと目を向けると、音虎はその黒い毛に優しく触れ言った。


「時間がないの。恐らくその個体なら五分は余裕で戦えるけど、全てフルパワーで戦えるわけじゃない。」


その黒い虎は頷いた。


「さあ、行って!」


音虎がそう言うと黒い虎は、振り返る素振りさえ見せずに、魔法使いたちの方へと走って行ってしまった。そんな様子を見ていた柴田は、ふらつきながらも音虎に言った。


「もう魔法は使えるんじゃないか?」


別に特別大きな声でもなかったが、音虎は聞こえていないフリをしているのか、無言でただ黒い虎のことを見つめているだけだった。様子を見ていた組員たちはそんな音虎を不思議に思ったが、それはアキトも同様だった。


するとアキトは、柴田よりも声を出して再び音虎に質問した。


「なぜ魔法を使わないんだ、音虎チャンっ」


音虎は反射的にアキトの方を見てしまったが、すぐに黒い虎の方を向き叫んだ。


「頑張れー!シマちゃーーーん!」


最初はなぜ音虎が叫んだのかアキトはわからなかったが、音虎の立場やこの現状、島田の行動が頭をよぎり、ハッとしたような顔をすると、自分も音虎の所へ歩いて行き音虎と一緒に叫んだ。


「頑張れーー!」


二人の声はすでに枯れていたが、それでも声を絞り出そうと乾いた声で続けて叫んだ。しかしそんな声で叫んだところで、その黒い虎には聞こえてはいないのは明確だった。だが、音虎が島田を想い続けるためには、音虎が島田を愛するがゆえに、そうするしかなかったのだ。





 その黒い虎が大魔女メルクのところまで五十メートルといったところまで近づいたとき、十数本の槍が黒い虎の目の前の地面に刺さり、大きく一歩下がった。その虎は槍が飛んできた方を見ると、二人の魔法使いが飛んでいるのに気が付き、口を大きく開きながらすかさず飛びついた。


しかし二人は横へすぐに退避してしまい、布一枚も噛み千切れなかった。黒い虎はそのまま地面へ着地したが、一人の魔法使いが叫んだ。


「ジェイル!」


そう叫び枝のような杖を降ろすと、その杖の先から赤い稲妻が黒い虎めがけて飛んで行った。だが、黒い虎もすかさず後ろへ退避したため間一髪でよけることができた。


「ジェイル!」


「氷柱!」


魔法使いは休む暇を与えたくないのか、続けて魔法を使った。すると、虎の周りを巨大な氷の壁が現れて囲い、身動きが取れなくなった黒い虎めがけ赤い稲妻が飛んで行った。


さすがに避けられなかったのか、着弾の瞬間爆発音とともに赤い稲妻は放電した。そのあたりには砂埃が立ち込めていて、生死がわからず魔法使いは一旦魔法を使うのを止め、その砂埃の方を注視した。


しばらくは何の音もしなかったため魔法使いは勝利を確信したが、すぐに凄まじい重低音のガラガラとした雄たけびが周りを振動させ、その雄たけびの風圧で砂埃は飛んでいった。しかし、その黒い虎の左肩は激しく損傷していて、沸騰した黒く赤い血がぼたぼたと地面へと垂れていた。


それを見た魔法使いは勝ち誇った笑顔になり、その黒い虎の方を見て女性の魔法使いは言った。


「呪いのために生贄にされたただの魔獣だ、たかがそんな肉体で何ができる」


黒い虎はその魔法使いを睨んだが、奥に大魔女メルクの姿が見えると、先ほどまで灰色だった目は海のような深い青色へと変化した。


読んでくださりありがとうっちゅっ!

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