第32話 猫と猫
一人の組員は建物に背をつけ、拳銃だけを建物から出すようにして三発発砲した。そして、一瞬だけ顔を出すと大きな声で言った。
「姉さん!二人がこっちへ来るぞ!」
「あーもうっ」
アキトはそう言うとズボンのポケットから二つの瓶を取り出し、それを魔法使いの方へと高く投げた。だが幸いにも、魔法使いは落ちてくる瓶に気が付いている様子はなく、そのままアキトに杖を向けた。
しかし杖の先には銃口を向けたアキトがいて、汗が目じりをたどり顎へと流れ、その汗が落ちた瞬間に発砲した。その銃口から放たれたペレットは半径十センチに広がり瓶めがけ飛んでいき、そのうちの三つが瓶を貫いた。
その瞬間、建物を塞いでしまうほどの針に覆われた球体が現れ、そのうちの一本の針がアキトのまつ毛に触れていた。もちろん魔法使いは串刺しになっていて、うち一人は顔を貫かれ、一体どこの誰なのかわからないありさまだった。
そして、腹を貫かれ悶絶していた女の魔法使いは必死にもがいていて、体を動かし何とか地面へと落ちると、そこには銃口を向けたアキトがいた。それに気が付いた魔法使いはとっさに作り笑いをして、枯れた声で笑った。
「すまんな」
アキトはそう言うと引き金を引いた。そして銃身を折り手で紙製の赤いショットシェルを抜き、新たに二発装填すると銃身を元に戻し、銃口に付いた血を指で拭った。
「え、私何もしてないよ?」
アキトが振り返ると、さっきまで意識が朦朧としていた音虎が目をカッと開き、何か感づいたのか島田を腕をつかんでいた。
「いいか、なんて言ったらいいのかわからないが、俺は音虎に感謝しているんだ」
「やめて」
「自分は誰かに対して素直になれないって本当はわかっていたのに、嘘で自分を肯定する」
「やめてシマちゃん!」
やはり体が治ったわけではないからなのか、音虎は腰を引きずりながら後退して島田から離れようとしていた。しかし、島田は音虎の両腕を強く掴み、音虎を逃がそうとはしなかった。
「俺はそう言うクズなんだ、嘘つきなんだ」
「そんなことない!放してよ!」
涙を流し必死に抵抗をする音虎だったが、島田は涙で溢れた音虎の目をしっかりと見つめ、話を続けた。
「でも、音虎を見ていると俺の嘘なんかじゃ隠せない沢山の想いで溢れて」
「私だって、シマちゃんが大好きだし、沢山救われたんだよ。だから」
「頼む!」
島田は音虎の話を遮るように言うと、震えたため息を吐き、歯を食いしばり、ゆっくりと優しい声で言った。
「聞いてくれ…」
音虎は肯定も否定もできず、口をゆっくりと開け、過呼吸のように呼吸しているだけだった。
「まず、これは誰のせいでもない。これから何が起きようとも自分を責めないでくれ」
音虎は込み上げてくる涙に必死に抵抗するも、涙は次々とこぼれ、必死に首を横に振った。
「それと、俺のことはたまにでも思い出してくれれば、それでいい。それでいいから、幸せになってくれ」
「シマちゃんがいな」
「もう過去の痛みに酔いつぶれるな、頼むから自分で自分の足元を暗くするような真似はしないでくれ」
島田は音虎の目をじっと見つめながら、瞬きもせずに続けた。
「楽しかった。俺は音虎といるだけで楽しかったし、音虎の瞳、声、風になびく髪、瞬きでさえ俺の心は奪われていたんだ。だから自分に自信を持ってくれ、つまり、その」
「お願いシマちゃん」
音虎は島田の目だけを見つめていた。
「だから…」
島田はそう言うと下を向き、今にも泣きだし嗚咽しそうな声で言った。
「愛してる」
島田はそう言うと音虎の肩に手を置き、音虎の顔にゆっくりと近づいて、目を閉じながら音虎の唇に自分の唇をそっと添えた。音虎は最初は突き放そうとしたが、これを逃したらもう二度と島田に会えないかもしれないと思い、島田のうなじに両腕を絡ませ、島田を引き寄せ、力強く抱きしめた。
音虎はそのまま島田の唇を食べるように甘く噛み、島田の味、記憶、唇の弾力、そこからとれる情報すべてを脳裏に焼き付けた。すると、音虎の胸のあたりから青い光が発生し、それが島田と音虎を繋ぐ唇を通し島田へと引き渡された。
次の瞬間、島田の胸に移動した青い光が強くなり、それに気が付いた島田は力強く絡まった音虎の腕を無理やりほどき、魔法使いたちがいる一〇九の方へと走り出した。その際、音虎は何かを叫んでいたようだったが、島田には聞こえていなかった、いや、聞こえていないふりをしてそのまま走りだした。
「いっけーー!シマちゃーーーん!」
その声は、声帯を今にも破壊しそうな、愛を具現化したような声だった。
一方、魔法使いたちは浮遊したまま談笑を楽しんでいるようだった。
「なんかこんな兵を集める必要あったのかな」
女性の魔法使いは笑いながら言った。
「確かにっ、でもあいつら威勢だけは百人分だからね」
「はははっ、やめろよ、俺が殺したやつめっちゃ悔しそうだったからジワるわ」
そんな下っ端たちの会話を聞いていたメシアムは、隣に立っていた大魔女メルクに向かって言った。
「黙らせますか?」
大魔女メルクは重そうにしていた瞼をめんどくさそうに開き、ため息交じりの声で言った。
「そうしたいところだが、そうやって恐怖による教育を行い、その結果があの女だ」
「ですがそれでは、組織がたるんでしまう原因にもなってしまうのでは」
「ああ、だからあの二人をこれから前にだして間引く」
メシアムは一瞬納得をしたような表情を見せたが、すぐに眉毛を八の字にして大魔女メルクに疑問を投げかけた。
「でも、あいつら弱いし、数ももういないじゃないですか。私たちもここにいるからには実力もありますし、普通に殺して戻ってきてしまうんじゃ」
「お前でもまだ見えないのか」
メシアムは不思議そうな顔をしていると、大魔女メルクが遠くを見ていることに気が付き、その目線の先へと目線を向けた。しかし、何も見えなかった。
「申し訳ありません大魔女メルク様。私には何をおっしゃられているか」
その瞬間、先ほどまで島田たちがいたところに、凄まじく光り輝き、そしておぞましくもある青い光が広範囲に広がり、その周辺を不気味に彩っていた。すると、大魔女メルクは指を指して言った。
「私があの娘にかけた呪いが解けたようだね」
メシアムの表情はすぐに焦りで襲われ、後ろへ振り返ると腕を開きながら大きく息を吸い、声を上げて他の魔法使いたちへと声をかけた。
「できるだけ生き残れ!手柄など今だけは忘れ、どんな姑息な手でも使って生き残れ。さもなければ全滅だ!」
すると、原子力発電の原子炉が起動したときのような音と光がメシアムの背中を照らし、メシアムはすぐに振り返りそちらの方へと目をやった。
するとその先には、ツヤのある黒い毛を逆立て、灰色の目を持つ、大型トラックをも超える大きさの虎が道路のど真ん中に立っていた。その虎は、口と鼻、そして目と肌からぼたぼたと血を流していて、喉を震わせてしまうくらいの血の混じった吐息を吐いていた。
それはまるで、人が持つにはあまりに重すぎる怒りを刃に変え、それを今にも振りかざそうという、強い意志のあらわれであるように思わせた。すると、そのの虎は涙を目に浮かべ、目から流れる血と混じり地面へを雫が落ち、ゆっくりとその雫の方へ目をやり見つめた。
そしてすぐに、和太鼓のような心臓を揺らす、低く大きな雄たけびを上げた。
急いで書いたので、いつも以上に文章おかしいかもしれません、ごめんなさい!
それでも読んでくださり、ありがとうございました!




