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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第3話 遠くの猫

 島田は気が付くと空にいた。そのことに気が付くと、急いで足元を見たが、そこには素足に揺れた波紋が見えた。そして周りを見ると、水平線に沿って空が地面に反転していた。


その空は透き通った青い空で、ちぎった綿菓子のような雲が散らばっていた。どうやら俺は空中にいるのではなく、確かこれは前に写真か何かで見た気がする、確かウユニ塩湖とかいうやつだ、そう島田は考えた。


「美しいな…」


島田は思わず口に出てしまったが、本当に綺麗な景色だった。島田はここに来たこともなく、行こうとしたことすらなかったが、そんな自分を初めて後悔した。しかしここは本当にウユニ塩湖なのか疑問に感じてきた。なぜなら島田の周辺に車一台も見えず、ガイドさんすら見えず、どうやってここに来たのかが説明できなかったからだ。


そんなことを思いながら周りを見渡していると、遠くに何か動くものが見えた。よく目を凝らし見てみると、そこには白馬がいた、それも何頭もだ。その白馬たちは水しぶきをあげながら、反射する日の出の方へと向かい駆けていった。


そんな光景に見とれていると、黒く輝いた長い髪に、白いワンピースを着た一人の少女が俺の左にいた。島田はなぜか顔の方を見てもぼやけてしまい、誰なのか確認することができなかったが、あまり気にならなかった。


何よりここはウユニ塩湖であっているのか、それとも天国にでも来てしまったのか、島田はその少女に聞こうとした、その時だった。その少女は島田の前を横切るように歩いてきて、いきなり島田の方へ振り返った。


この子は一人でこんなところにいて大丈夫なのか?なんて考えていると、その少女は白金の大きな翼を開いた。その羽は少女の何倍もあり島田を包み込んだ、そして少女は島田に近づきこう言った。


「行きましょう」


不思議と声は聞こえなかったが、そう言っていることだけはわかった。そして少女は島田の手を引っ張り、日の出の方へと走り出した。その足はまるで止まることを知らない、と言わんばかりにどんどん加速していき、左右後ろからは白馬の群れが島田を追い越し先導しているように見えた。


そして日の出の方へと近づくと、さっきの少女は島田の頬にキスをし、背中をトンと押してくれた。




 島田ははじかれるように飛び起き、慌てて周りを見渡すとすべてを思い出した。金属製の机の上にはノートパソコンが置いてあり、中には提出期限が十二月二十日までの論文があった。島田は慌ててパソコンのカレンダーを見ると、十二月十三日と表示されていた。


「さっきのは夢だったのか」


さっきまでの幻想的な世界とは違い、この薄暗い研究室と提出期限間近の論文という現実の落差に落ち込みながら、島田はキーボードに手を置き作業を始めた。そして三時間ほど時間がたつと、ようやくキリがいいところに差し掛かった、そんな時だった。


画面が突然フリーズしたかと思うと、すぐに暗転した。すぐにパソコンの側面を見ると、受電コードが抜けていて、その瞬間頭が真っ白になった。島田は一度集中すると手を止められない人間で、もちろんこまめな保存などしていないことは分かってた。


すると、今にも爆発しそうにな怒りが徐々に湧いてきて、思わず発狂してしまいそうなことに気が付き、大きく深呼吸をした。島田は気分転換のコーヒーを入れるために、ビーカーに水を入れ、実験用のホコリをかぶったアルコールランプで、お湯を沸かし始めた。


お湯が沸くまでの間は、とりあえず揺れる火を眺めていることにした。島田は子供の頃から火を眺めるのが大好きで、落ち込んだ時は家のコンロの火を勝手につけて眺めていたもんだから、よく危ないと母親に叱られていた。


そんなことを思い出していると、お湯が沸騰して溢れそうになっていた。島田は急いで火を消し、お気に入りの猫のイラストが入ったマグカップを机の引き出しから取り出し、インスタントコーヒーの粉とお湯を注いだ。


そんなことをしていると、自然に怒りだけは沈み始めていた。そのおかげか、この長時間で初めて今の時間が気になった。島田は時計を見てみると「三時十二分」と針がさしていて、ふと窓を見てみると少し明るい夜空が見えた。


「都会の夜空はあまり綺麗じゃないな」


田舎出身の俺にはそう感じた。でも夜空には変わりないし、不思議と外の空気が吸いたくなってきた。よく考えてみたら、この時間は天文サークルのために、屋上を開放していたよな。島田はそれに気が付くと、マグカップ片手に屋上へ向かった。


この大学は最上階まではエレベーターがあるが、そこから屋上へは階段を上らなくてはならない。いつも島田はこの階段ですら上るのが嫌で、屋上には一度も行ったことがない。そんな俺が苦も無くこの階段を登れるのは相当疲れてるな、とそんなことを考えていると、屋上まではあっというまだった。


扉には「天文サークルの関係者以外立ち入り禁止」と書かれたボードが、ドアノブにかけてあったが島田は気にせず進んだ。ドアを開けると冷たい風が一気に吹き込み、持ってるコーヒーを凍らせるかと思わせた。


しかしそんなことがどうでもよくなるほど、そこには絶景が広がっていた。地球の裏側まで続いているんじゃないかと思わせる無数のビルに、我こそはと主張しているかのような背の高いビルがぽつぽつとあった。


そして、それらの窓から漏れた無数の光は、とても汚く綺麗だった。なぜなら、こんな時間にもかかわらず照明が付いているということは、誰かがまだ仕事をしているという現代社会の汚さが見えるし、それでも目に見える情報は綺麗だと訴えてくる。複雑な気持ちだ。


そして夜空はどこまでも広がっていて、都会の明かりに負けずと輝き続ける星々は、その疲れた心によく沁みた。そして屋上の鉄柵に肘を置き、ちょうどいい温度になったコーヒーを一口飲んだ。




 島田は夜景に見とれて、感傷に浸っていた。頬をかすめる冷たい風や、かじかんだ指先の痛み、パトロールをするパトカーの赤い光、それらすべてが心地よく感じた。そんなことをしていると、少し遠くに何か光るものが見えた。


最初はハイビームにした車のライトがこっちに向いただけだと思っていたが、ビルの屋上の方から見えたものだから少し注視した。もしかしたら奥にいた車の光が錯覚でそう見えただけかもしれない、と思ったからだ。


すると島田の口は少しずつひらいていき、足は自然とビルの方を向き歩き出した。次第に足は速くなっていき、それが見える方の鉄柵へ駆け寄った。それは車のライトみたいな安いものじゃなく、細かく繊細な無数の黄金色の光が空中に舞っていて、その中心には人影が見えた。


さっきまでは心地よかった都会の景色も今ではどうでもよくて、今目の前で起きている非科学的なこの出来事に、島田は目を離すことなどできなかった。そしてその光の粒は、次第に鼈甲飴のような輝きを放つ小さな蝶になり、その人を中心に渦を巻いて飛び回っていた。


そしてその人が両手を下から上へと手を広げると、それに合わせるように蝶たちは空へと羽ばたいていった。それはまるで、鳥かごに入れた白いハトを空へと放つようで、とても美しかった。


そしてその蝶たちは、だんだん砂のように崩れていき、空高く舞って消えていった。その蝶たちが残した光の砂は夜空にしばらく残り、時間が経つとともに消えていった。


島田は幽霊や死後の世界なんて信じていないし、ましてや魔法のような非科学的なものは全く信じてなどいなかった。でもこんなものを、島田はなんて説明すればいいのかわからなかった。それは花火とかでは到底かたずけられない出来事だったからだ。


いや、そんなことはもうどうでもいい、あの美しい何かをもっと見せてほしい、今はただそれだけだ。そんなことを島田は思うと、ポケットにあったスマホを取り出しライトをつけると、その人がいる方向へ向け、スマホを大きく扇を描くように振った


読んでくれてありがとうございました!よろしければ是非とも評価のほう、お願いいたします!

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