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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第29話 だが奴らはその愛を砕こうとした②

 「ああああ、熱い!熱い!痛い!」


もがき苦しむ組員はボンネットの上で転がり、音虎の横へとずり落ちると動かなくなった。

音虎はその組員から目を離せず、硬直したままつぶやいた。


「…英ちゃん」


すると、四、五人の組員たちが魔法使いへと銃を向け発砲した。しかし、空中を不規則に飛ぶ物体に弾を当てるのは至難の業で、魔法使いが近づくにつれ一人、そしてまた一人と倒れ、そして燃え上がっていった。


しかし、アキトは音虎の目を見つめたまま動こうとはせず、音虎も、パチパチと音を立て燃える、最初に看病した組員から目を離せずにいた。そして、魔法使いがアキトの横をすごいスピードで通り過ぎると、アキトはようやく立ち上がり、トラックに立てかけておいた上下二連散弾銃を手に取り、二発発砲した。


すると、見事に魔法使い一人に命中し、旋回してきたもう一人の魔法使いにも命中させた。すると、最後の一人は勢いが余っていたせいか、アキトの目の前まで何度かバウンドして転がってきた。よく見るとその魔法使いは女性で、顔半分はえぐれ、薬指にはシルバーの指輪がはめてあった。


そして、アキトはそれに気が付くととても嫌そうな顔をするも、すぐに音虎の目の前に膝をつき、音虎の両頬を押さえると無理やりアキトの方へと顔を動かした。するとようやく音虎は組員から目を離すことができて、静かに涙がこぼれだした。しかし、アキトは音虎の涙を手で拭い言った。


「こういうことなんだ、踏みにじるな」


音虎はぬぐってもこぼれてくる涙を拭いながら何度もうなずき、横にあった島田のリュックサックから瓶を三つ取り出し、二つは両ポケットへしまい立ち上がり、アキトを見て言った。


「もう泣かない」


しかし、音虎の目からはまだ涙が溢れこぼれていたが、アキトは「わかった」と返事をした。すると、後ろから組員数人を連れた島田が走ってきた。


「アキト、こいつらを借りてもいいか」


「ああ、それはいいが、何か策でもあるのか?」


「あいつらおそらく俺を狙ってくるだろ、だから俺が囮になるから背後を取ってくれ」


「ありきたりな策だけど、何もしないよりはましだな。」


そう言うと、アキトは周りを見て言った。


「おい!何人生きてる?」


すると、物陰から射撃していた男がアキトを見て言った。


「ざっと十五人や」


すると、左からその男めがけて、氷柱のようなものが飛んできてこめかみを貫き、血に染まった氷柱が地面へと転がり、すぐに溶けると、ほのかに赤い小さな水たまりができた。


「十四人か、シマちゃん何人必要だ」


「二人いればいい、茂木がいるとありがたい」


「よし、お前ら二人一組になって散らばれ!シマちゃんが囮になるから、できるだけ背後を取って攻撃しろ」


アキトの指示を聞いた組員たちはすぐにペアを作り、すぐに街へと散らばった。それを確認した島田は、茂木というスキンヘッドで筋肉質な中年組員と、金髪で坊主頭の柴田という若い組員に指示を出した。


「俺たちは文化村通りに行って、電気屋の前に簡単なバリケードを作り、籠城する。もし一時的に非難するなら、見ろ、電気屋の右に狭そうな隙間があるから、まず退避用としてドアを蹴り破れ、バリケードはそれからだ」


「おうっ、任せな」


茂木はそう言うと、ミニミ軽機関銃を手に先に突っ走りドアを突き破り、ビルとビルの隙間に隠れた。


「さすが茂木っさんだな、そう言えば君は柴田って言ったな」


「はい…、島田さん覚えてらっしゃいますか?」


「え?」


島田は柴田の顔をよく見ると、以前引っ越しの時島田の事を小ばかにしたチンピラ組員だった。


「ああ、あの時の!」


「はい!あの時のご無礼、心から反省しています。」


「まったく気にしてないよ、何ならこんなことに巻き込んですまない」


「いえ、私はあの時の島田さんの恩を返せるのは今しかないと、奮起しております」


「そうか、頼んだぞ」


「はい!」


柴田はそう元気よく返事をすると、マカロフと言う拳銃を片手に茂木の方へと走っていった。そして、無事に柴田が茂木のところまでたどり着いたのを島田は見届けると、後ろへ振り返り音虎に言った。


「音虎、今言った通り俺が囮になるから、アキトから離れるんじゃないぞ」


「うん、シマちゃんが死んだら私も死ぬからね」


音虎は死なないでと言ったつもりだったが、島田にはいつも通りの音虎のメンヘラ発言にとらえてしまったのか、笑いながら言った。


「はいはい」


島田はそう言うと、茂木がいるところへ向かおうと少し前に出て、タイミングを見計らっていた。すると、音虎島田のもとへ走り、アキトが軽く止めようとするも振り切り、島田の服を強く掴み言った。


「まって」


島田は周りを警戒しているのか、音虎に顔を見せずに言った。


「どうした」


すると、まるで真冬の用水路で凍えている猫のような、今にも息絶えそうな震えた声で言った。


「もう一回だけ」


その声を聞いた島田の心臓は、音虎だけを見ろと脳へと強く訴え、島田の目線を無理やり音虎の方へと向けさせた。そして島田と目が合った音虎は涙目になるも、腕で強く目をこすり涙を拭い、音虎が滅多に見せることのない強くたくましくて優しい目で島田を見つめ言った。


「もう一度ハグして」


「また…こんな時に」


「して」


島田は目線をスッと足元へ向けると、すぐに音虎の目を見つめながら近づいて、音虎を力ずよく抱きしめた。すると、茂木が叫んだ。


「島田さんはよお!何人もこっちへきちょる!」


組員たちが撃ち続ける軽機関銃の連続した銃撃音が島田と音虎の耳を激しく突き刺してきたが、二人にそんなものは聞こえてすらいなかった。聞こえていたのはお互いの心臓の音、吐息、服と服がこすれあう音、そしてお互いの声だけだった。


「ごめんね、こんな時に」


「大丈夫だ、今なら音虎の気持ちがわかったよ、俺もハグしたくなった」

「やめてよ…。でも、絶対またハグしようね」


「あぁ」


「絶対、次ハグするときは二度と離れないから」


「ははっ、そりゃめんどくさいな」


そして、軽機関銃の弾がなくなりリロードに入ったころ、二人は互いを見つめたままゆっくりと離れ、島田は音虎を見つめたまま後ろ向きで歩き、少しずつ早歩きになっていった。


そして、島田はようやく背を向け走り出すも、何度も振り返り音虎の姿を目に焼き付けていた。そして、音虎に背を向け駆け足で組員たちの方へと走って向かい、今度は一度も振り返らずに調合魔法の瓶を一〇九の方からくる魔法使いめがけて投げた。


その瞬間、島田めがけて三つの大きな氷柱が飛んでくるも、二つは外れ一つは肩の上をかすめるだけで、茂木たちの所へと滑り込み無事たどり着いた。



読んでくださりありがとうございます!

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