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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第26話 苦と猫

 「え?」


音虎は口を小さく開け、パンチパーマの組員の目を見た。


「いや、間違えてたらすまねぇが、少しやつれているように見えてな。」


音虎は床に両膝をつき目線を床へ落して言った。


「よくわかったね」


組員はベットの上で起き上がったまま、音虎の方へ体を少しずらして言った。


「島田さんか」


音虎は目線を落したまま静かに頷いた。


「島田さんがどうしたんだ」


「勘違いかもしれないけど、私に冷たくなった気がするの」


「例えば?」


「私が腕を切ってるところにシマちゃんが入ってきたんだけど、何も言わずに部屋を出て言ったの」

組員は少し笑いながら言った。


「それはなんて言えばいいのかわからなかっただけなんやないのか?」


「違う!それ以外にも沢山あるの!」


「わかったわかった」


組員はそう言い少し考えると、音虎に提案をした。


「聞いたくせにあれやが、ワシよりアキトの方が力になれるだろうな。ちょっと聞いてくるわ」


そう言い組員はベットから出ようとしたが、音虎は自分で行くと言いなだめ部屋を後にした。アキトの部屋は音虎の部屋の横にあったため、またエレベーターに乗り込み一階へと降り、アキトの部屋の扉をノックした。


「アキトさん、いいですか?」


「おーう、音虎チャンかおいでー」


アキトの返事を確認した音虎はドアを開け部屋に入りゆっくりとドアを閉じると、ドアに寄りかかり足元を見ながら言った。


「アキトさん、さっそくで悪いんですが相談に乗ってくれますか?」


「おう!なんでも言いな」


アキトが普段通りの声量で言ったせいか、音虎は人差し指を口に当てるジェスチャーをし、アキトが縦に頷くのを確認すると音虎は続けた。


「最近シマちゃんが私に冷たいんです」


「えーあいつが?音虎チャンの勘違いとかは?」


「ありえないです」


アキトは古びたデスクチェアに座り、座ったまま窓の方へ行きカーテンを開きしばらく唸りながら考えた。そして、左の腕で肘を肘をつきながら話を始めた。


「あいつああ見えても結構いろんなこと考えてるのよな」


「え?」


「あいつ昔から研究ばっかしで、初めて出会ったときは冷たそうな人間だと思ってたんだ、でも情に厚くて、以外に繊細だったり。」


「それは私もよく知ってます」


「ただな、あいつやり方が不器用だから勘違いされやすいんだ。音虎チャンも薄々わかってるんじゃないか?」


音虎は頷いた。


「だからまだわかんないけど、何かあいつなりに何かあるのかもしれん、私がちょっと話を聞いてくる」

「ありがとうございます」


それを聞いたアキトは笑顔を音虎に見せると、部屋を出て島田の部屋に向かった。アキトはノックもせず、島田の部屋のドアを開け部屋に入った。


すると、壁を向きながらベットで寝る島田の姿があった。アキトはすかさず壁掛け時計を確認すると、時計の針は十時三十四分を指していたのを確認し、島田が羽織っていた白いブランケットを無理やり剥がして言った。


「おい、ニートじゃねぇんだから」


すると、島田は眉間にシワを寄せながらゆっくりと目を開くと、寝起きの低い声で言った。


「でもニートみたいなものだろ」


そう言いゆっくりと体を起こしベットから降りると、ポットの電源をつけコーヒーカップを二つ用意した。するとそれを見たアキトは言った。


「私はいい、少し話があるだけだ」


島田はコーヒーカップを一つ棚にしまいながら言った。


「で、話って」


コーヒーカップにインスタントコーヒーの粉を入れる島田にアキトは言った。

「単刀直入に言うと、最近音虎チャンに冷たくないか?」


すると、寝起きだったせいか島田はアキトを睨んだようにも見えたが、すぐに棚に戻したコーヒーカップに粉を入れながら言った。


「やっぱり二つ必要じゃないか、砂糖は?」


「七つ」


島田は引き出しからスティックタイプの砂糖を七本取り出し全部入れ、ティースプーンでかき混ぜるとアキトにコーヒーカップを手渡し言った。


「天気もよさそうだ、屋上へ行こう」




 島田とアキトは屋上の手すりに寄りかかり、島田がコーヒーを一口すするのを見たアキトも一口コーヒーをすすった。


「アッチ」


「ははは、そう言えばアキト猫舌だったな」


「うるさいな」


風が島田とアキトをなで、二人の髪が少しなびいた。そしてその風は少し冷たかったが、すぐに暖かく強い風が二人の間を無理やり通り過ぎていった。空は雲一つない晴天で、少し熱いくらいの日差しがこの街を照らしていた。アキトはタバコを取り出し一つ銜えると、一本取り出して島田にも差し出した。


「メンソか、何年ぶりだろ」


そう言い島田はそのタバコを銜えると、アキトが火をつけたライターを差し出した。島田は顔をライターに近づいてタバコに火をつけると、アキトもタバコに火をつけながら言った。


「私らが出会ったのもちょうどこんな日だったよな」


アキトは煙を吸うと、苦しそうにむせこんだ。


「おい無理すんなよ、別に無理して吸うもんじゃないだろ」


「わかってるよ、吸うの久々なんだよ」


そして島田とアキトは、たばこを吸いながら無言で街や空を眺めていた。そして、ちょうどタバコの長さが半分になるころ島田は言った。


「アキトに初めて出会ったときはオレをすごい目で睨んでたよな」


「いや、あの時抗争で腹を撃たれてたから組長としての威厳を保とうと」


島田は笑いながら言った。


「わかってるよ、茶化しただけだよ。」


「それを言うならシマちゃんも私のことゴミを見るような目で見てきただろ」


「そりゃさ、公園の茂みに血だらけの女がいたら何事かと思うだろ」


すると、後ろの方の手すりに雀が一匹やってきて、またすぐにもう一匹やってくると二匹はどこかへ飛んで行った。それを見たアキトは言った。


「まぁ最初はどうであれ、出会えてよかったよ」


「俺もだ」


すると、アキトは濁音の入った大きくため息をついて言った。


「お前さぁ、音虎チャンにも同じこと言ってやれよ。」


「え」


「まあいいや、んなことより本題だよ、音虎チャンになんで冷たくするんだ?」


島田は目線を下へ落し、家の裏庭で虫網を持ち一生懸命に虫を捕る組員たちと、それを手伝う音虎を見て言った。


「アキトにはそう見えていたのか?」


「…あぁ」


「そうか」


すると、島田は地平線近くに並ぶ深緑の山の方を真っすぐと見つめながら言った。


「アキト、この前ガルセーの奴らと一戦交えた時、何人の組員が死んで何人の魔法使いを殺した」


アキトは瞬きをしながら何度かアキトを見ると言った。


「死んだのは十五人、まだ重症がじゅうにんといったところか。殺したのは…、確実に殺したのは一人でケガを負わせたのは三人くらいか」


「勝てると思うか?」


アキトの表情は曇り始めた。


「それで音虎の呪いを解く調合魔法だ。アキトが使うのはありえない、沢山の組員を背負ってるからな。じゃあ他の組員に出会ったばかりの音虎のために死ねって言えるか?」


アキトの眉間には少しシワが寄っていた。


「ちょっと言いすぎじゃないか」


「いや、まず俺はそんなことしたくない。だから、俺が使う」


「じゃあ音虎チャンは!」


「俺は音虎が好きだ!」


島田は少し声を荒げてしまったが、声量を抑えて話を続けた。


「音虎の笑顔、声、優しさ、愛情、自分を傷つけてしまうところさえ全てが俺の心臓を潰そうとしてくる」


アキトは黙って島田の目を見て聞いていた。


「でもさ、自分のことをもっと大切にしてほしいって思う。だけど、調合魔法を使わなくちゃいけないとき俺が使ったら音虎は、どうなるんだ?ただでさえ自分を責めやすいのに、これ以上重荷を背負わせたら音虎は…」


島田はアキトに背中を見せ、たばこを持ったまま地面に座り込み続けた。


「なぁわかるだろ、逆にアキトが俺の立場ならどうする。」


「すまん、何か理由があるんだろうとは思ってたが、そこまで考えていなかった」


「いや、アキトが謝る必要はない、むしろ迷惑をかけたな。」


島田は立ち上がり中に戻ろうとしたが、屋上と屋内をつなぐ扉の前に立つと言った。


「アキト、最後の嘘だ。見逃してくれるよな」


「当たり前だ」


島田はそれを聞くと、ドアを開けて一人で戻っていった。そしてアキトはタバコのを取り出して一本銜えると、手すりに寄りかかりタバコに火をつけて煙を大きく吸った。もちろんむせこんでしまい、多く煙を吸ってしまったせいか涙目になりながら言った。


「男になったなシマちゃん。私にはあんな顔、あんなこと言ってくれなかったのにな。いや、私があいつをその気にさせられなかったのか…。はは、ことごとくこの街にいる奴は不幸で、苦しんでる人間ばかりだ」


アキトは火のついたタバコを手に取り強く握りしめ、痛みに耐えながら火が消えたのを確認すると後ろへと放り投げた。そしてアキトもドアの方へ向かいながらつぶやいた。


「でも、悪くない」




読んでいただきありがとうございました!( ˊ̱˂˃ˋ̱ )

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