第24話 家族と猫
島田は机の上にあった魔法書を手に取り、音虎に質問をした。
「ちなみにだけど、音虎も魔法使いならこの魔法書も読めるんだろ?」
「その魔法書は本当に古いものだから、読めないの」
すると、島田は机に向かいノートパソコンを手に取り、電源をつけながら音虎の方を向き言った。
「音虎は気づいたかもしれないが、さっきの小瓶は過去に実験したサルメタリアンだ。魔女の髪の毛を利用した割に高威力だったから、魔法使いと戦う際に使えると思って作った」
音虎は頷いていたが、アキトは眠そうな顔で話を聞いていた。
「でも俺が知っている攻撃に使えそうな調合魔法はこれしか知らない。でも、音虎なら魔法使いにも効果的な魔法を知っているんじゃないか?」
「当たり前よ、これでも優秀だったんだから」
音虎は誇った笑顔を見せて言った。そして、腕を組み少し悩むと音虎は言った。
「攻撃に向いた調合魔法はたくさんあるんだけど、やっぱり素材をすぐに入手できないものばかりだから、それでも良ければ」
島田は体を気持ち前に倒して言った。
「それでもいい」
音虎はまた腕を組み、眉間にシワを寄せながら先ほどよりも長く悩み、島田のノートパソコンがスリーブしたころに、ようやく答えが出たようで話そうとしていたが、島田がノートパソコンを再び開くのを待ち、それから言った。
「大まかに三つ、セルーゲル、セキリューコウ、シルヴィアンの三つかな」
「それぞれ詳しく説明してくれ」
「セルーゲル、別名斧を操る者。効果は、二メートルはある聖虫カマキリを召喚して、簡単な命令ができる。材料は、確かハリガネムシの断片と、魔女の血、カマキリの頭、少量の金…あとはすり潰した蝶だ」
それを聞いていた島田とアキトは、ひきつった顔でお互い目を合わせていた。そして、アキトは音虎の方を向き、そのひきつった表情のまま言った。
「材料キモくね?」
しかし、音虎はそう考えたことが無いのか、必死に訴えた。
「そんなことないよ、第一、みんな魔法に幻想を抱きすぎだよ。あと聖虫カマキリは、以外になつっこくて可愛いんだよ?」
「別にかわいくてもなぁ…」
音虎はそんなアキトと島田の反応は一度忘れ、調合魔法について話を続けた。
「次はセキリューコウね、別名肥大化した殺意」
島田とアキトの表情はまたしてもひきつっていたが、音虎は無視して話を続けた。
「効果は、調合したものを瓶に入れて衝撃を与えると、巨大な針が半径十メートルに広がり、範囲にあるものを貫く。材料は、まだ割れてない栗かガンガゼっていうウニどちらかを五時間煮出した液体と、硝石、魔女の血、あと犬の尿かな」
すると、アキトはひきつった表情のままドアを少し開けて組員に声をかけた。
「おーい、今すぐに動ける奴はいるかー?」
すると、スキンヘッドの若い男性の組員がやってきて言った。
「姉貴、どうしました?」
「魔法を作るのに必要な材料があるから、何人か集めて集められるだけ集めてきてほしいんだ」
「そうですか、ちなみに何が必要なんですか?」
「硝石と金、あと栗かガンガゼっていうウニ」
やる気に満ちたその組員は、たくましい表情で言った。
「それだけですか?」
「あと犬の小便とすり潰した蝶、カマキリの頭とハリガネムシの断片」
それを聞いた組員は、口を開けて聞いた。
「え、もう一度聞いてもい」
「いや、間違ってないよ、頼んだよ」
組員は、少し不満げな顔をしながら出て言った。組員が出て言ったのを見送った三人は互いに目を合わせ、アキトは言った。
「音虎チャン、そういうことだ」
音虎は、自分の価値観が普通の人間とギャップがあったことに少しショックだったが、続けて話した。
「えと、シルヴィアン、別名青白い綿毛。瓶に衝撃を与えると、半径十メートルに青白い爆発を引き
起こす。材料は、硝石、綿、タンジーの花」
それを聞いた瞬間、島田とアキトは目を合わせると、アキトはいつも通りの下品な笑い方で島田とアキトはゲラゲラと笑い出した。そして、笑いながらアキトは言った。
「なんだよ、それだよそれ、普通のあるじゃん。なんだよ犬の小便って、何のために必要なんだよ」
そうアキトが言うと、余計に島田とアキトの笑いのツボを刺激したのか、二人は再び大笑いした。それを見ていた音虎も、二人につられてつい笑ってしまった。しばらく三人は笑って落ち着いて思い出し笑いを繰り返すと、アキトは音虎に言った。
「音虎チャンありがとう、ここ数日笑えてなかったからよかったよ」
それを聞いた音虎は、ふとあることに気が付いた。音虎自身も笑ったからか、少し心にゆとりができていたのだ。
「アキトさん、ありがとう」
「え、何が?」
「アキトさんとシマちゃんが笑ってくれて、不思議と私の心も軽くなりました」
それを聞いたアキトは、音虎が背負ってしまったその重荷のことを思い出し、島田と音虎の肩に腕を置き抱き寄せて言った。
「もちろん私の家族は吉川組の奴らだ。でもな、お前らも同じくらい大切な私の家族だ。だから、お前らが助けを求めていたら、どこにいようと助け出す」
アキトの表情は悲しくも取れるような、それでも愛がにじみ出たたくましい表情だった。そして、島田はアキトを見て言った。
「それは俺たちも一緒だ。そうだろ、音虎」
音虎は目を瞑りながら首を縦に激しく振った。
「音虎チャン、何かあったら何でも言うんだよ」
アキトはそのたくましい表情で言ったが、それを聞いていた音虎が、少し何か言いたげだったようにも見えたので、質問した。
「なんだ、何か言いたいことがあるのかい?」
「いや、やっぱり気持ち悪くはないよ」
一体何の話をされたのかアキトは理解していなかったが、すぐに理解して、アキトはまたあの下品な声で「ガハハハハハ」と大笑いした。
「わ、笑わないでくださいよ」
「わりぃわりぃ、だって、何かと思えばまたさっきの話をし出したから」
アキトの笑い声は大きく、とても特徴的だった。そのためか、この濁った思い空気の家にアキトの笑い声が壁越しに隣の部屋へ、そして上の階へと響き渡り、島田の部屋も気持ちばかりか空気が軽くなった。
そして、他の組員たちもアキトの笑い声が聞こえたおかげか、力が入ったままだった肩も少し
軽くなっていた。島田も少し気が軽くなり、早く日常に帰れるように、音虎がただただ普通に笑えるようにと願っていた。
しかし、そう願うのは簡単で、一番難しいのはそれを実現することで、もちろんそんな当たり前のことは島田もわかっていた。すると、島田にある疑問が浮かび、悩み始めた。すると、そんな島田とは裏腹に会話が盛り上がっていた音虎とアキトだったが、音虎が話の途中で島田が考え事をするときに見せる、変にムッとした表情に気が付き言った。
「シマちゃんどうしたの?」
「いや、少し眠いのかぼーっとしてただけだ。ちょっと気分転換がてら、一服してくるよ」
「ニコ中だ」
「はいはいそうですよ、俺はニコチンが大好きです」
そう言いながら島田が立ち上がると、アキトと音虎はまた会話の続きを始めた。島田はそんな賑やかな部屋から出て静かに扉を閉めると、また何かを考えながらエレベーターに乗り込み、屋上へと向かった。
そして屋上へ出て手すりに寄りかかるとたばこを一本銜え、火をつけると一吸いした。上には夜空が広がっていて、やはり街は光輝きとても美しかった。でも、今の島田にはそれが苦痛で、夜空に広がる星々が自分の思いでに見えてしまい、そのたびに初めて魔法を見た日のことを思い出していた。
「儚いなぁ」
そうつぶやくと、夜空に輝く月を力づよく睨みつけ、銜えたタバコを嚙みちぎり床に吐き捨てた。
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