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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第2話 拾い猫

島田は自分の研究に興味を持たれたことには嬉しかったが、自分の研究を馬鹿にされるのが嫌で仕方なかった。


「なんだっていいだろ、どうせ君も笑うだろうし」


聞かれるかもとは思っていたが、魔法を研究しているとわかれば笑われるにちがいない。まあ笑われても仕方ない、この人なら理解してくれるちがいないと期待しても、今まで見事に撃沈してきたしな。島田はそう思い、無視することにした。


「そんな恥ずかしいことをしてるの?」


音虎は冗談を言ったつもりだったのでニヤついたが、島田はそれに気づかず少しイラつき始めていた。そんなことを考えていると、今まで島田を馬鹿にしてきた奴が脳裏をよぎった。


応援していると見せかけて遠回しに見下すものや、オカルトの狂信者だと馬鹿にする者たちだ。すると少しずつうなじからちょうど肩にかけて、そのあたりにいる何かしらの細胞が動き暴れるように感じた。


島田はそんな感覚に耐えられなくなっていき、次第にそいつは頭へ移動し、ついには後頭部の毛穴から今にも顔を出しそうになった。それに耐えきれない島田は、髪の毛を荒くかきむしり口を開いた。


「違う、笑う奴は固定観念にとらわれた馬鹿だから理解できないだけだ」


一度解放した怒りは止まらなかった。


「第一俺は根拠もなくこんなことはしない。ちょっと変なことをしているってだけで、一時的に自分の自己肯定感を上げるためだけに馬鹿にするやつの方が気が知れない」


島田は無意識に感情を少し出してしまったことに気づき、少しの沈黙が続いた。時計の針が出す音がその気まずい沈黙を際立たせていた。換気扇の音がこれほど嫌に感じることも、この先ないだろう。


「たばこ吸ってくる」


島田はこの状況について考えるのが嫌だったのか、席を立ち部屋から出ていこうと扉の前にたった。するとそんな様子を見ていた音虎は、それを感じ取ったのか話し始めた。


「まって」


島田は背を向けたまま立ち止まった。


「気分を害したかったわけじゃないの、ただ貴方のことをもう少し知ってみたくて…ね?」


音虎は続けて話した。


「私ね、うつ病のせいで生活保護を受けて生活しているの。」


悲しそうに話し始めたのを見た島田は、すこし罪悪感を感じていた。


「昔いろいろあってね、それがつらくて毎日何度も死にたいって思ってて、そんな自分も大嫌いで。」


「でも自傷行為をしている時だけは、自分に罰を与えているような気がして、不思議と心との均衡が保てたの」


音虎は話をするとき、不思議と少し体を揺らすのだが、その時彼女の服の生地と生地がこすれる音がする。少し申し訳なかったが、島田にはそれが心地よく感じてしまった。


「そんな私を母親は頭がおかしいって言ってね、それから連絡が取れなくなったの。周りの大人や友達は私のことを馬鹿にするし、それのせいでもっとつらくなって」


「だから最近は家には帰らず、ただお酒を飲んでいろんなところをふらついているの」


彼女の目は涙で潤んでいて、声も震えていた。


「みっともないよね、私もこんな自分自身が恥ずかしいよ」


「そんなことない、悪いのは君の周りの大人たちだろう」


音虎は島田を上目遣いで見ると、すぐに視線を落として話した。


「看病してくれてありがとう、わたし邪魔みたいだから遅くなる前に出るね」


島田は「ここにいてもいい」と一言言おうと口を開いた


「よくなかったね、君が悪いわけじゃないのに感情的になって」


島田ができる精一杯の謝罪をしたが、言おうとしたことは言えなかった。俺は今なぜ言えなかった?ここにいてほしいと思っていると勘違いされるのが恥ずかしかったのか?いや、べつにいてほしいと思っているわけじゃないし、彼女が出ると言っているのだからそれを尊重しただけだ、島田はそう何かに訴えかけた。


「音虎でいいよ」


音虎は鼻をすすりながら笑顔で答えた。


「ありがとう、でも無理に心を傷つけるような話はしなくて大丈夫だよ」


「大丈夫!ただの事実を話しただけだから!」


笑顔でそう返した音虎を見た島田は、少し気まずかったのか苦笑いを彼女に見せた。そして島田はすーっと息を吸うと、気持ちを切り替えたのか実験について話を始めた。


「俺は魔法を研究しているんだ」


島田は恐る恐る音虎の顔をうかがうが、思いのほか表情を変えずに聞いてるのを見ると、安心して話を続けた。


「魔法なんて人が想像したフィクションだという人がいるが違うんだ、もし君が原始人で、僕がライターの火をつけて見せたらどうだろう?」


びっくりする、と音虎は言うと島田は大きくうなずき話を続けた。


「そして数年前のことだが、目には見えないエネルギー体を発見したんだ。そいつは特定の条件がそろうと、様々なものに実体化したり、物に変化を与える」


「要は、魔法も説明しようとしたら、難しいだけでできないこともないんだ。」


島田はそう言うと自分の机の方を向き、何か中には何やら髪の毛のようなものと、白い花のようなものが入っているビーカーを、音虎に見せて言った。


「中にはミズバショウと、イギリス王立博物館から買った魔女の髪の毛が入っているんだ。それと材料が浸るくらいの羊の鼻水も入っている、少し汚いがこれで完成なんだ。でも、なぜか魔法が発動しない、別に魔導書の誤訳をしているわけでもないし、本来日本で揃えられる素材ならそれで問題ないが、わざわざフランス産の…」


島田は無意識のうちに早口になってしまっていたのに気づき、音虎にごめんと謝って話を終わらした。しかもこんな話つまらないと思うにきまってる、そう思ったのか机へ向き、気まずさを紛らわせるために魔導書をを開いた。しかし音虎は、意外に興味があるのか島田へ質問を投げかけた。


「その魔法はどんな魔法なの?」


島田は手を止めて答えた


「一応誤訳してなければだけど、【幻想魔法】って書かれているから、美しい何かなんだろう」


「これは私の偏見かもしれないんだけど、魔法って炎をぶわあって出したり凍らせたりするもんじゃないの?」


「そういう魔法もあるにはあるが、ただただ美しい魔法を自分の手で使いたいし見たい、ただそれだけの理由であまり興味がない」


そう言うと音虎はベットに横になり、壁の方を向きながら少しじっとしていた。そして何秒かたつと、横になったまま体を島田の方に向けて話した。


「ミズバショウで思い出したのだけど、その花にはとある花言葉があってね、【美しい思い出】っていうの。島田にはそういう思い出とかってあるの?」


島田は何かを思い出し音虎の方を向くと、後ろのビーカーが急に破裂して煙が島田を包み込んだ。するとすぐにその煙は黄金の羽となり、神々しい光とその羽が島田の周りをかこった。


島田は状況が読めると、見とれている暇もなく急な睡魔に襲われた。



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