表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
18/44

第18話 その猫は嘘つきに愛を与えた

 晴天の青空に包まれたパリの街。やはり、世界でも有名な観光地として恥じないくらいの観光客であふれていた。そして、街にはパン屋、レストラン、カフェ、古着屋など、様々な店が立ち並んでいて、それぞれ違う活気で溢れていた。


すると、一人の髭を生やしたフランス人男性がスイーツショップの前の路上に立ち、ギターケースからチェコ製のギターを取り出し弾き語りを始めた。そしてちょうどその前を通った島田と音虎は、その髭を生やしたフランス人男性の演奏に心を奪われていた。


男性の声は低めで、たまにとても低い声を出したりするのだが、その声とギターの音色が絶妙に調和していて心臓が振動しているんじゃないかと勘違いしてしまうほど素晴らしいものだった。


しばらく演奏を聴いていると、島田は横に音虎がいないことに気が付き周りを見渡すと、後ろにあったスイーツショップで何かを購入しようとしていた。島田は音虎のところまで行き、音虎に声をかけた。


「何かうまそうなものでもあったか?」


「うん、すぐ来るから」


島田は店の奥の方からほのかに甘い香りがしたのに気が付き、香りの道を探ると、そこにはクレープの生地を焼く茶髪の女性がいた。そして待つこと五分、さっきの生地を焼いていた女性がクレープを二つ持ってきた。音虎はそのクレープ二つを受け取ると、一つを島田に渡して言った。


「はい、私の奢りね」


「ありがとう」


島田と音虎は、受け取ったクレープをすぐに一口かぶりついた。その瞬間、冷たくて甘いアイスと酸味のあるイチゴが島田と音虎の味覚を刺激した。そして二人は同じタイミングで言った。


「うまい!」


すぐに二人は目を合わせ少し間が空いたのち、島田と音虎はお互い笑い出した。そして島田と音虎は、まだ演奏していた髭を生やしたフランス人男性に投銭をして、その場を後にした。島田たちはそのまま街のレストランに行きフレンチを楽しんだり、ワイン専門店に行き本場のワインを楽しんだ。


この間島田と音虎から笑顔が絶えることはなく、心の底から羽を伸ばしているようだった。そして、島田と音虎はちょうど土産屋から出たところだった。沢山の紙袋を持った島田は、街が蝋燭のような温かい光に包まれているのに気が付き、何も持っていない音虎に言った。


「綺麗だな…」


島田と音虎は歩き出し、音虎はその光に照らされた厚底の黒いブーツを眺めながら言った。


「楽しかった…ね」


島田は音虎を一度見ると、目線を前に戻して言った。


「そうだな」


今度は、音虎は悲しそうな顔をして言った。


「こんな時間が…いつまでも続いてほしいな」


島田はそんな悲しそうにする音虎を見るだけで、様々な感情に飲まれた。夕日に包まれた音虎が美しいと思ったことや、ひょっとして音虎は島田に見捨てられると考えているかもしれないと思ったこと、それを音虎に否定しようとしない自分への嫌悪感などだ。


するとそこで、島田はもともと自分で考えていたプランの一つを思い出し、音虎に言った。


「音虎、行きたいところがあるんだけど」


「じゃあ行こうか」


島田はポケットに手を入れ音虎のブーツを見ながら言った。


「多分音虎も楽しめるとは思うんだが、俺が選んだ場所だからもしかしたらつまらないかもしれない。でも」


すると音虎は柔らかくて穏やかな笑顔で言った。


「行こう。シマちゃんがそう言うならそうなんだよ」


「そうだな」


そして島田と音虎は、大通りへと出てタクシーを捕まえてどこかへと向かって言った。




 島田は目的地の近くでタクシーを止めてもらい、今度はフランスにチップ文化がないことを忘れずに、タクシー代だけ支払い音虎と一緒に降りた。するとすでに日は暮れていて、目の前には濃い目のレモンティーのような色にライトアップされた、エッフェル塔があった。そしてそれを見た音虎は島田に言った。


「行きたかったところって、エッフェル塔のこと?」


島田は笑顔で言った。


「ほぼ正解だ」


島田はそう言うと、音虎を連れてエッフェル塔の方まで向かった。そしてエッフェル塔の真下に到着すると、島田と音虎は不思議な雰囲気のあるエレベーターに乗り込み、斜め上に動き出した。そしてエレベーターが二階に到着すると一度降りて別のエレベーターに乗り込んだ。


音虎は島田がどこに行きたいのか分かったのか、島田を笑顔で見つめた。そしてエレベーターが止まると、島田と音虎は降りてすぐ窓の方へと向かって行った。するとそこには、どこまでも続くパリの街が広がっていた。街は街灯によってライトアップされていて、大通り周辺は特に明るく輝いていた。


まるで、通り雨で濡れてしまった蜘蛛の巣が、差し込んだ日差しに雫が反射し、風が吹くたびに雫が揺れまた別の輝き方を見せる、そんな美しさがあった。そしてそれを見た音虎は島田に言った。


「綺麗だね…」


島田は島田自身も夜景に夢中だったのか、一呼吸分遅れて言った。


「綺麗だ…」


島田はそう言いながら音虎の目を見ると、音虎も島田に気が付き島田の目を見た。すると、ちょうど音虎の目にパリの夜景が反射して写り、瞬きをするたびに音虎の長いまつげが色気を出し島田を挑発した。するとそんな島田のことも知らずに、音虎は言った。


「連れてきてくれてありがとね」


そう言いながら島田に笑顔を見せると、島田はもう耐えられなくなり目線を口元に移した。しかし、今度はその潤った唇に景色が微かに反射していて、最終的に音虎の靴紐に目線を落し落ち着いた。


「シマちゃん、大丈夫?」


島田はここでようやく戻ってこれたのか、慌てて返事をした。


「すまない、今日は疲れているっぽいな」


「まあ沢山歩いたし仕方ないね、私も疲れてきちゃった」


そして音虎は夜景の方へ視線を戻し、髪の毛で顔が見えなくなってしまったところで、音虎は話を始めた。


「シマちゃんは今日楽しかった?」


島田は不思議に思いながらも言った。


「そりゃあ、楽しかったけどなぜだ?」


音虎は少し下を向き言った。


「これってデートだよね?」


「え?」


「今日はただの観光じゃなくて、デートだよね?」


「いやそんなつもりは」


この時島田は顔が真っ赤だったが、自分では気が付いていないようだった。


「わざわざ背伸びしたホテルを予約したのも、高そうなホテルに行ったのも、こうやって綺麗な夜景を見せてくれたのも、はたから見たらデートだと思うの」


島田はもう何が起きているのかわからず、音虎の言ったことを聞くので精一杯だった。


「これはデートじゃないのかな」


島田は音虎のほうを見ながら言った。


「そうかもしれないけど、なんていうか俺は」


その瞬間音虎は島田の方を向き、赤らめた頬と涙目で島田に訴えた。もう島田の心臓は限界を迎えて、破裂してしまうんじゃないかと思うくらいに鼓動が大きくなっていた。そして音虎は少し悲しそうな顔をしていった。


「シマちゃんはもっと素直になるべきだと思う」


島田は言葉に詰まってばかりで何も言えずに困っていると、音虎は島田の服の袖を引っ張り膝を床につかせ、顔を近づけると言った。


「シマちゃん、好きだよ」


そう言うと音虎は島田の唇へ口付けた。


読んでいただいてありがとうございます!物語がだんだん本筋へと進んでいるのですが、おそらくあと15話程度で完結する予定です!

わざわざこのような作品を読んでいただいて嬉しい限りです♪

読んでいただいている方々の期待に沿えるように頑張っていくつもりなので、今後とも「二人の魔法使いは永遠に」をよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ