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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第17話 絆と猫

 フランス国営歴史博物館「フランス革命の素晴らしさ」というコーナーに、スマホの着信音が鳴り響いた。音の鳴る方には音虎がいて、横には「民衆を導く自由の女神」という絵画のレプリカが飾ってあった。


音虎はすぐにスマホを取り出し画面を見ると、島田からだった。電話に出ると「出口で待ってる」とだけ伝えられ、通話は切られてしまった。音虎は何となく事を察し、すぐに出口へと向かおうとすると、警備員らしき男性に声をかけられた


。フランス語だったので音虎は理解できていなかったが、警備員らしき男性が電話禁止の張り紙を指さしていたので「イエスイエス」と何度か言って出口へと向かった。そして出口へ行くと、音虎が察していた通り浮かない顔の島田がいた。島田は音虎に気が付くと、浮かない顔のまま言った。


「だめだった」


たったそれだけ言い、島田は先に歩き出した。音虎は置いて行かれないように早歩きで島田に付いていき、島田に質問した。


「なんでダメだったの?」


「説明するよ」




 三十分前のことだった。ヴィンセントが管理するこの事務所にも倉庫にも見えるこの部屋からは、ハッカ油のような鼻を突く強い香りがした。部屋の右奥には木製のデスクに、いつの物なのかわからない黄ばんだパソコンとキーボードがおいてあり、布が擦れて破けたデスクチェアーの奥には、沢山の資料らしきファイルで本棚が埋め尽くされていた。


そして周りには、高さは一・八メートルほどのスチールラックが十個ほどあり、木箱やらプラスチックやらの四角い箱でいっぱいだった。そして、そこにはヴィンセント本人と島田がいて、ヴィンセントは島田に怒鳴りながら言った。


「お前にはやらん!」


島田は冷静な性格だととてもじゃないが言えないが、この時ばかりはただただ我慢して話を始めた。


「たった一ミリグラムだけでもいいんです、お金なら用意できていますから、どうかお譲りいただけないでしょうか」


ヴィンセントは島田が食い下がらないたびに、わかりやすく怒りが増していった。


「てめぇにいくら出せる、一億、二億は下らないぞ」


「出せます」


「仮に出せたとしてもだな、ただでさえ歴史的、文化的にも貴重な魔女の血を分ける気は全くない」

「ごもっともです。ですが、私の研究に必須なんです。」


「そもそもどこかに所属しているわけでもなく、個人でやってるんだろう?そんなどこの誰かわからない人間に軽々しく渡せるか」


さすがにこれには島田も言い返せず、頭の中が真っ白になりながらも必死に打開策を考えたが、やはりそんな状況でいい考えが思いつくはずもなく、仕方なく出直そうと帰ろうとした。


「本日のご無礼誠に申し訳ないです。ですが、とても諦めきれないのでまた出直すことをお許しください。では」


島田はそう言うと、扉の方へ向きドアノブを握った。するとヴィンセントは島田に背を向け、少し悲しい顔をして一言つぶやいた。


「俺に勇気があれば」


島田は少し目線を上にあげ不思議そうな顔をすると言った。


「また来ます」


すると、ヴィンセントはまた悲しい顔をしてため息を吐いた。




 島田はタクシーに乗りながら、隣にいる音虎に何があったのか話していた。


「つまり、今のところ俺がなんと言おうが譲る気はないってことだ。案内してくれた若いフランス人の男が、ヴィンセントは頑固者だと言ってはいたがあれほどだとは…」


音虎は、島田を慰めるようにいつもより声のトーンを下げ、優しく話した。


「でも、最後ヴィンセントさんがすまないって言ってたことは引っかかるね、過去に何かあったのかな」


「俺もそう思っていたから、ヴィンセントについてもっと調べてみようと思う。ただ…」


音虎は不思議そうな顔で島田に聞いた。


「ただ?」


「ただ…」


すると、島田はタクシーの座席の背もたれいっぱい体を倒し、足も伸ばせるところまで伸ばし脱力して言った。


「落ち込むよなぁ」


島田は大きくため息を吐き、それを見た音虎は言った。


「でも仕方ないんじゃ」


「わかってる、わかってるんだ。でも、わかってても落ち込むよ」


そして、日本製の車を使うタクシーの振動音がよく聞こえ、島田も音虎もしばらく窓の外の景色を無言で眺めていた。そして、信号を五つ、そして六つ通り過ぎると島田は言った。


「でも頑張らないとな」


そして、島田は脱力しきっていた体を起こし音虎の方を見て言った。


「音虎、気分転換だ。そろそろ到着するぞ」


「え?ホテルに向かっているんじゃないの?」


島田は笑顔で首を横に振った。タクシーが道路の横に泊まり、島田は運転手に多めの運賃を渡したが、フランスにチップ文化がないのを忘れていて、運転手に釣りを返されたときに思い出した。島田は運転手に礼を言いお釣りを受け取ると、音虎と一緒に目的地まで少し歩いた。


そして目的地に到着すると、音虎は驚いていた。目の前には、ガラス張りで正四角推の大きな建物があった。そして、驚いた音虎を見た島田は言った。


「ルーブル美術館だ」


「いや、さすがにわかるよ?」


「別に馬鹿にしたわけじゃないさ。さぁ、行こうか」


そう言うと、島田は音虎をリードして進みだした。島田と音虎はすぐに中に入り、美術品をゆっくりと見て回った。島田はもともと絵画が大好きで、ルーブル美術館には学生時代に何度か訪れているほどだった。それでも島田は飽きないのか、目を輝かせて興味津々に作品を眺めていた。


しかし一方で、音虎は島田に付いていってはいるものの、退屈な感情をどうにかばれないようにしていた。それでもやはり音虎といえど、興味のないものを一時間も眺めさせられると眠気がさしてきたのか、島田に提案した。


「シマちゃん、別のとこも行ってみない」


「ん?あっちの彫刻の方のことか?」


「いや、美術館じゃないところ」


島田は少し固まり考えて言った。


「ごめん、つまらなかったか」


音虎は足をクロスさせ腕を腰のあたりで結び、申し訳なさそうにして言った。


「最初は少し良かったんだけど、やっぱりこういうものの魅力がわからなくて…ごめん」


島田はひどくショックだった。しかしそれは、音虎がつまらないと言ったことではなく、友人とどこかに遊びに行ったこともなく、ましてや男女でどこかに出かけたことすらなかったためお互いが楽しめる場所を選ぶ、という選択肢がなかった自分へだった。


島田はそんな自分の経験不足を感じ落ち込んでいたが、音虎は島田が落ち込んでいるのを感じ取ったのか島田に言った。


「別に嫌ってわけじゃなくてね、せっかく連れてきてくれたのに楽しめないのは申し訳なくてね」


音虎が気を使って言ったその一言が、より島田を落ち込せた。そして、そんな島田を見た音虎は言った。


「お互いが楽しめる場所…。そうだ、せっかくパリに来たんだし街を散策してみたいかな」


島田は音虎の提案に賛成し、パリの街を歩くことにした。そして島田と音虎は出口へと歩き始めた。島田は出口へと向かう一歩一歩が自分への批判に感じ、音虎に謝った。


「ごめんな」


「いやいや仕方ないよ、ていうか私が絵画とか興味ないの言ってないし、本来連れてきてもらってこういうこと言う私が悪いよ」


島田の元気はすっかりなくなってしまっていて、それを見た音虎も罪悪感を感じていた。しかし、音虎も島田と親しくなりたいからこそ言ったことだったので、後悔はしていなかった。すると音虎は、声のトーンを上げ島田に言った。


「さぁ、楽しむよ、シマちゃん!」


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