第14話 近くの猫
外は晴天というのにふさわしいくらいに雲一つなく、青々とした空に一つ輝く太陽が島田の部屋を照らしていた。島田は魔法書の解読に勤めていたが、今朝音虎に「うれしかった」と伝えたことに対する恥ずかしさに悶えていた。すると、外からキンキンという金属音や、鉄製の何かの上を歩いているような音がした。
「この音は…足場を作っているのか、近くで工事でもしてるんだろうな」
島田はそんなことをつぶやきながら、カバンからノートパソコンを取り出し起動した。そして誰に提出するのかもわからない、魔法に関する論文を打ち込み始めた。
「魔法使いたちが魔力と呼ばれるエネルギーを作れたのは特別な細胞があったからだと以前記述したが、その発生したエネルギーは細胞で作られた後、血液に蓄えられることが分かった。つまり、魔力s」
島田は論文の作成途中であったが、誰かが部屋をノックしてきたので手を止め、ドアの方へ眼を向けた。
「シマちゃん、入っていい?」
島田は一度ノートパソコンを見て再びドアの方を見ると、ノートパソコンを閉じて答えた。
「あぁ、いいぞ。」
すると、マグカップをトレーに乗せて持ってきた猫が入ってきた。
「コーヒーを持ってきたの、まだ起きたばかりだろうし、目が覚めるかなって」
「あぁ、ありがとう」
島田は礼を言いマグカップを受け取ると、一口飲んでいった。
「うん、うまいよ。これではかどりそうだ」
「よかった。この後お昼ご飯作ってあげたいんだけど、食べたいのある?」
「あー、蕎麦がいいかな」
音虎は少し笑って言った。
「別にいいけど、ゆでるだけじゃん。なんか他にないの?」
「じゃあ唐揚げとか食べたいな」
音虎は少し不満そうな顔をしていた。
「揚げ物はめんどくさい、もっといい感じに手間がかかるやつないの?」
島田は少し考えると言った。
「じゃあ…焼きそばとか?」
「わかった、焼きそばにしようか」
「お願いします」
そう言うと、音虎は部屋から出ていくそぶりを見せたので、島田はノートパソコンを開こうとしたが、音虎はベットに座り話しかけた。
「ねぇシマちゃん。シマちゃんのゴールは何を達成したらなの?」
「魔法使いにはなれないけど、調合魔法以外をを使えるようになるのが理想かな」
「でも魔法使い以外は調合魔法以外のことはできないんじゃないの?」
島田は音虎の方を向き答えた。
「魔女の血さえ手に入れば、生き血に限るが疑似的に魔法は使えるようになるんだ。」
島田はノートパソコンを開き、何やらパソコンを操作し、フランスの歴史博物館のホームページを開いて見せた。そこには、乾燥した血らしきものが少量入った、小汚い小瓶の写真が掲載してあった。
「フランス国営歴史博物館には、乾燥した魔女の血と呼ばれるものが保管されている。これが手に入れば、俺の努力次第で培養して生き血を再現できる。」
「じゃあその血をもらいに行くの?」
島田は少し考えながら言った。
「今までは提供してもらえるなんて思ってなかったが、確かにやってみないとわからないな。今度でも交渉してみるか」
音虎はまだ満足していないのか、そのまま島田に質問を続けた。
「じゃあその血が手に入って魔法が使えるようになったら終わりなの?」
「いや、前にも言ったかもしれないが、俺が魔法を使えるようになりたいのは、前にも話した魔法使いの人に会えるかもしれないからだから、会うまでがゴールだね」
「じゃあもしいま会えるとしたら?」
「いま会えるならもうゴールだ。沢山の魔法を披露してもらいたい」
「じゃあもしその人が魔法が使えなかったら?」
「それは仕方がない。ただそのかわりじゃないが、今まで使ってきた魔法の話を聞いてみたいかな」
音虎はようやく質問攻めをやめ、音虎は満足したのかと思い島田はコーヒーを一口飲むと、音虎はまた話し始めた。
「私にも夢があるの」
今までは俺の話ばかりしていたから、音虎の夢が何なのかとても興味があるな。考えてみたら、俺はまだ音虎のことは何も知らないが、知りたいとは思っている。島田はそう思い、音虎にも質問を始めた。
「音虎の夢ってなんだ」
「あなたと同じ」
「俺と同じ?なぜなんだ」
島田は正直この後何を言われるか、心の隅で分かって聞いた。
「あなたが好きだから」
島田は何となくわかっていながらも、恥ずかしさを隠すために目を逸らした。しかし、今までの島田とは違い、まだ音虎の目を見て素直になることは難しかったが、それでもそれを自覚していた島田は言った。
「ありがとう」
島田の精一杯の言葉を聞いた音虎は、口角を徐々に上げ、そして歯を見せ笑顔を作って見せた。島田はそんな音虎を見ると、恥ずかしさからか再び魔法書を開き言った。
「さぁっ、俺は解読の続きでもするか」
それを聞いた音虎は、ニヤニヤと笑顔で部屋を後にしようとするが、島田は音虎を止めて言った。
「なぁ音虎、あの魔法使いは、今頃どこにいるんだろう。都内だろうか、それとも大阪?ましてや日本にはもういないのだろうか」
「私にはわからない。でも、案外近くにいたりするのかもね」
島田は声に出して笑った。
「だったら嬉しいんだけどな」
そして、島田は心地よい気分のままぬるくなったコーヒーを一口飲み、天井を少し眺めると作業を再開したのだった。
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