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二人の魔法使いは永遠に  作者: どぶネズミ
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第11話 罪と猫

島田の意識は朦朧としていた。視界は真っ暗で、理論的思考はおろか、まともな思考ができなくなっていた。それでも周りの音だけが聞こえて、少し安心していた。


ガラスが割れ周りに飛び散る音、何かが金属製の何かに当たりキンという甲高い金属音。でも別に嫌な音ではなかった。その瞬間、島田の頭の右側面に強い激痛が走った。


島田はその痛みのせいか、急に視界が回復した。しかしまだぼやけていて、遠くのものは見えないが、今自分がコンクリートの地面に横たわっていることがわかった。島田は必死に体を起こそうとするが、まるで、クラッチが切られているせいで動力源と歯車が切り離されているように動かなかった。


すると少し遠くに人影があることに気が付き、島田は必死に声をだした。が、のどが焼けているのか、声が全くでなかった。するとその人影はこちらの方にゆっくりと歩み寄ってきた。島田は安堵したのもつかの間、何事もなかったようにその人はどこかへ行ってしまった。


島田は自分の頭から地面へと流れる血を眺めながら、ゆっくり、ゆっくりと気を失っていった。最後に覚えていたのは、完全にシャットダウンされる瞬間に、自分の髪をなでた風の冷たさだった。


 「贈り物 貴方はいつも通り 愛しなさい」


一面広がる麦畑がなびき、その温かい風が肌を包み込んでいる。麦畑なんて見たことすらないのに、そう島田は感じた。体が痛む、息をするたびにのどが痛む、不愉快だ。そう思いながら、島田はゆっくりと瞼を開いた。


周りを見ると、真っ白で清潔そうな部屋に島田はいた。そして白いベットに、白いカーテン。窓は半開きで、冷たいが少し暖かい風が吹き込んでいた。


島田は足元の方に目をやると、そこにはベットに顔と腕を置き、すやすやと眠る音虎がいた。そして左腕に違和感を感じ、見ると点滴の針が刺さっていた。

「いって」


まだ完治はしてないせいか、体中が痛かった。すると、島田の声に気が付いた音虎は飛び跳ねて起きた。


「し、シマちゃん!」


「ひさしぶり」


島田は少しふざけた。しかしそんな島田とは裏腹に、音虎は涙をぼろぼろ流し島田に謝罪した。

「ごめん、わ、私のせいで」


「え、そうなのか?なんで音虎のせいなんだ?」


音虎はい言いづらそうな顔を下が、仕方ないと言わんばかりに口を開いたが、島田はそれを遮るように話した。


「いい、いい、言わなくていい。俺も音虎も生きてるじゃないか。」


「でも、でもっ、かくまってもらってるのに、私の都合のせいで」


「はは、もう終わった話だろ。それは音虎が本当に言いたいときに言えばいい、音虎は俺のところの看板娘になるんだからな」


音虎はもう泣いているせいで顔がぐちゃぐちゃだった。


「いいか音虎、おそらく君が思っているより俺は君に感謝しているんだ。君から学んだこともあるし、君を必要だと考えている。今はなぜだかそれを言葉にできないんだが、まぁ、君と同じだ。言いたい時が来たら言う、だから気にするな」


背中がかゆい、なんだか恥ずかしいことをべらべら言ってる気がするが、まあいいか、麻酔で変なことを言うのはたまにあることだ。


「…」


それを聞いていた音虎は、目に涙を浮かべたまま島田の目をじっと見つめていた。島田は不意に目を逸らし、また音虎の方に目をやるが、まだ見つめてきたので少し気まずかった。すると、三回ほど部屋をノックする音が聞こえ、誰かが入ってきた。


「音虎ちゃん、シマちゃんの様子は…。」


アキトだった。しかし少し顔がやつれ、落ち込んだ低い声だったのが少し驚いた。島田は笑顔で右手をふった。


「いって、やぁ。元気にしてたかい?」


するとアキトはフルフルと震えながら目に涙を浮かべ、島田の方に走って行って抱き着いた。

「馬鹿野郎!私がっ、私がどれだけしんばいさせだどおもってんだ!」


「…悪い」


俺が被害者なはずなのに何故か罪悪感を感じたが、少しうれしくもあった。


「医者が言ってたぞ、本来死ぬようなケガだったが、奇跡的な回復らしい。頑張ったよシマちゃん」


「そうなのか、そういえば音虎、口元に赤いのが付いてるぞ、どうした。」


「あぁ、今朝オムライスを食べたからだと思う」


島田から笑いがこぼれた。こんな時に天然を発揮するところは、別に嫌いじゃない。そんなことを思っていると、アキトは医者を呼び、とりあえず容体を見てもらうことになった。


そしてそんなこんなしていると、あっという間に夜になっていた。アキトはすでに帰ったが、音虎だけはまだ部屋に残っていた。島田は病院から出されたおかゆなどの食事に手を付けていると、今度は一人の男性がノックして入ってきた。


その男はスーツを着ていて、髪の毛は短く、いかにも清潔なサラリーマンだと訴えてくるような容姿だった。


雄作ゆうさく


島田がそういうと、最初は険しい表情だったその男は、クシャっとした笑顔で答えた。


「久しぶりだね、てっちゃん」


音虎は、また新しい人に戸惑っていたが、そんな音虎を見た男は自己紹介を始めた。


「本田雄作、島田の古くからの友人だ。今は捜査官をしているんだ、よろしく。」


「あ、冴島音虎って言います。島田さんにお世話になっている者です。」


すると島田は、雄作に質問をした。


「なぜ来たんだ」


「なぜって、君の容体が回復したからだと聞いたからだよ。まぁ、感がいいねてっちゃん。今回の事件についてだ。」


さっきまで笑顔だった雄作の表情は、この部屋に来た時の険しい顔に戻っていた。


「聞かせてくれ」


すると雄作は説明を始めた。まず、警察としてはガス漏れによる爆発が起きたと考えていること、そして建物自体が古くて、火災報知器やスプリンクラーが設置されていなかったとして、爆発した建物の管理人を逮捕する方向で進めていること、そして、これは何者かによる犯行であるということだ。


「証拠なんだが、もうすでに廃棄されてしまい見せることができないが、防犯カメラに不審な人物が写っていたんだ。俺はすぐに上司に相談したが、これ以上の捜査を止められた」


「事件として立証できないのか?」


「そうだね、さっきも言ったけど、建物の問題の方がつじつまが合うし、証拠は消されている。」


音虎は、今回の事件が自分のせいだと言っていて、誰かが島田を襲った。島田は自分が襲われた理由がわからず考えたが、思い当たる節はなかった。


しかし、爆弾自体が低威力なものしか用意できなかった場合、爆発にうまく巻き込むためには島田を研究室に数秒とどめておく必要があるため部屋を荒らした。そう考えれば部屋を荒らされた理由だけは理解することができた。


「わかった。雄作、ありがとう」


「おう、俺は引き続き捜査を続けるつもりだから、何かわかればまた連絡する。お大事にな」


そういうと、雄作は部屋を出て行った。しかし、後日近くの川で雄作が水死体として発見されたことは、島田は音虎に伝えなかった。


読んでくださりありがとうございます!感謝感謝!

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