第10話 笑い猫
男は険しい表情で音虎に話しかけた。
「なあ嬢ちゃん、俺が怖いだろ」
音虎は顔を下に向けて黙り込んだ。
「ほら、顔をあげなさい」
音虎は、怖いに決まっているという怒りと、思っていたことがバレてしまったことに焦りながらも顔を上げた。すると、男はとてもやさしくクシャっとした笑顔で言った。
「わかるよ、おじさんも子供の時は怖いおじさん苦手だったし、今でも顔が怖い人見るといややしな」
そのあとまたガハハハッっと下品な笑い声を出しながら笑った。音虎はまだよくわかってないのか、口をポカンと開けながら話を聞いていた。そんな様子を見た男は、話を続けた。
「嬢ちゃん、まだ姉貴が怖いか?少しは打ち解けたように見えたが」
「まだちょっと…優しい人なのはわかるんですが」
そういうと男は、とっておきの話があるんだと言わんばかりの笑顔で話し続けた。
「姉貴はな、ああ見えて漫画?のキャラクターのこすぷれとやらをするのが好きでな、みんなの前ではバレないようにしてるようだが、他の奴らみんな知ってるんだ」
驚く音虎に、男は人差し指を縦に口に当て音虎にアイコンタクトで伝えると、音虎は首を縦に振った。
「これは島田さんも知らないんだ、そんな一面もある俺らの姉貴、かわいいやろ?」
嬉しそうに話す男に、音虎は悪い笑顔で頷いた。
「これは二人だけの秘密だ、ええな?」
音虎はまた頷いた。
「皆さんアキトさんのことが好きなんですね」
「あたぼうよ、ちなみにみんな、姉貴のコス用SNSアカウントをこっそりフォローしてるんだ」
「え」
ドアが開いて、そこには花と果物を持ったジャージ姿のアキトが立っていた。
「あっ、姉貴っ、違うんです!」
「まあじいかよおおおおおおおおおおお」
アキトは果物をと花をその場に捨てて、真っ赤な顔で走り去っていった。男と音虎は、しばらく唖然としていたが、すぐに顔を合わせると男が言った。
「やちまった」
すると音虎も笑顔で言った。
「へへ、やちまった」
すると二人は大笑いし、しばらくその笑い声は絶えなかった。一方そのころ、島田は自室で寝ていたが、二人の笑い声で目が覚めたところだった。
「なんか楽しそうだな…起きるかぁ」
島田は体を起こすと、洗面所に向かい歯ブラシを手に取った。そして歯磨き粉をつけようとしたが、
さっきの笑い声が気になり歯ブラシをおいて部屋を出た。島田は103号室の前に来ると、ノックを
して声をかけた。
「おーい、入るぞー」
「はーい」
明るい音虎の声だった。島田はすぐにドアを開けると、そこには楽しそうに一つのスマホを眺める男と音虎がいた。
「何見てるんだ?」
「言えなーい、二人だけの秘密ですもんねー」
するとその男は、下品でとても大きな笑い声で笑った。島田は状況がわからなかったが、眉をひそめて言った。
「音虎、朝の仕事は終わったのか」
「とっくに終わってるよ」
「そうか」
そういうと島田は部屋から出て行った。部屋から出た島田は、何故か無性にタバコが吸いたくなったので、厨房に行き換気扇の電源をつけると、たばこに火をつけた。そしてため息を吐くように煙を吐き、さらに大きく煙を吸い込むと案の定むせた。
そして島田は、まだ火をつけたばかりのたばこを床に捨て、足で必要以上に踏みつけて火を消した。島田は音虎に、男の容体に異変があれば電話するように伝えると、この家を後にした。そして一時間後、島田の姿は前の家の玄関にあった。
「なんだか変な数日間だったな。この家もホコリ臭いが…悪くないんだよな」
そういうと、島田は元研究室に行き、魔法に関する資料をバックに入れ始めた。最近は少し研究から離れていたが、そろそろ再開しなくちゃな。島田はそんなことを考えながら、重要な資材を緩衝材の入った木箱に入れていると、何か強い違和感を感じた。
「魔女の髪の毛がない…」
これはまずい、魔女の髪の毛はとても貴重で必須なんだ。魔女の髪の毛は少量の魔力を蓄えていて、少量の魔力を消費する調合魔法にはなくてはならないものなんだ。島田は慌てて部屋中の引き出しを開けるが、どこにもなかった。
「こういう時は焦ってはいけない。そうだ、冷静にならなくては」
島田は、深呼吸してるかしてないかわからない程度に深呼吸をし、部屋を注視しながら見渡した。すると、ベットの下から何やら輝く何かが見えた。島田は嫌な予感がしたが、それでもよく見ると、作成途中だった調合魔法の液体が入ったフラスコが割れていた。さらに床をよく見ると、何者かがそれを床にたたきつけ、ベットの下に隠したようなシミなどの跡があった。
「まさか」
その瞬間、大きな炸裂音とともに目の前が真っ白になった
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