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9/21

ボクは、辻褄が合うと思った。

 不思議だ。心の中がものすごく緊張していたのに、一条さんと上手く喋れた。

 前にもこんな事があったような気がする。一条さんに何か言わないとって必死で……あれは、いつだっけ?

 そうだ、去年の――。


「二川、あのさ」

「わ、三井君」

 気付いたら目の前に三井君がいた。声を掛けてくれなかったら、ぶつかる所だったかもしれない。


 水飲み場の前にいる皆を見付けて、考え事をしながら廊下を歩いていたら、いつの間にか皆の近くまで来ていたらしい。


「ねえ。一条さん、怒ってたりしなかったかな?」

 と、三井君が心配そうにボクに聞く。


「え? むしろ、なんだか機嫌が良かったような……」

 ボクは、笑顔で手を振っていた一条さんを思い出した。


「なら大丈夫かな。怒らせちゃったかと思ったからさ」


「どうして?」


「一条さんと仲良くなるためにわざと仕事を残してたなんて、一条さんからしたら気持ち悪いかなと思って……」


 皆と仲良くなれる人は、いつもそんな所にまで気を遣っているのだろうか。

「そこまで心配する事じゃないと思う。一条さん、笑ってた」


「笑ってたんだ。じゃあ平気かな……」


「ボクはむしろ、三井君が怒ってるのかと思って、急いで教室から出てきたんだけど」


「俺が?」


「うん。一条さんにわざと仕事を残してた事、本人に知らせるちゃダメだったのかなって」


「ああ、まあ……一条さんからしたら、ちょっと気まずいかなって思って。問題ないみたいだから、気にしないで」

 三井君はそう言って笑ってくれた。


 ボクは、上手い返事が思い浮かばず、自分のクラスの方を眺めた。一条さんは、中で何をしてるのだろうか。


 ボク達の会話が終わるのを待っていたように、四谷さんが

「なんか、やっぱりドキドキしちゃうね」

 と、ポツリ。


 五木君も見るからにソワソワしている。

「なあ、出てくるの遅くないか?」


「そういえば、硯箱を確認するだけにしては遅いよね」

 三井君も不思議がっている。


 ボクは、一条さんの言葉を皆に伝え忘れていた事を思い出した。

「一条さん、中に何も入ってなかったら、すぐにボク達を呼ぶって言ってたよ」


「だとしたら、プレゼントが嬉しくて泣いてるのかな?」


 四谷さんの仮説を聞いた五木君は

「なんだよ。泣いてるとしたら、かなりかかるって事か?」

 と、ヒソヒソ声で四谷さんに聞いた。


「もし私だったら、なるべく鼻水とか見られたくないから、完全に泣き止むまで呼べないかも」


「じゃあ俺、じっとしていられないから目安箱とか一応見てくるわ」

 五木君はそう言うと、廊下を走り去って行く。


「あいつ、謎解きにハマり過ぎじゃない?」

 四谷さんが、五木君の後ろ姿を見ながらため息をついた。


「でも、俺も面白かったよ」

 と、三井君が笑った。

「あんまり役に立てなかったのが残念だけどね」


「あ、なんか怪しい発言じゃん」

 四谷さんはそう言ったかと思うと、ニヤリとした。

「私ちょっと聞いた事あるよ。三井君と一条さんは仲が良いって」


「そういう関係じゃないよ。

 あの人、好きな人がいるんだってさ」

 三井君は、あまりにもサラリと言った。


 四谷さんは、しばし絶句した。

「……ごめん。私、変な事を聞いちゃった?」


「むしろ、聞いてくれて良かったよ。好きな人がいる一条さんからすれば、俺と仲が良いなんて(うわさ)は広まらない方が良いからさ」

 三井君はそう言って、白い歯を見せた。

「仲良しじゃないらしいよって、友達に伝えておいてよ」


「そんなの嫌だよ。なんか悲しいじゃん。友達なんでしょ?」


「俺は、友達でいてほしいと思ってるけど」


「だったら、仲が良くないなんてわざわざ言う事ないよ。普通で良くない?」


「……そうだね。そこまで遠慮する必要ないか」

 そう言った三井君の笑顔は、少し悲しい表情に見えた。


「ねえねえ。二川君や三井君って、一条さんといつから仲良しなの?」

 四谷さんは、ボクにまで妙な事を聞いてきた。


 ボクが返事に困って三井君の顔を見ると、三井君が口を開いた。

「俺と一条さんは、そもそも仲が良いワケじゃないかも。

 もし好きな人の事で何かあったら相談に乗るって言ったんだけど、それから特に何もないしね」


 ボクは矛盾(むじゅん)を感じた。

 仲が良くないとしたら、一条さんはどうして三井君に好きな人がいる事を話したのか。

 もし五木君に聞かれていても答えただろうか? いや、そうは思えない。一条さんはどちらかというと、秘密にしそうなタイプに見える。それこそ、六花さんくらいにしか言わなそうだ。

 実際、四谷さんすら知らなかったくらいだ。


 ボクがチラリと四谷さんを見ると、目が合った。

「二川君は? 二川君も一条さんと仲良しっぽいよね」


「ボクと一条さん、まだ友達じゃないと思うよ。ボク、一条さんに気まずい思いをさせちゃった事があって、それからまともに一条さんと喋ってないし。

 教室でボクらが喋ってるの、滅多に見ないでしょ?」


「でも今日、私からは仲良く見えたよ?」


「今日は、皆のおかげだよ。一条さん自身も良く喋ってたし」


「あ、そうだよね。もしかして、仲良くなるためのクイズだったのかな? 五木君が言ってた、友情が宝箱ってやつ」

 四谷さんはそう言って、思い出し笑いをした。


「そうだとしたら、六花さんってすごいよね」

 と、三井君。


 すごいで片付けて良いのだろうか。

 仮に班の皆を仲良くさせるためのクイズだとして、どうして六花さんがここまでする必要があったのか。

 そもそも、一条さんと三井君は、どういう流れで好きな人がいるかどうかの話になったのか。それも気になる。

 もしかして、一条さんの好きな人が三井君という可能性も、まだ残されているのでは?

 このクイズが、一条さんと三井君を仲良くさせるために考えられたものだとしたら……。


 ある程度の辻褄(つじつま)が合うじゃないか。


 一条さんは今、教室で六花さんからの手紙でも読んでるのかもしれない。そこには『仲良くなれた勢いで告白しちゃえ!』なんて書いてあって、一条さんは深呼吸をしていて。


 ボクは、考えただけで胸が苦しくなった。

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