表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/21

ボクは、せめて友達であってほしいと願った。

「当たり箱って、いつから思い付いてたの?」


 四谷さんにそう聞かれ、一条さんは笑った。

「ついさっき。四谷さんのおかげ――というか、皆のおかげで」


「皆はともかく、私って何かしたっけ?」


「あのね。最初は二川君と三井君の話で何かが引っ掛かってたの。

 辞書を見ながら化粧箱の話をして、二つの意味があるんだねって時。

 あの時に、他にも何かあったようなって思ったの。だけど、その時は思い出せなくて。

 結局、私が思い出そうとしてたのって、それとは逆のパターンだったんだよね」


「逆?」


「うん。さっき五木君が、化粧箱とか玉手箱とか宝石箱とかって言った時に、また引っ掛かって。化粧箱も、浦島太郎に出てくる玉手箱も、要するに贈り物でしょ?

 それで、私が思い出そうとしてるのって逆だったかもって。あ、割り(ばし)とお手元(てもと)のパターンだって。私と四谷さん、お手元って何だろうねって話した事があったじゃん。

 あの時のお手元みたいに、硯箱に面白い二つ目の呼び方があったなって。それでやっと」


「なんだよ、そんな苦労して思い付いたんなら一秒で言えば良いのに」

 と、五木君。


「違ったら恥ずかしいかなとか思っちゃって。もっと早く言えば良かったかなあ」


「恥ずかしくねえよ。当たり箱なんて、すげえ怪しいじゃんか。俺なら思い付いた瞬間に大騒ぎしてるんだけど。

 なんで自信なさそうにしてたんだ?」


 五木君の疑問に対し、一条さんはこう答えた。

「マイナー過ぎるっていうか、難し過ぎるっていうか……問題を作った人、こんな言葉は知らないんじゃないかなって」


「あ、そういやそうだな。

 当たりめや得手公はわりと普通に使われてる感じがするけど、当たり箱なんて聞いた事がねーもんな。国語の先生くらいしか知らなそうじゃね?」


「そうなんだよね。私もそう思って。たまたま私が知ってただけで、普通は知らないと思う。

 そんなクイズを出すかな?」


 二人の話にも一理ある。けど、ボクは違う方面から考えていた。

「ねえ一条さん。

 やっぱりこのクイズ、一条さんの友達からのクイズなんじゃないかな。だから、わざと一条さんしか答えられないようなクイズにしたのかも」

 そうであってほしいと思った。もしそうなら、なんだか素敵なクイズだ。

 一条さんの事を良く知っていて、たくさん考えていないと思い付かない。そんなクイズだと感じた。


「そういえば、友達からのクイズかもしれないねって、二川君が最初に言ってくれてたんだよね」

 一条さんは、恥ずかしそうに笑った。

「それ忘れちゃってたから、どうせ違うかなと思っちゃって。もし私の友達なら、私の知ってそうな言葉も分かるんだもんね」


「うん。もし当たり箱って答えなら、ボクは良いクイズだと思う。

 筆箱に入ってた筆も、硯箱も、習字に関係してるし。箱がヒントだと思い込んじゃってたけど、筆と合わせて二重のヒントになってたのかも。

 本当のヒントは、箱と筆の両方で」


「あ、そうだよね!? 筆も書道関係なんだもんね。そういうクイズになってたら、本当にすごいね。

 なんで二川君、すぐにそんな事に気付けるの?」


 多分それは、一条さんが書道部に行くのを楽しみにしているのを、いつも見てて知っていたから。

 ボクは心の中でそう思ったけれど、一条さんの質問に照れ笑いを返すのがやっとだ。


 ボクは誤魔化すように、こう聞いた。

「一条さん、今まで誰かに当たり箱の話をした事ある?」


「覚えてないけど、友達にわざわざ言うかなあ……」


「じゃあ逆に考えてみて。

 もし当たり箱の話を前にしてたとしたら、こういうクイズを出してきそうな友達。――そういう人って、いる?」


「あ、それなら一人だけいるかも」

 一条さんは、思い出し笑いをするように少しはにかんで、そう答えた。

「アイツならやりそうだし、私も世間話で当たり箱の話をしてそう」


 親密な関係を物語(ものがた)るようなその口調は、ボクを不安にさせるには十分だった。

 やっぱり、四谷さんが言ったように、男友達からのラブレターが入っているのかもしれない。

 それとも、彼氏からのプレゼント?

 どちらにしろ、一条さんのこの嬉しそうな顔からすると、その人への好感度はかなり上がりそうだ。一条さんは幸せそうだけど、ボクとしては、せめて友達であってほしい……。


 ボクが勝手に泣きかけていると、一条さんが言った。

「私ね、小学校からの友達が別のクラスにいて」


「私、それ知ってるかも。ほぼ毎日、一緒に帰ってる子だよね? 仲良いんだなって思ってたの」

 四谷さんのその言葉で、ボクもすぐ思い当たった。

 一条さんには、親友って感じの女友達がいるのだ。


 嬉しそうに頷いた一条さん。

「そうそう。六花(りっか)って言って、私と大好き同士で。書道部も付き合ってくれてるの。

 わざわざこんな事をするとしたら、六花くらいかなあ。私が六花の家でトイレに行ってる間に、勝手にかくれんぼを始めてたりする奴なんだよね。

 今日も、勉強して待っててくれてるって言ったから、まだあっちの教室にいるはず」


 なるほど。なんだか、全てが繋がった気がした。

「その人かもね。その人なら、その日の内にすぐ筆箱の中身を返せるし。もし一条さんがクイズに気付かなかったとしても、大事(おおごと)になる前にバラして謝れる」


「イタズラ扱いになる可能性、あったよね。私、二川君がいなかったらクイズって気付けなかったもん。

 ありがとう、気付いてくれて」


「いや、まだ分からないけどね。クイズだったら良いよね」

 ボクは、さっきまで一条さんの彼氏を想像して泣きそうになっていたのに、今度は安心感と幸福感で泣きそうになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ