ボクは、せめて友達であってほしいと願った。
「当たり箱って、いつから思い付いてたの?」
四谷さんにそう聞かれ、一条さんは笑った。
「ついさっき。四谷さんのおかげ――というか、皆のおかげで」
「皆はともかく、私って何かしたっけ?」
「あのね。最初は二川君と三井君の話で何かが引っ掛かってたの。
辞書を見ながら化粧箱の話をして、二つの意味があるんだねって時。
あの時に、他にも何かあったようなって思ったの。だけど、その時は思い出せなくて。
結局、私が思い出そうとしてたのって、それとは逆のパターンだったんだよね」
「逆?」
「うん。さっき五木君が、化粧箱とか玉手箱とか宝石箱とかって言った時に、また引っ掛かって。化粧箱も、浦島太郎に出てくる玉手箱も、要するに贈り物でしょ?
それで、私が思い出そうとしてるのって逆だったかもって。あ、割り箸とお手元のパターンだって。私と四谷さん、お手元って何だろうねって話した事があったじゃん。
あの時のお手元みたいに、硯箱に面白い二つ目の呼び方があったなって。それでやっと」
「なんだよ、そんな苦労して思い付いたんなら一秒で言えば良いのに」
と、五木君。
「違ったら恥ずかしいかなとか思っちゃって。もっと早く言えば良かったかなあ」
「恥ずかしくねえよ。当たり箱なんて、すげえ怪しいじゃんか。俺なら思い付いた瞬間に大騒ぎしてるんだけど。
なんで自信なさそうにしてたんだ?」
五木君の疑問に対し、一条さんはこう答えた。
「マイナー過ぎるっていうか、難し過ぎるっていうか……問題を作った人、こんな言葉は知らないんじゃないかなって」
「あ、そういやそうだな。
当たりめや得手公はわりと普通に使われてる感じがするけど、当たり箱なんて聞いた事がねーもんな。国語の先生くらいしか知らなそうじゃね?」
「そうなんだよね。私もそう思って。たまたま私が知ってただけで、普通は知らないと思う。
そんなクイズを出すかな?」
二人の話にも一理ある。けど、ボクは違う方面から考えていた。
「ねえ一条さん。
やっぱりこのクイズ、一条さんの友達からのクイズなんじゃないかな。だから、わざと一条さんしか答えられないようなクイズにしたのかも」
そうであってほしいと思った。もしそうなら、なんだか素敵なクイズだ。
一条さんの事を良く知っていて、たくさん考えていないと思い付かない。そんなクイズだと感じた。
「そういえば、友達からのクイズかもしれないねって、二川君が最初に言ってくれてたんだよね」
一条さんは、恥ずかしそうに笑った。
「それ忘れちゃってたから、どうせ違うかなと思っちゃって。もし私の友達なら、私の知ってそうな言葉も分かるんだもんね」
「うん。もし当たり箱って答えなら、ボクは良いクイズだと思う。
筆箱に入ってた筆も、硯箱も、習字に関係してるし。箱がヒントだと思い込んじゃってたけど、筆と合わせて二重のヒントになってたのかも。
本当のヒントは、箱と筆の両方で」
「あ、そうだよね!? 筆も書道関係なんだもんね。そういうクイズになってたら、本当にすごいね。
なんで二川君、すぐにそんな事に気付けるの?」
多分それは、一条さんが書道部に行くのを楽しみにしているのを、いつも見てて知っていたから。
ボクは心の中でそう思ったけれど、一条さんの質問に照れ笑いを返すのがやっとだ。
ボクは誤魔化すように、こう聞いた。
「一条さん、今まで誰かに当たり箱の話をした事ある?」
「覚えてないけど、友達にわざわざ言うかなあ……」
「じゃあ逆に考えてみて。
もし当たり箱の話を前にしてたとしたら、こういうクイズを出してきそうな友達。――そういう人って、いる?」
「あ、それなら一人だけいるかも」
一条さんは、思い出し笑いをするように少しはにかんで、そう答えた。
「アイツならやりそうだし、私も世間話で当たり箱の話をしてそう」
親密な関係を物語るようなその口調は、ボクを不安にさせるには十分だった。
やっぱり、四谷さんが言ったように、男友達からのラブレターが入っているのかもしれない。
それとも、彼氏からのプレゼント?
どちらにしろ、一条さんのこの嬉しそうな顔からすると、その人への好感度はかなり上がりそうだ。一条さんは幸せそうだけど、ボクとしては、せめて友達であってほしい……。
ボクが勝手に泣きかけていると、一条さんが言った。
「私ね、小学校からの友達が別のクラスにいて」
「私、それ知ってるかも。ほぼ毎日、一緒に帰ってる子だよね? 仲良いんだなって思ってたの」
四谷さんのその言葉で、ボクもすぐ思い当たった。
一条さんには、親友って感じの女友達がいるのだ。
嬉しそうに頷いた一条さん。
「そうそう。六花って言って、私と大好き同士で。書道部も付き合ってくれてるの。
わざわざこんな事をするとしたら、六花くらいかなあ。私が六花の家でトイレに行ってる間に、勝手にかくれんぼを始めてたりする奴なんだよね。
今日も、勉強して待っててくれてるって言ったから、まだあっちの教室にいるはず」
なるほど。なんだか、全てが繋がった気がした。
「その人かもね。その人なら、その日の内にすぐ筆箱の中身を返せるし。もし一条さんがクイズに気付かなかったとしても、大事になる前にバラして謝れる」
「イタズラ扱いになる可能性、あったよね。私、二川君がいなかったらクイズって気付けなかったもん。
ありがとう、気付いてくれて」
「いや、まだ分からないけどね。クイズだったら良いよね」
ボクは、さっきまで一条さんの彼氏を想像して泣きそうになっていたのに、今度は安心感と幸福感で泣きそうになってしまった。




