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ボク達は、ついに当たりにたどりついた?

 五木君は集中力が切れたのか、掃除用具入れを開けてみたり、皆の机の中を覗いてみたり。

 教室の外には探しに行かないものの、落ち着きがなくウロウロしている。


「ダメだ。箱なんてねえ。

 化粧箱とか玉手箱とか宝石箱とか、どれもプレゼントや良い物を入れる箱なんだろ? そういう答えなら良いのにな。

 やっぱり二川の言う通り、何か身近な箱を見逃してるんだろうな」

 どうも五木君、愚痴っぽくなってきた感じだ。


「五木君、付き合わせてごめんね」

 と、一条さん。少し心配そうにしている。


「いや、俺が好きで探してるんだから良いんだけどな。

 ちょっと休憩するわ」

 五木君は笑いながらそう言って、椅子に座った。

 一条さんに声を掛けられて、少し冷静になったみたいだ。

 ……そういえば、五木君が一条さんに強くぶつかっている場面は見た事がないような気がする。五木君は、四谷さん相手の方が話しやすいのかな?


「五木君、お疲れ」

 四谷さんが(ねぎら)う。


「無駄に腹を減らしちまったよ。クイズの答えが弁当箱(べんとうばこ)だったら、すげえありがてえんだけどな」

 五木君はそんな事を言いながら、四谷さんのノートを横から眺めた。

「げっ。俺が調べた場所までメモってんのか。俺、どうせ見付からないけどって言ったのに」


「良いじゃん、こうやって書いていくと楽しいんだもん。……見る?」

 四谷さんは、ノートを五木君に向ける。


「俺が教室を探してた間にみんなが思い付いた部分って、どこからだ?」


「もうあんまり思い付かなくなっちゃったんだよね」

 四谷さんは前置きしてから、ノートの文章を定規(じょうぎ)で なぞった。

「えーっと……うん、化粧箱がココに書いてあるから……ビックリ(ばこ)とか巣箱(すばこ)の辺りから、五木君が教室を探し始めたのかな?」


「だな。ビックリ箱か。

 ビックリ箱の中に、何かビックリする物が入ってるとか?」


 しかし、そういう箱の場合、しらみつぶしに調べるしかない。クイズというより宝探しゲームに近い。

「ボクは、そういう箱の可能性はさっきより下がったと思う。

 そういう系統の箱だとしたら、五木君が探してくれた時に見付かってるハズ。

 やっぱり、箱の場所を当てずっぽうで探すクイズじゃなくて『この箱は学校のココに有る!』って誰でも分かるクイズなんじゃないかな」


「だよねえ……五木君、教室はかなり探しててくれたし」

 四谷さんが、ボクに同意した。

「私もそっち系の可能性が高いと思って、さっきから何度もノートのリストを見直してるんだけど……塵箱や道具箱が怪しかったくらいで、その辺はもう全部チェック済みなんだよね」


「うーん……」

 なんだか、完全に行き詰まってしまった感じだ。


 教室が静かになった。――その時。


 一条さんが、小さく手を挙げた。

「あのね、多分違うと思うんだけど、一応……」


「一応で大丈夫でしょ。私なんて、跳箱とかビックリ箱とか言ってるんだから。思い付いたのは全部言おうよ」

 四谷さんが笑いながら、メモを取る用意をした。


「ありがとう。

 でね、ウチのおばあちゃんがね、硯箱(すずりばこ)の事を当たり箱って言うの。縁起が悪いからって」


「縁起が悪いってどういう事?」

 五木が聞いた。


「受験生が『滑る』って言われたくない話とか、結婚式のスピーチで『切る』とか言うのを避けるの知らない?」

 と、四谷さん。

「前にお母さんの買った雑誌の特集で読んだけど、果物の(なし)を『有り』って呼んだり、動物の(さる)を『得手(エテ)』とか『得手公(えてこう)』って呼んだりするらしいよ」


「いや、縁起が悪いの意味自体は、一応なんとなく分かるよ。

 梨とかについては知らなかったけど、それが『有り無し』の『無し』で縁起が悪いって事は一発で分かった。それは分かりやすいじゃん。

 なんつーか、硯箱は何が縁起が悪いのかなって思って」


「硯は……なんだろね?」

 それについては四谷さんも分からなかったようで、困ったように一条さんを見た。


「私もおばあちゃんに聞いたんだけど、昔は『すり』とか『する』って言葉が嫌がられてて。だからそれを『大当たり』の『当たり』に変えた言葉が出来たみたい。

 (するめ)を当たりめって呼ぶ人が特に多かったんだって」


「マジかよ、俺の親どっちも『アタリメ』って言ってるわ。

 あれって『当たり外れ』の『当たり』だったのか。うわ、親に教えてやろ! どうせ意味とか知らねえで言ってるよ」

 五木君は、今日一番の大喜び。


「それで、鯣の『する』が嫌がられて当たりめになったみたいに、すり(ばち)を当たり(ばち)、硯箱を当たり箱って言うんだって」

 一条さんは、ちょっぴり自慢気というか、なんだか嬉しそうに説明を続ける。


 三井君も辞書を確認しながら感心している。

「へえー、面白いね。なるほど、たしかに載ってるよ」


「辞書にも書いてあるなら、当たり箱で当たりなんじゃね? だって当たり箱だぜ?」

 と、五木君がなんだかややこしい言い方をしたものだから、四谷さんがクスッと笑った。


「なんかその言い方、ちょっと変じゃない?」


「でもさ、当たり箱だぞ? 当たり箱ってすごくね? 当たり箱で外れだったら何が当たりなんだよ」

 五木君に真面目な顔でそう聞かれた四谷さんは、我慢出来ずに吹き出してしまった。

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