ボクには、心当たりがなかった。
「二川、あのさ」
と、三井君が耳打ちしてきた。
「化粧箱も箱だなって思ったんだけど、女子って、今の歳でも化粧品を貰ったら嬉しいのかな?」
ボクにそんな事が分かるワケがない。でも、聞かれた瞬間に何かが引っ掛かって、即答が出来なかった。
化粧箱って、親が何かの時に言ってたような……。そうだ、お茶のギフトを貰った時だ。
「……たしか、化粧品を入れる箱という意味以外にも、ギフトボックスの事を化粧箱って言ったりするよね?
贈り物を入れる箱が化粧してるって意味で」
「そうなの?」
三井君は、国語辞典を取り出して手早く調べ始めた。
「――ああ、本当だ。二つの意味が有るんだね。二川、良く知ってるなあ」
「どうしたの?」
一条さんが、ボクの隣に回り込んで来て、開いてあるページを覗き込んだ。
三井君が、人差し指で説明文を指した。
「ホラ、コレ見てよ。化粧箱って、プレゼントボックスって意味も有るんだってさ。クイズの答え、化粧箱だと良いね」
「そういえば、化粧箱って聞いた事があるかも。三井君、頭良いね」
「いや、俺はもう一つの意味までは知らなかったんだよ。二川が知ってたんだ」
「二川君、良く知ってたね」
「あ、俺も今それ言った」
と、三井君は嬉しそうな反応を見せた。
「そうだよね、言っちゃうよね」
一条さんも共感している。
「もしクイズの答えがプレゼントボックスだったら、どんなプレゼントが嬉しい?」
三井君に聞かれて、一条さんは微かに戸惑ったように見えた。
「――なんだろう。友達とかが用意してくれたなら、なんでも良いかな。あんまり高い物じゃないと良いな。ちょっとした物でも、すごく嬉しいかも」
「ちょっとした物だったら封筒にも入れられるし、帰ったら家の郵便箱に届いてるかもしれないね。一条さんの家は、郵便受けってどんな形? 箱っぽい?」
三井君は、上手く話題を膨らませて一条さんと会話を続けていった。
ボクは、こういう時にどう盛り上がれば良いのか分からない。
だから殆どの場合、ただ黙って他の人の様子を見ている。
普段はそうしていても全然気にならない。むしろ、変に注目されるより、皆の話を聞いているだけの方が気楽なくらいだ。
……けれど、一条さんが男子と仲良くしている時だけは、気になって仕方ない。
ボクが自分の恋心に気付いた理由も、一条さんの笑顔を見るのは好きなのに、それが男子へ向けられていると不安になったからだ。
「なあ、玉手箱はもう出たか?」
新しい箱を思い付いた五木君が、一条さんと三井君の話に割って入った。
「つーかそもそも、玉手ってなんだ?」
「玉手箱も調べてみようか」
三井君がパラパラと辞書をめくる。
「んー……。これも化粧箱に近い意味だね。元々は手箱なのかな。化粧道具等を入れる箱。で、玉手箱は重要な物の比喩としても使われる」
それを聞いて、ボクはふと思い付いた。
「そういえば、宝石箱もそういう感じだね。まるで宝石箱のような、とか……」
「あ、そうだよね!」
一条さんが、ボクの耳の近くで、嬉々として相槌を打った。
「二川君、頭がやわらかいよね。
これがクイズだって気付いてくれたし」
好きな人にほめられても、今のボクは素直に喜べない。もしクイズじゃなかったら、気まずいなんてレベルじゃないからだ。
「クイズかどうかはまだ分からないよ?」
と、一条さんに念を押した。
しかし、彼女は首を振った。
「もしクイズじゃなくても大丈夫だよ。二川君のおかげで私、この状況をすごく楽しめちゃってるから。もう、クイズじゃなくてもクイズだよ」
泣きそうになった。
一条さんを好きな気持ちが、一気に溢れてくる。
「一条さん、ありがとう」
「あ、私が言おうとしてたのに!
また先に言われちゃった。もー」
一条さんは、ちょっと悔しそうな顔をしたけど、その後すぐに機嫌良さそうに笑った。
ボクも、一緒に笑った。
……でも、またって、いつの話なんだろう。ちょっと思い当たらないけれど……。
まあ、一条さんが喜んでくれてるから良いや。