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ボクの適当な推理で、クイズということになった。

 一条さんの筆箱を、皆で覗き込んだ。

 たしかに、ボクの筆箱と同じように筆が入っている。一本の筆以外は何も入っていないトコロまで、そっくりだ。

 ただ、ボクの方はいわゆる絵筆で、一条さんの方は本当の、というかなんというか……要するに、習字に使うあの筆だった。


「マジ!? 俺のは平気なんだけど」

「私のも大丈夫」

「俺も、いつも通りみたいだ」

 残りの三人が慌てて筆箱を探ったが、変化はないようだった。


 ボクと一条さんの筆箱だけ?

 ボクは、思わず一条さんを見た。


 一条さんも、不安そうにこちらを見ていた。

「私が休んだせいで誰かに迷惑かけたとかで、意地悪されちゃったのかな?

 二川君は、巻き添えみたいな感じで」

 申し訳なさそうに言う一条さん。


 ボクは胸が苦しくなった。

「意地悪とかじゃないと思う。それにしては変だし」

 まだ考えがまとまっていなかったが、とにかく否定した。とりあえずフォローしなければならないと思ったからだ。

「えっと……」

 言葉が出てこない。


 みんながボクを見ている。


 気まずくなったボクは筆を見つめて、ある事に気付いた。

「えっと……もしかしたら、クイズか何かかも?」


「クイズ?」

 一条さんは、キョトンとしている。


「うん。誰かがクイズを出してるんだよ。だってホラ、この筆、七百円だよ?」

 ボクはそう言って、値段のシールを見せた。

「どう見ても新品だし、ただのイタズラにしてはおかしいよ」


「あ。私の筆も、五百円する」


「そうなると、合わせて千二百円でしょ? 嫌がらせでそんなにお金使うかな。

 一条さんは病み上がりだし、このクイズとプレゼントで元気になってねって事なんじゃないかな?」


「クイズで元気になるかあ?」

 と、五木君。


「ボクが結構クイズ好きだから、ボクの友達がやったのかもしれない」

 別にクイズなんて好きじゃないけれど、とりあえずそう言っておこう。


「たしかにお前、クイズとか好きそうだよな。なんだよ、お前のせいかよ」

 五木君は素直に納得して、笑い出した。

「そんで、どういうクイズなんだ?」


 もしかしてクイズかもと言っただけだったけど、もうこうなったら、クイズという事で通すしかない感じだ。

「クイズだとすると……筆()()を筆箱に入れておかないと成り立たないクイズなら……」

 ボクは、一条さんに少しでも安心してもらうため、わざと口に出しつつ推理した。

「やっぱり、箱が怪しいんじゃないかな。何かの箱に、名前のものが入ってるっていう事なんじゃ?」


「何言ってんだ?」

 五木君が聞き返した。


 五木君に上手く伝わらなかったみたいだ。三井君と違って、ボクは口下手だからなあ。

 例を挙げた方が、五木君に分かりやすいな。

「筆箱みたいに、昔の呼び名だけがそのまま残ってて、実際は別の物を入れる箱のパターンとか。

 例えば、今は下駄箱(げたばこ)にゲタなんて入れないけど、下駄箱って名前はわりとそのままだったり」


 スッキリしないような顔をしていた四谷さんが、嬉しそうな顔をした。

「あー、靴箱(くつばこ)なのに下駄箱って言っちゃうよね。私の小学校の下駄箱、ボロくて完全に下駄箱って感じで、普通に下駄箱って呼ばれてた」


「そうでしょ?

 そんな感じの箱があるのかもしれないなって。とにかく、どちらにしろ箱が怪しいと思う」


「うんうん、一理あるかも」

 四谷さんはそう言うと教室を見回し

「良く考えたら、黒板だって黒くないもんね」

 と、つぶやくように言った。


「だったら、もしかして……?」

 五木君が、楽しそうに教室の隅に向かう。……しかし、行きとは真逆のつまらなそうな顔をして、戻ってきた。

「ダメだ。塵箱(ごみばこ)を見てみたけど、普通のゴミがちょっと入ってるだけっぽいな。ゴミ捨ての後だし」


「だけど、塵箱が箱だってすぐに気付いたのは、わりとすごい事だよ」

 ボクは素直にそう思った。こういうのは、固定観念やらなんやらで、意外と気付けない事だ。


 五木君は途端(とたん)に上機嫌になって

「だろ? こういう事だろ?」

 と威張った。


「ボクはそういう事だと思う。筆箱の中に筆が入ってた、ってヒントから考えるしかないし」


「だったらさ、賽銭箱(さいせんばこ)は?」


「学校に賽銭箱なんてないだろうから、遠過ぎるかな。もっと近場で、分かりやすい答えだと思う」


「ダメかあ……。

 あ、御払(おはら)(ばこ)ってのは?」


「御払い箱の中に御払いが入れてあるってなると、意味が分からないかなあ」


「あー、そうだったな。難しいな。箱って部分しか思い付かねえや」


「いや、箱がハイペースで思い浮かぶのはすごいよ。五木君、どんどん言ってよ」

 そもそもボクは、五木君がバカにせずに話を聞いてくれた事が嬉しかったのだ。


「おう」


 ふう、良かった。五木君が乗り気になってくれたおかげで、雰囲気が明るくなった。

 こういう時に重要なのは、意見を伝えやすい空気だ。


 ちょっと安心した時、一条さんと目が合った。


「箱って、救急箱(きゅうきゅうばこ)じゃダメだよね?」

 一条さんは、見るからに自信なさげにボクに聞いた。


 救急箱か。有りそうだけど、問題は……。


 考えていたボクより先に、隣の四谷さんが口を開いた。

「いや、救急箱ってかなり良いんじゃないの? 今って緊急時(きんきゅうじ)っぽくない?」

 落ち着いている一条さんとは対称的に、四谷さんは随分(ずいぶん)と興奮している。


 女子二人は顔を見合わせてから、何故かボクの方を見た。

 なんだか、さっきから皆がボクの意見を聞こうとするなあ。ボクがクイズ好きって言っちゃったせいか、変な感じになっちゃったのかな。

「うん、考え方としてはかなり良い気がする。ただ、保健室の救急箱の中身を生徒がいじるのは、ちょっと難しそうだよね。クイズを作った人が仕込めないかも」


 ボクの意見を聞いて、悔しそうな顔をする四谷さん。

「あ、そっか。基本的に教室にある物で考えないとダメだね」

 四谷さんはそう言うと、ノートを取り出してメモに書き始める。


「下駄箱とかには生徒だけでも触れるから、教室とは限らないけど……」

 ボクがそう補足すると、四谷さんはボクの言った通りに追記した。どうも、四谷さんもクイズに本気になってきたみたいだ。


 ……もしクイズじゃなかったら、皆に謝ろう。

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