ボクも、アイスミルクティーで。
「本当にごめんね。すごく待った?」
自転車から降りた八戸さんが、一条さんに話し掛けた。
「大丈夫です。来たばかりですよ」
一条さんが答える
「良かったあ、そうだよね。長くて数分だよね」
八戸さんは安心したように笑うと、ポケットを探り。
「いやー、準備万端だと思って待ってたんだけど、コレ買い忘れてるのに気付いて。
前に、私の見て気に入ってくれてたでしょ?」
一条さんは驚きながらそれを受け取る。
「えっ!? 買いに行ってくれたんですか!?」
ボクも覗き込んでみた。
一条さんが大事そうに持っていたのは、イヤホンだった。耳に当てる部分が、小さな猫の形になっている。
「すみませんわざわざ。いくらでしたか?」
一条さんが財布を出した。
「ああ、良いの良いの。百円ショップの物だから」
と、レシートを見せる八戸さん。
「ちゃんと二川君を連れて来てくれたから、そのお礼って事で! ね?」
「嬉しいです。ありがとうございます」
「むしろ私がありがとうだから」
玄関を開けながら八戸さんが笑い返す。
「二人のデートの邪魔しちゃってゴメンね?」
「デ、デートじゃ……」
一条さんは消え入りそうな声で返事をした。
「はい、どうぞどうぞ」
八戸さんがスリッパを並べて、ボクらを歓迎した。
「二川君、来てくれてありがとうね。ちょっと大きくなった?」
「あ、私もそれ気になってて」
と、すかさず反応する一条さん。
「伸びてる気がするんですよね」
「そうだよね。ちょっと二人、背中くっつけて見せてよ」
「せ、背中くっつけるんですか?」
背中をくっつけたりして嫌われないかな? でも、断るのも変なもんだ。
ボクは緊張しながら、一条さんと背中を合わせた。
「んー……」
八戸さんが、ボクらの頭を交互に見る。
「同じくらい? ――もうちょっと、くっついちゃおうか」
ボクは八戸さんにお腹を押されて、密着させられた。
うわわ……! 首筋に、一条さんの髪の毛が。
八戸さんはさらに悩んでから
「……ほんのちょっと、二川君の方が大きいのかな?」
と、結論付けた。
「あ、やっぱり!
抜かされたかもって思ってたんですよ」
と、笑顔の一条さん。
「聞けて良かったー。八戸さんのおかげでスッキリしました」
「えー奈々ちゃん可愛い。別に、二川君に直接聞けば良いのに」
「身長なんて聞いたら、おかしくないですか?」
「おかしくないと思うよ。クラスメイトでしょ?」
「そうですけど……気にしてたりしたら……」
「あー、そういうの分からないもんね」
「そうですそうです! だから聞けなくて」
一条さんは、やや興奮しながら頷いた。
「言ったじゃないですか。何を話して良いか分からないって」
「本当にそうなんだねー……でも、せっかく二川君に来てもらったんだから」
八戸さんはそう言うと、一条さんの肩を揉みながら、押し運ぶように居間に進んだ。
「普段聞けない質問したりして、たくさん話そうよ」
「今日はもう、学校でたくさん話せましたよ。
六花が変な事を始めて」
「何それ。聞かせて聞かせて!」
八戸さんは、興奮しながらコップを食器棚から取り出した。
「紅茶とココアとサイダーがあるかな。どれが良い?」
「えっと……?」
ボクと一条さんは、選択に困って顔を合わせた。
「私、全部好き」
「ボク、ストレートティーは苦手だけど、それ以外なら」
「ゆっくり話して決めて良いからね。
私はとりあえずアイスミルクティーにする」
と、作業を始める八戸さん。
八戸さんのその言葉を聞いて、ボクは慌てて
「じゃあボクも、アイスミルクティーで」
と伝えた。
「わ、私もアイスミルクティー」
「この子達は、もー……。
二人でそんなに遠慮してたら、そりゃ話せなくなっちゃうよ」
八戸さんは背中を向けたままだったが、声を聞くだけで、八戸さんが笑っているのがボクにも分かった。
「どっちかグイグイ質問しないと」
それを聞いたボクは、一条さんと目を合わせてみて――お互いに照れ笑いをした。




