ボクの好きな人の親友は、とても良い人だった。
ボクは、猫のお墓参りを引き受けた時から、一つ心配していた事があった。行きは一条さんが一緒だから良いけど、問題は帰り道だ。
八戸さんの家からボクの家まで、一人で歩く事になるのだろうか?
ボクは方向音痴で、知らない道を一人で帰れる自信がない。
でもそれを告白したら、一条さんは連れて行ってくれないかもしれない。だから秘密にしていた。
既に全然来た事のない場所にいる……かなり不安だ。
「八戸さんの家まで、残りどれくらいなの?」
「えーっと……あのお弁当屋さんのトコロまで行けば、半分くらい?」
一条さんの指先を見ると、カラフルな旗が店先に並んでいた。
「へえ。『ハンバーグ弁当四百円』だって」
安いなあ。それに、付け合わせのポテトが美味しそうだ。
「アレ、美味しそうだよね。
私、皮付きのポテトが好きだから、あの旗を見るといつもお腹空いちゃって……」
一条さんが、ちょっと恥ずかしそうに微笑む。
「じゃあ、帰りなんてお腹ペコペコ?」
「ううん。八戸さんの家で、お菓子を食べさせてもらえるから」
「ああ、そうだったね」
ボクは、モグモグと嬉しそうにお菓子を食べる一条さんを想像して、思わず笑った。
「でも、さっき聞いた時にはビックリしたなあ。
一条さんが、毎回お菓子を食べて帰ってるなんて」
「だって、本当に気付かなかったんだもん。
お姉さんの家の中で食べるから、自分の家で食べてるみたいな感じで」
「分かるけどさあ……」
「もう言わないで。すごい恥ずかしい」
一条さんが、顔を手で半分隠した。
わあ、マズイぞ。嫌われてしまう。
違う話題を……そうだ、お姉さんの話をしよう。
「それにしても、あのお姉さんも人が良いよね。
わざわざお菓子を作ってくれるなんて」
「お姉さん良い人なんだけど、ちょっと勘違いしてるんだよね……」
と、一条さんは複雑そうに思い出し笑い。
「勘違い?」
「私とお姉さんの共通する明るい話題って、二川君の話くらいしかなくて。
だから『あの時の男の子とは、学校でも仲が良いの?』『いえ、あの日まではあんまり話した事がなかったんですよ』『そうなんだ。すごく優しかったね』とか、話してたの」
「うん」
「そしたらお姉さん、私達が学校でも仲良しだと思ったのか、次は二川君と一緒においでよって言い出しちゃって。
私、二川君に迷惑だから頼めないですって断ったんだけど、男の子の好きそうなお菓子を作って待ってるって。お菓子が余ったら困るから絶対に連れて来てねって、すごい念押しされちゃって。
それで困って、六花に相談してたの。そしたら六花が暴走して、あんなクイズを作っちゃって」
「ああ、そういう理由だったんだね」
なるほどなあ、だからあんなに考えて……。
「バカだよねえ、六花。
私への手紙の二枚目には『二川君と話せた? もし仲良くなれたら、お墓参りに誘っちゃいなよ。二川君は優しいから平気だよ。絶対に来てくれるよ』って、勝手に決めつけて書いてあった」
一条さんは、ちょっと怒っているようにも見えた。
「……だけど、分からないじゃんね?」
色々な思いが頭の中でケンカして、すぐに返事が出来なかった。
「……良い友達だね」
上手く言えないけど、まずはそう思った。
「うん。
……たまに、思いっきり抱き締めてあげたくなっちゃう。すぐ偉そうにするから、言わないけどね」
そう言って笑う一条さんは、とても素敵で爽やかで。
隣を歩ける事を幸せに感じた。
【作者からのお知らせ】
更新が遅くなってすみません。
去年手術(詳細は活動報告に書いてます)した傷口から血が出てきてしまい、高熱でしばらく何も出来ませんでした。
また、今後の予定として、今月は複数回の大きな検査が有り、三月に一回目の再手術が有ります。
次回以降の更新も遅くなるかもしれません。ブクマとかして、たまに覗いて見てもらえたら嬉しいです。




