ボクは、ドキドキしてしまった。
「やったー、二川君とお墓参りだよー」
一条さんは、六花さんの手を握って、嬉しそうに腕を振った。
「ほらね。二川君を誘ってみれば良いのにって、前から思ってたんだよね。
私のおかげなんだし、感謝しなさいよー?」
六花さんが、わざと大げさにふんぞり返る。
「お礼は五千円で良いからね」
「なんでよ! 二川君、本当は困ってるのかもしれないじゃん」
一条さんはムッとしてみせて、六花さんから手を離してぺチンと叩いた。
「私、二川君には何も言わなくて良いからねって、あれほど注意しておいたよね!?」
「だって、ずっと黙って見てたじゃん私。なのに奈々、お礼すら言わないし。
私が手伝わないと、クラス替えまで何も出来ないと思って」
「いつも言ってるでしょ! 馴れ馴れしくして嫌われたくないの!」
「知ってるってば。だから私が手紙で伝えてみたんじゃん。
これなら、嫌われるのは六花じゃなくて私だから、大丈夫でしょ?」
「全然大丈夫じゃないから。それが二川君のストレスになって、病気とかになったら嫌じゃん」
「なにその発想、可愛いんだけど」
「何言ってんのバカ! 私達、変に思われるよ!?」
「私は二川君とクラス違うし、別に平気だもんね」
「ひっど!」
六花さんと激しく言い合う一条さんを見ながら、ボクは心の中で笑った。
それが顔に出ていたのか、一条さんはボクと目が合うと、微笑んだ。
「ねえ二川君、ガムテープ切ってくれる? 六花の口を塞ぎたいから」
「えっ……」
ボクには、その言葉が冗談か本気か分からない。困って六花さんを見てみる。
「ガムテープはさすがにひどいって!」
六花さんは慌てて抗議。
「ガムテープをしたまま帰らせるくらいしないと、反省しないもん六花」
一条さんは、六花さんの片腕を抱きながら、ニヤついた。
「そんな事をして良いの? 奈々が優しくないのがバレたら、それこそ二川君に嫌われちゃうんじゃないの?」
六花さんは一条さんから離れようとモゾモゾしながら、言葉でも牽制をする。
「二川君は、そんな事では嫌ったりしない人だもん。
あっ、暴れるな六花! コラ!」
六花さんが逃げようとしたが、一条さんに腰を掴まれる。
「ちょっと!」
六花さんは、床に倒されて笑っている。
「危ないよもー、捻挫したらどうするの!」
「逃げるのが悪いんじゃん!」
一条さんは反論してから、無邪気な顔でボクの方を見た。
「ねえ二川君、逃げられないように六花の足を押さえつけててくれない?」
「そ、そんな事は出来ないよ」
ボクは答えながら、こっそり二人をチラチラ見た。
今以上に二人に近付いたら、鼻血が出ちゃいそうだ。
二人が床でドタバタして、スカートがちょっと乱れているので、ボクはすごくドキドキしちゃっている。
「奈々、二川君に断られちゃったじゃん。嫌われたんじゃないの?」
「二川君は、六花と関わりたくなかっただけだから!」
一条さんは、再びキャアキャアと六花さんとやり合り始める。
一条さんの健康的な笑顔と太ももに、ボクの心臓が高鳴る。しばらく、一条さんの顔をまともに見られそうにない。
……それにしても一条さん、六花さんがいるからか、今日はすごく自然な感じだなあ。なんというか、元気だし、よく喋る。
ボクがそんな風に思っていたら、六花さんも似たような事を考えていたようだ。
「でもさ、奈々から聞いてたより普通に喋れてるよね。二人」
と、六花さん。
そうかもしれない。なんでだろう。
一条さんも、少し不思議そうな顔をした。
「今日はなんか、ちゃんと話せて」
「朝から?」
六花さんが聞く。
「ううん。放課後から。
放課後まで、ほとんど会話してないよね?」
今度は、一条さんからボクへの質問だ。
「うん、してない」
自信があるので、ハッキリ答えた。
なにしろ、一条さんが学校を休んでいた日、ボクは心配で仕方なかったのだ。だから今日は、いつも以上に一条さんに注目してしまっていた。
今朝から今までの事は、よく覚えている。
今朝、一条さんが教室に入って来た時、すぐ皆が一条さんの体調を気遣った。ボクは一条さんの元気な顔を見れて嬉しくて……でも、話し掛ける事は出来なかった。
「そもそもボク、今日は朝からほとんど喋ってないと思う」
「なにそれ、なんで!?」
と、驚く六花さん。
「今日はなんか、いつも以上にボケっとしてて……」
と誤魔化した。
まさか、一条さんに見とれていたとは言えない。
「そういえば奈々も、私のクラスメイトとかと一緒の時は静かになるよね」
六花さんはそう言うと、心配そうにボクらを見た。
「大丈夫? この後のお墓参り、二人きりになった途端に無言になったりしない?」
「せっかく二川君が一緒に来てくれるんだから、頑張る!」
一条さんはそう宣言したが、何を思ったのか
「あ、ちょっと待って! 今のナシ!」
と、慌てて訂正。
「もー、何?」
六花さんが思わず笑った。
「二川君って、うるさい人と静かな人、どっちが好きかなって思って。静かな方が良ければ、喋らないし私」
「え?」
そんなの、考えた事もないよ。どう答えよう。
静かな人は好きだけど、一条さんが元気だと嬉しいし……。
と、とにかく早く返事をしないと。
「ボク、一条さんならどっちでも大丈夫だよ」
「そ、そうなの?」
一条さんが、驚いたような顔をする。
しまった。一条さんならなんて、変な言い方をしてしまった。
焦るとすぐこうだ。気持ち悪い事ばかり口走ってしまう。
冷や汗をかきながら、ボクは祈った。
どうか、今ので一条さんに怖がられていませんように。さっき太ももを見たのも、バレていませんように。




