表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/21

ボクは、迷惑なワケがなかった。

「うー、六花はああ言えばこう言う……。

 連れて来るんじゃなかった。全然手伝わないし」

 一条さんは、六花さんとふざけ合いながらも、既に記事のタイトルの一文字目をペンで清書している。

 惚れ惚れするくらい綺麗な字だ。


「手伝いったって、私は何を手伝えるの? タイトルを書くだけだよね?」

 六花さんはそう言いながら、筆の先で一条さんの頬をくすぐっている。


「遊んでないで、下書きに消しゴムかけてよ」

 と、一条さん。


「消しゴムかけるって、消しゴムで消すって事?」


「そう。

 言わない? 消しゴムかけるって」


「それも、おばあちゃんの言葉?」


「いや、これはみんな使ってるでしょ。

 二川君も、消しゴムかけるって言うよね?」


 わ。一条さんがボクに聞いてくれた。

「うん」


「ほらね! 二川君、前に消しゴムかけるって言ってたもん」

 一条さんは、鬼の首を取ったように六花さんに訴える。

「消しゴム上手いんだよ、二川くん」


 下書きを消していた六花さんは、それを聞いて手を止めた。

「だったら、二川君に消しゴム頼んだ方が良くない?」


 一条さんは、困った様子でボクを見て

「ふ、二川君は今から絵を描くトコロだもん! ね?」

 と賛同を求めた。


 やっぱりボク、一条さんに警戒されてるのかな。

「いや、どうせ絵はまだ思い付かないから、どっちでも……」


「二川君、絵を描く役なの?」

 六花さんがボクにたずねた。


「あ、えっと……イラストをここに入れなきゃいけないんだけど、何の絵にしようかなって。環境問題の記事だから、木とかかな?」


「木と猫の絵にすれば? 猫の絵、上手いんだよね?」

 と、六花さん。


 猫の絵?

「上手いかなあ?」


「奈々ね、猫の絵すっごく喜んでたよ。

 猫の絵を描いて、お墓に埋めてくれたって。優しい絵だったって」


 ああ、あの日の絵か。

「あれは、違うんだよ。

 猫のお墓を作ってる時に一条さん、言ったんだよ。猫、すごく()せてたから、お腹が空いてて車を避けられなかったのかもって。

 だったらせめて絵の中だけでもと思って、周りに食べ物があって、猫が楽しそうにしている絵を描いて……」


「それが優しいんじゃん」

 と、ほめてくれる六花さん。


 でもボクは、素直に喜ぶ気にはなれなかった。

「本当に優しい人は、お腹が空いてたのかもって思える一条さんだよ。ボク、そんな事は気付かなかったもん」


「だけど二川君、猫が何を好きなのか奈々に聞いて、紙が食べ物で埋まるまで全部描いてあげたんでしょ?」


「あれは、ボクの自己満足で埋めただけだし」

 ボクは恥ずかし過ぎて、なんだか泣きそうになった。

 あんなのはただ、一条さんに泣き止んでほしくて、その場しのぎの時間稼ぎのために、とにかく大量の食べ物を描いてみただけだ。

 リクエストされた食べ物を描いたら、一条さんは泣きながらほんのちょっと笑ってくれて。

 それで調子に乗って、途中からは励まそうなんて気持ちは忘れて、絵の方に集中しちゃったんだ。いつの間にか外が暗くなっていて、それでも一条さんは文句一つ言わないで、絵が完成するまで見守ってくれていた。


 それなのにボクは、最後に余計な事を言って……。

「やっぱり、優しいのは一条さんだよ」


「もー、そんな事ないって。奈々、二川君は優しいっていつも言ってるからね。

 奈々ね、二川君が猫の絵を描いた次の日の朝、私に前日の説明してる内に思い出しちゃって、本当は校門の近くまで泣いてたんだよ?

 だけど奈々、二川君はすごく優しいから、私が泣いてたらきっと心配するって言って……」


「六花、バカ!」

 大慌てで口を挟む一条さん。


 六花さんは、ムッとする。

「奈々、なんで怒るのよ。

 感謝の気持ちを伝えるくらい良いじゃん。私、そこだけは絶対におかしいと思う!」


「だから! 二川君となかなか二人きりになれなくて、その内に時間が経って今さらって感じになって、言いにくくなっちゃったって言ってるでしょ!」


「じゃあ今ここで言いなよ。二人きりだし」

 六花さんが提案した。


 しかし一条さんは

「二人きりじゃないじゃん、変なのがいるじゃん」

 と、顔を真っ赤にして言い返した。


「ん? 二人きりになったら言えるなら、二人きりにしてあげるよ?」

 とニヤつく六花さん。


「また変な言い方して! 二川君が困っちゃうでしょ!」


「なんで? 感謝の気持ちを伝えるだけで、二川君が困るの?」


「ち、違くて! 二川君は私と話をするのなんて、きっと苦手だから……」


「えー? 話を聞いてると、そうは思えないよ?」

 と、一条さんに反論する六花さん。心の中で応援していたら、六花さんと目が合った。

「二川君、奈々にありがとうって言われても、別に迷惑じゃないよね?」


「め、迷惑なワケないよ!」


「ホラ! 二川君は、奈々のありがとうを聞きたいってよ?」

 六花さんはそう言って、ボクを一条さんの前に押し出した。


 一条さんが困った顔をしているのは、きっとボクのせいだ。

 ボクが、あまりにも会話が下手だから。


「あ、あの」

 自分の声が震えているのが、ハッキリ分かった。

「あの日、何も言ってあげられなくて、ごめんね」


「そんな事ない!

 私、すごく嬉しくて……」


「そうなの?

 ボク、嫌われちゃったかと思ってたんだけど」


「なんで?」


「だってボク、一条さんを上手く(はげ)ませなかったし……無神経に絵なんて描いて、最後にたくさん泣かせちゃったから」


「アレは違うの。二川くんは悪くないから大丈夫」

 一条さんは、ボクに優しく笑いかけてくれた。ボクが大好きな、いつもの笑顔だ。


「そっか、良かった」

 本当に良かった。嫌われてないんだ。

「ボク、ずっと不安で」


「私も、二川くんにたくさん迷惑かけちゃったから心配で」


「さっきも言ったけど、迷惑なんて、ありえないって!」

 ボクは、今度は強く念を押した。

 そして、ボクの声の大きさに驚いた一条さんを見て、少し冷静になった。

「め、迷惑なんて、思った事ないから。大丈夫」


 一条さんとしばし無言で見つめ合って……急におかしくなって、同時に笑ってしまった。


「大丈夫大丈夫って二人で言い合って、すごい仲良しじゃん!」

 六花さんが嬉しそうに笑う。ボクと一条さんは我に返り、恥ずかしさでお互いに顔が赤くなってしまった。

 その反応を見た六花さんが、ボクらをさらにからかう。


 ボクは照れ隠しに笑いながら、心臓の鼓動が(しず)まるのを待った。でも、一条さんと何度も目が合って……。


 ようやくボクらが落ち着けた頃には、六花さんは笑い疲れてヘトヘトになってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ