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12/21

ボクは、聞きたい事だらけだった。

「六花、いつものノリは絶対にダメだからね」

 一条さんの声が、廊下から聞こえる。


「分かってるって。心配し過ぎだから」

 もう一人、女の子の声。これが六花さんだろう。

「失礼しまーす。こんにちはー」

 六花さんが、元気良く教室に入ってきた。


「こ、こんにちは……」

 ボクも、自分なりに頑張って返事をした。

 一条さんの友達に、嫌われないようにしないと。


 六花さんは部屋の中を確認するなり、笑顔になった。

「あれっ、二川君だけしかいないんだ?」


「バカ! 変な事は言わないでって言ったでしょ!」

 一条さんは、強い語気で六花さんを責め立てる。


「えー、変な事じゃないじゃん。なんて謝ろうか困ってたから、二川君だけで安心したってだけで」


「六花が二川君を見て安心したら、おかしいから!」


「だって、二川君の話は普段から聞いてるし――」


「ちょっと! 変に思われるでしょ!」

 と、やけに慌てる一条さん。

 ボクの目線が怖いとか、そういう相談をしているのだろうか……。


 一条さんと対照的に、六花さんは気楽そうに笑っている。

「変になんて思われないってば。平気平気」


「六花の意見は聞いてないから!

 不自然な事は絶対にしないでよ」

 一条さんにしては大きな声で、念を押した。


「不自然な事って言われても、何が不自然か分からないし無理だよ」

 と、六花さんは平気で言い返す。

「二川君に質問があるんだけど、それも聞いちゃダメなの?」


「ダメに決まってるでしょ。

 ――それより、二川君にちゃんと謝って!」


「あ、そうだった」

 六花さんは、カバンの中からハンカチで包まれた筆記用具を出すと、ボクに手渡した。

「ごめんね二川君。コレ、筆箱の中身ね。ちゃんと全部あるか確認してみてね」


「あ、ありがとう」

 ボクは慎重にハンカチを受け取り、筆記用具を筆箱の中にしまい、ハンカチと絵筆を六花さんに差し出した。


「あ、筆は二川君にあげたの。良かったら使ってみて」

 そう言って、六花さんはハンカチだけを受け取った。


「えっ、なんで……?」

 思わず、疑問が口から出た。


「多分、すぐに使う事になると思うから」

 六花さんは答えながら、愉快そうに笑った。


「六花! 変な事は言わないでってば!」

 一条さんは、顔を真っ赤にして怒っている。


 しかし、六花さんは(ひる)まない。

奈々(なな)がそんなに怒鳴ってばっかりだと、二川君がビックリしちゃうよ?」

 と、たしなめるように言った。


 奈々というのは、一条さんの名前だ。

 ボクも、一条さんと話せた日の夜とか、気が大きくなっている時、たまに心の中で「奈々さん大好き」とつぶやいてみたりする。その後、ボクから目をそらす一条さんを思い出して、泣きそうになるけれども……。


「六花はそんな心配しなくて良いから。余計な事は言わないで」

 一条さんは、可愛い仕草でむくれている。


「これじゃ私、何も喋れないじゃん」

 と、六花さんが口をとがらせた。


「六花は喋らなくて良いの。記事を早く終わらせないと、二川君が帰れないでしょ。

 ただでさえ、六花のせいで遅れてるんだから」


「別にさー、早く終わらせなくても平気じゃない?

 ゆっくり作業して仲良くなれば良いじゃん」


「六花! 二川君にこれ以上の迷惑をかけたら、本当に怒るからね!」


「わ、分かったから。あーあ、奈々ってば怖いよね……」

 六花さんは大げさに(おび)えるフリをしてから、同意を求めるような目でボクを見て微笑んだ。


 それに気付いた一条さん。

「二川君と変な目の合わせ方をしないで」

 と、さらに釘を刺した。


「そんな無茶苦茶な。二川君をそこまで無視したら可哀想だよ」


「六花は、二川君に何か聞かれた時だけ答えれば良いから」


「じゃあさじゃあさ、二川君」

 六花さんはそう言って、ボクに(さら)に近付いた。

「奈々の事で、何か質問ない? 何でも答えてあげるよ?」


「え、えっと……」

 そりゃあ、知りたい事はたくさんある。身長とか、好きな食べ物とか、昔から書道をやってるのかとか、色々。

 でも、一条さんの前で堂々と聞けないよ。


 ボクは、気まずくなってチラリと一条さんを見た。

 一条さんはそれを勘違いしたのか

「やめてよ六花! 二川君が困ってるでしょ!」

 と、ボクをかばってくれる。


 そのまま、また言い合いになる一条さん達。


 一条さんは相変わらず真っ赤な顔で怒っているけど、ボクにはすごく優しくしてくれて……。

 なんだか、二人の話を聞いているだけで、とっても嬉しかった。

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