ボクは、聞きたい事だらけだった。
「六花、いつものノリは絶対にダメだからね」
一条さんの声が、廊下から聞こえる。
「分かってるって。心配し過ぎだから」
もう一人、女の子の声。これが六花さんだろう。
「失礼しまーす。こんにちはー」
六花さんが、元気良く教室に入ってきた。
「こ、こんにちは……」
ボクも、自分なりに頑張って返事をした。
一条さんの友達に、嫌われないようにしないと。
六花さんは部屋の中を確認するなり、笑顔になった。
「あれっ、二川君だけしかいないんだ?」
「バカ! 変な事は言わないでって言ったでしょ!」
一条さんは、強い語気で六花さんを責め立てる。
「えー、変な事じゃないじゃん。なんて謝ろうか困ってたから、二川君だけで安心したってだけで」
「六花が二川君を見て安心したら、おかしいから!」
「だって、二川君の話は普段から聞いてるし――」
「ちょっと! 変に思われるでしょ!」
と、やけに慌てる一条さん。
ボクの目線が怖いとか、そういう相談をしているのだろうか……。
一条さんと対照的に、六花さんは気楽そうに笑っている。
「変になんて思われないってば。平気平気」
「六花の意見は聞いてないから!
不自然な事は絶対にしないでよ」
一条さんにしては大きな声で、念を押した。
「不自然な事って言われても、何が不自然か分からないし無理だよ」
と、六花さんは平気で言い返す。
「二川君に質問があるんだけど、それも聞いちゃダメなの?」
「ダメに決まってるでしょ。
――それより、二川君にちゃんと謝って!」
「あ、そうだった」
六花さんは、カバンの中からハンカチで包まれた筆記用具を出すと、ボクに手渡した。
「ごめんね二川君。コレ、筆箱の中身ね。ちゃんと全部あるか確認してみてね」
「あ、ありがとう」
ボクは慎重にハンカチを受け取り、筆記用具を筆箱の中にしまい、ハンカチと絵筆を六花さんに差し出した。
「あ、筆は二川君にあげたの。良かったら使ってみて」
そう言って、六花さんはハンカチだけを受け取った。
「えっ、なんで……?」
思わず、疑問が口から出た。
「多分、すぐに使う事になると思うから」
六花さんは答えながら、愉快そうに笑った。
「六花! 変な事は言わないでってば!」
一条さんは、顔を真っ赤にして怒っている。
しかし、六花さんは怯まない。
「奈々がそんなに怒鳴ってばっかりだと、二川君がビックリしちゃうよ?」
と、たしなめるように言った。
奈々というのは、一条さんの名前だ。
ボクも、一条さんと話せた日の夜とか、気が大きくなっている時、たまに心の中で「奈々さん大好き」とつぶやいてみたりする。その後、ボクから目をそらす一条さんを思い出して、泣きそうになるけれども……。
「六花はそんな心配しなくて良いから。余計な事は言わないで」
一条さんは、可愛い仕草でむくれている。
「これじゃ私、何も喋れないじゃん」
と、六花さんが口をとがらせた。
「六花は喋らなくて良いの。記事を早く終わらせないと、二川君が帰れないでしょ。
ただでさえ、六花のせいで遅れてるんだから」
「別にさー、早く終わらせなくても平気じゃない?
ゆっくり作業して仲良くなれば良いじゃん」
「六花! 二川君にこれ以上の迷惑をかけたら、本当に怒るからね!」
「わ、分かったから。あーあ、奈々ってば怖いよね……」
六花さんは大げさに怯えるフリをしてから、同意を求めるような目でボクを見て微笑んだ。
それに気付いた一条さん。
「二川君と変な目の合わせ方をしないで」
と、さらに釘を刺した。
「そんな無茶苦茶な。二川君をそこまで無視したら可哀想だよ」
「六花は、二川君に何か聞かれた時だけ答えれば良いから」
「じゃあさじゃあさ、二川君」
六花さんはそう言って、ボクに更に近付いた。
「奈々の事で、何か質問ない? 何でも答えてあげるよ?」
「え、えっと……」
そりゃあ、知りたい事はたくさんある。身長とか、好きな食べ物とか、昔から書道をやってるのかとか、色々。
でも、一条さんの前で堂々と聞けないよ。
ボクは、気まずくなってチラリと一条さんを見た。
一条さんはそれを勘違いしたのか
「やめてよ六花! 二川君が困ってるでしょ!」
と、ボクをかばってくれる。
そのまま、また言い合いになる一条さん達。
一条さんは相変わらず真っ赤な顔で怒っているけど、ボクにはすごく優しくしてくれて……。
なんだか、二人の話を聞いているだけで、とっても嬉しかった。




