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11/21

ボクは、願ったり叶ったりだった。

「皆で教室の前で集まって、何してんだ?」

 廊下を走りながら戻って来た五木君が、不思議そうな顔で質問をした。


 四谷さんは呆れた顔で

「五木君が戻って来るのを、皆で待ってたんじゃん。

 ドコまで行ってたの?」

 と、五木君に聞き返す。


「悪い悪い。ついでに下駄箱も見てきたんだよ」


 それを聞いて笑う四谷さん。

「もう見付かったし」


「なんだよ。やっぱり当たり箱が正解だったのか。

 それで、何が入ってたんだ?」


「えっと、やっぱり六花の仕業(しわざ)で、手紙が入ってたの」

 一条さんが、封筒をヒラヒラと見せた。女子が良く使う、横に長い洋風の封筒だ。

「だけど、ちょっと恥ずかしい事も書いてあって。

 見せなくても良いかなって皆にお願いしてたトコロ」


「ん? 私達はずっと親友だからね、みたいな感じか?」

 五木君は、遠慮せず堂々と質問した。一番に友情の話って発想になるのは、なんだか五木君らしいなあ。


「うん、そんな感じ」


「じゃあ別に良いよ。とにかく、正解したんだろ?

 俺、玄関で時計を見て思い出したんだけど、皆でサッカーやろうって待ち合わせしてたんだよ。

 だから班の記事さっさと終わらせちゃおうぜ。すぐ終わると思って早めに約束してたから、あんまり時間がねえんだわ」


「そういえば、俺も塾があるから――」

  三井君が腕時計を見る。

「そろそろヤバイな」


 さらに

「げ、私も習い事だわ。クイズに夢中になって忘れてた」

 と、四谷さんまでそんな事を言い出した。


「ごめん、本当はすぐに終わるハズだったもんね」

 一条さんはそう言って、皆以上に焦っている。

「後はタイトルを清書するだけだよね? 皆、先に帰って良いよ。

 遅くなったの私と六花のせいだし、六花を呼んできて手伝わせるから」


「助かるけど、良いの?」

 四谷さんがたずねた。


「皆にクイズのヒントたくさん貰ったし、それくらいの恩返しはさせてよ」


「じゃあお願いして良いかな? ごめんね」


「そもそも私が休んだから居残りになったんだし、ノンビリやるから平気。

 それに私、プレッシャーに弱いんだよね。皆を待たせてると思いながら(あせ)って文字を書くと、(かえ)って失敗しちゃいそうで」


「マジで帰って良いのか? 全力疾走しないで済むから助かるんだけど」

 五木君は一応そう聞いてはいるけど、もう帰り支度を済ませていて、完全に帰る気でいる。


「うん、クイズ手伝ってくれたし。ありがとう五木君」


「じゃあ帰るわ」


「うん。ありがとね五木君。

 ……ほら皆も帰っちゃって」


「そこまで言ってくれるなら帰るけど、いつか今日のメンバーで何か手伝うね」

 四谷さんのこの言葉に、ボクは少し不自然なものを感じた。四谷さんは本来、男子に何か手伝わせるより自分でさっさとやってしまう性格だ。今回の事についても、自分だけで恩返しをしそうなタイプに感じる。

 四谷さん、この班を気に入ったのかな?


「四谷さん、ありがとね」

「良いの良いの」

 一条さんと四谷さんは、女子の別れ際のいつものやりとりを始めた。


 うーん、ボクの考え過ぎかな。一条さんと四谷さんが、そもそも普段から仲が良さそうだもんね。

 ボクが二人をじっと見ていると、四谷さんが視線に気付いた。

「二川君、ゆっくりしてて良いの?」


「あ、ボクは……記事の空白をイラストで埋めなくちゃいけないから……」

 不意に質問されて、しどろもどろになってしまった。


 ボクの言葉を聞いて、三井君は

「そっか、二川も帰れないんだ」

 と、気遣ってくれる。


「ボクは用事ないから平気だよ」

 もっと一条さんと仲良くなりたいボクとしては、願ったり叶ったりの展開だ。

 一条さんとちょうど目が合ったので、こう聞いてみた。

「皆、ちょっと気にし過ぎだよね?」


「うん。大丈夫だよね」


 ボクと一条さんがこう言っても、四谷さんはまだ心配みたいで

「二人で平気? 何の絵にしようかで困ったりしない?」

 とボクにたずねた。


 たしかに、それはあるかもしれない。単なる穴埋めのイラストだとは分かっていても、何でも良いとなると迷いそうだ。

「えっと……」

 ボクが言い(よど)んで一条さんを見ると、一条さんが微笑んだ。


「それは大丈夫」

 ボクの代わりに、一条さんが答えた。

「二川君に私がリクエストするから。なんでも良いんでしょ?」


 ようやく安心した様子の四谷さん。

「そっか。じゃあ、また明日」

 と、廊下を歩き出した。


「またねー」

 手を振る一条さん。


「バイバーイ。今度、六花ちゃんとお話させてね。二川君もありがとねー」


 一条さんの隣で無言で見送りをしながら、ボクは六花さんの事を改めて考えていた。

 結局、六花さんがボクの筆箱にも筆を入れていた理由は、なんなんだろう。


「――よし! それじゃあ、頑張って記事書こうか。

 私、六花を呼んでくるね」


 一条さんに声を掛けられて、ボクは我に返る。

「あ……」

 何か言おうとした時には、もう一条さんの背中が遠ざかっていた。


 うう。一条さん、行っちゃった。

 せっかく二人きりになれたのに、つい考え事をしてしまった。


 ……いや、ちょうど良いのかもしれない。

 今の内に、ボクの硯箱の中を確かめてみよう。

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