ボクは、辻褄が合わないと思った。
ボクの仮説が正しければ、一条さんと三井君は両想いという事になる。
一条さんの好きな人について、もっと詳しい内容が知りたい。
「一条さんの好きな人って、クラスの人なの?」
ボクは、三井君にたずねてみた。
「詳しくは聞かなかった。すごく好きな人って言ってたけど」
「そんなに好きな人がいるんだ?」
と、驚いた様子の四谷さん。
「えー、誰なんだろ。一条さんって男子とあんまり話さないよね。だからこそ、三井君と怪しいんじゃないかって注目されてたんだし」
「言い忘れてたけど、一条さんに好きな人がいる事は、他の人には内緒にしておいてね。仕方なく話しただけだから」
三井君は、チラリと教室の方を見てからそう言った。
「俺と怪しいなんて誤解されたままじゃ、一条さんが困ると思ってさ」
「了解。
私、一条さんの恋の応援したいもん。一条さん、好きな人に声とか掛けられなさそうだし」
「そんな感じがするよね。四谷さん、さりげなく相談に乗ってあげてよ」
二人の会話を聞いていて、ボクは気になった事があった。
「……あの、ちょっと気になったんだけど」
「二川君、どうしたの?」
「クイズを考えたのが一条さんの友達――えっと、六花さんか。六花さんだとするとさ、別にいつでもクイズを出せるよね。
六花さんと一条さんは、家に行ったりしてるって話だったでしょ?
ボク達がいる時にこんなクイズを始めなくても、いつでも筆箱に筆を仕込めるよね。家に遊びに行った日なんて、いくらでもチャンスはあるし。
どうしても学校でやるにしても、一条さん一人きりの時で良いような気がして。クイズを皆の前で出す必要があったかなって。
あんな事をしたら一条さんが目立っちゃうし、クイズって気付けなかったら変な空気になるし」
「うんうん、そうだよね。実際、私も最初は驚いたもん」
「一条さんも、きっとビックリしたと思うんだよね。
六花さんだって、一条さんが男子とあんまり話さない事とか、目立つのが苦手そうな事とか、きっと知ってるハズで。
なんで今日ここでわざわざクイズを出したのかな」
三井君も四谷さんも、ボクの疑問に答えられなかった。
ボクは沈黙に耐えきれず、再び口を開いた。
「一条さんの友達が出したクイズにしては、なんだか変だと思うんだよね。
ボクなんか、筆箱見た瞬間にいじめだとか騒いじゃって、もう少しで台無しにしちゃう所だったし」
「そういえば私、聞くの忘れてたんだけど、二川君と六花さんって友達なの?」
「え?」
四谷さん、何故そんな風に思ったのだろうか。
「友達じゃないけど」
「そうなの?
二川君も筆箱の中が筆になってたんだから、二人への出題って感じがするでしょ?
だから、友達なのかなって思ったの」
そう言われて、ボクはもう一度考えて見た。しかし、どう考えても六花さんとの接点はない。
「六花さんと同じクラスになった事はないから、ボクの名前も知らないんじゃないかな」
「じゃあ、二川君も硯箱の確認した方が良いかもね。
クイズに関係ありそう」
「そうだね、二川もチェックした方が良い気がする。
両方を見ないと答えの意味が分からないとか、そんな可能性もあるし。一条さん、それで教室で困ってるのかも」
「あ、そうか……」
言われてみると、ボクの筆箱がいじってあるのは妙だ。
一条さんへのクイズだと決め付けて忘れていたけど、筆箱の中身が筆になっていたのは、ボクと一条さんだけだ。
班全員へのクイズなら全員の筆箱をいじるべきだし、一条さんへのクイズなら一条さんの筆箱だけいじれば済む。
それがどうして、一条さんとボクだったのか……。
クイズを考えたのが六花さんだとして、ボクの筆箱を選ぶ理由はあるだろうか?
一条さんの友達として一人選ぶなら、それこそ四谷さんの方が適切だ。三井君だっている。ボクの筆箱を選んだのは相当おかしな事だ。どうも辻褄が合わなくなってきた。
クイズの出題者は、本当に六花さんなのだろうか。
「教室の前に戻って、ノックしてみようか?」
四谷さんのこの提案に、まず三井君が頷く。遅れてボクも了解した。
頭がこんがらがって、心臓が騒がしい。生まれて初めて、足がフワフワする。
四谷さんがドアを叩き、様子を伺う。
「一条さん、まだ入っちゃダメ?
気付いた事があるんだけど」
「あ、ごめん。ちょっと待って」
一条さんの声が、放課後の廊下に響いた。
「……ちょっと待ってって事は、硯箱の中に何かしらあった感じかな?」
三井君が、ボク達の耳元で囁いた。
「だね。で、その何かを隠そうとしているか、自分を落ち着かせているか」
四谷さんも小声で返す。
「やっぱり、プレゼントで感動して大泣きのパターン?」
「だと良いね。面白いクイズだったねって言って、笑って解散したいよ」
ボクも三井君の意見に同感だった。
今の一条さんの声は、あの日の声に似ていた。もし泣いているのなら、嬉し泣きであってほしい。
「お待たせ」
扉を開けた一条さんは、いつも通りの笑顔でボク達を迎えた。




