10.街への帰路
乗馬での遠出も二回目となると、ショウは大分要領を得ていた。
どれくらい小慣れてきたかというと、馬に揺られながらメニュー画面を操作できるほどの余裕を持つことができている。
ヴェコンへ向かい始めて少しして、セラスからやっと返信が来たのだ。
『返信、遅れてしまい本当にすいませんでした。今はアイリさんたちのハウスに皆で居ます。今日はもうフィールドへは出ないので、戻ってきたら連絡をください。ローブの件、シャルがとても楽しみにしていました』
セラスのメッセージを読んだ後、ショウは現在時刻を確認する。
別行動を取っていたと言っても頻繁に近況報告を受けていた為、セラスたちのプレイスタイルは把握しているつもりだった。
本来であればあと数時間は狩場で修行していてもおかしくない早い時間だったことに、ショウは違和感を覚えた。
「……なにかあった、と見るべきか? でも、アイリたちが付いているはずだしそんな事――」
「ショウ様? セラス様からメッセージですか?」
「ええ、なんか今日はもう特訓は切り上げて、ハウスに居るそうなんですが」
「この街へ来てから、オルトリンデの方々から指導を受けていると聞いています。相当腕を上げられたとか」
「みたいですね。俺なんてもう足手まといにしかならないような気がしてますよ」
「そんな事はありませんよ。それに、セラス様たちが強くなりたいと思った気持ち、私にも少し分かる気がします」
「? そうなんですか?」
「はい。皆から尊敬される存在と一緒に居たいと思ったら、自分もそれに相応しい力を付けたいと思いますから」
「それって、俺の事ですか? そんな大それた者じゃないと思っているんですが……」
「ショウ様は自分を過小評価している、と私たちは危惧しております」
窘めるように人差し指を立てるリリィ。
それを見たショウは、苦笑いを浮かべながら鼻の頭を掻いた。
ショウの癖を見ることが出来て満足したのか、リリィは笑みをこぼしながら、街道の先へ目を向ける。
視線の先に、ヴェコンの街が見えてきた。
――
『リリィ、少し良いかしら?』
ヴェコンの外壁の門に着いたショウとリリィは、再び門衛に馬を預けようと丁度降りたところだった。
ショウを補助して、彼を地面へ立たせると、強制的な音声通信が耳に届く。
着信の知らせを省略できるそれは、主に緊急時に使用される機能だ。
リリィの身体に緊張が走り、静かにショウから離れる。
「ラナ、どうしたの?」
『もうヴェコンに戻って来たのよね?」
「……情報が早すぎない?」
『急いでギルドに来てくれないかしら。緊急事態よ」
「前回それでケビン様の元へ行ったらパレードのダンサーにされたのだけれど?」
『ふふっ……んっ! 今回は本当に緊急事態みたいよ』
「分かった、すぐ行くわ」
通話を終えたリリィは門衛と世間話をしていたショウへ近づいて行く。
「ショウ様、すいません。ギルドから召集を受けましたので、私はこのままそちらへ向かいます」
「あっ、そうですか。俺もセラスたちと合流するつもりです。今回も色々とありがとうございました、助かりました」
「いえ、お気になさらないでください。私も楽しかったです。では、失礼致します」
丁寧なお辞儀をして、リリィはショウと別れた。
しっかりとした足取りで人混みへ消えていく背中を見送った後、ショウは多少蟹股になりながらもオルトリンデのハウスへ向かうのだった。