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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
ヴェコン編Ⅲ
95/157

9.ビッグコファーシュ

「ショウ様、気を付けてください! 『ビッグコファーシュ』です!」


「モ、モンスター!?」


 ショウはつるはしを一度ストレージボックスに戻し、盾を音の方へ構える。

 薄暗い上方から、巨大な蝙蝠が滑空するようにショウたちへ向かってきた。

 地面に近づくと身を翻し、足の爪で獲物を捕らえようと襲ってくる。


「避けてください!」


「――うおっ!」


 リリィの言葉に反射的に身体が動き、ショウは咄嗟に横へ飛び退いた。

 空振りしたビッグコファーシュは軽く地面を掴んだ後、再び上方へ昇っていく。

 今度は回るように飛び続け、構えていたショウたちの耳にキーンッと頭が痛くなるような高音が聞こえ始める。


「――っ! ショウ様、耳を塞いで下さい。この超音波を聞くと『混乱』して思うように動けなくなってしまいます!」


「えっ!? み、耳?」


 音が攻撃ならば、盾で防ぐことはできない。

 しかし耳を塞いでしまえば盾を構えることが出来ず、次の攻撃を防ぐことができなくなるだろう。

 その事が頭をよぎったショウは、結局耳を塞ぐことをしなかった。

 結果、超音波をまともに受けたショウの身体はフラフラと揺れ始める。

 ビッグコファーシュはそれを待っていたかのように、再びショウに向かって急降下を仕掛けてきた。


「っ! ショウ様!」


「……」


 リリィの声に反応せず、盾を低く構えていたショウ。

 混乱して意識がはっきりしていないと見て取った彼女は、急いでショウの元へ掛けるが、ビッグコファーシュのスピードには追い付けない。

 モンスターの爪が上方から彼を襲う。

 触れようとしたその瞬間――


 ――ガンッ!


 ショウは狙い澄ましたようにその攻撃を盾で防いだ。

 防御されたことに気付き、焦ったビッグコファーシュは再び上昇しようとしていたが、羽を上手く動かすことができずに地面へと身体を落とした。

 相手とのレベル差があった為か、『スタン』を取ることはできなかった盾『Birth』だったが、それでも『硬直』は与えることができた。

 スタンと比べると僅かな間だが、それでも相手の動きを封じることができる『反射』の効果だ。

 その姿を確認したショウは、こちらに駆けて来るリリィに叫んだ。


「リリィさん、今です!」


「――っ!? はい!」


 リリィは瞬時に状況を理解して、向かう方向をショウからビッグコファーシュへ変更した。

 たどたどしくも翼をばたつかせているビッグコファーシュから、硬直の効果が無くなる。

 うつ伏せから仰向けに反転して、飛び立とうと踏ん張る。

 その上から――


 ――ザシュッ!


 跳躍したリリィが片刃の直剣、アーベントでビッグコファーシュの喉を貫く。

 少しの間暴れていたビッグコファーシュだったが、リリィは剣を抉り、首を落とすように振り抜いた。

 胴体と別れた頭部は綺麗な放物線を描き、ショウの目の前を通り過ぎる。

 その最中、ビッグコファーシュの亡骸は余ることなく光の粒へと変わっていった。


「……はぁ、びっくりした」


 撃破を確認したショウは、その場で尻餅をつくように地面へ座り込んだ。

 リリィは一度周囲に目をやり他に危険が無いことを確認すると、アーベントを納めてショウの元へ向かう。


「ショウ様、ご無事ですか?」


「え、ええ。なんとか」


「よくあの混乱を防げましたね。私はてっきり……」


「あー、それはこのマントのおかげですよ」


「それは……もしかして新しくショウ様がお作りになられた?」


「そうです。こいつには状態異常無効が付いていたんで、大丈夫かなって」


「じょっ!? むっ!? ……いえ、今更驚いても仕方ないですね。ショウ様にはそういう心持で接しないとこちらがもちません」


「あははっ、恐縮です」


 鼻の頭を掻きながら、頭を下げたショウ。

 リリィはショウに手を差し伸べて、それを笑顔で掴んだ彼を引っ張り起こした。


「ですがおかしいですね。ビッグコファーシュはここに出てくるようなモンスターでは無いのですが……」


「もっと難易度が高いエリアのモンスターってことですか?」


「そうですね。今回はなんとかなりましたが、立て続けに出てこられては少し厄介です」


「通りでスタンを取れなかったわけだ。それにしても、そんなモンスターを倒せるなんて、リリィさんって強いんですね」


「えっ、あっ! そ、その……ま、まぁこれでも冒険者の端くれなので! おほほっ」


「なるほど、心強いです。さて、またいつモンスターが出るか分からないですから、ちゃっちゃと採掘を終わらせちゃいましょう」


「そ、そうですね。その方がよろしいかと思います」


 リリィと向き合っていたショウは、振り向いて先ほど採掘を行ったレアポイントを見る。

 水晶が無くなっていることを確認すると、ストレージボックスから再びつるはしを出し、そのままインベントリを開く。

 そこには、『星河龍晶』の文字が書かれていた。


 『星河龍晶:龍が夜空の星を閉じ込めたとされる幻の水晶。内部の光は暗闇の中であっても帳を下ろすことは無い。【希少素材】』


「……ぅえっ!?」


「きゃっ! ど、どうしました、ショウ様」


「なんでも無いで――あっと、さっきのレアポイントで銀鉱石が出て、驚いただけです」


「まぁ、それは良かったですね。この調子で頑張って素材を集めましょう」


「は、はい」


 声を上げて何でもないは通用しないと思ったショウは、苦し紛れの嘘を吐いた。いや、同時に銀鉱石も出ていたので嘘という訳では無いが。

 しかしリリィをこれ以上驚かせることを心苦しく思ったショウは、この事も黙っておくことにしたのだった。

 それから、一時間もしない内にエリアの採掘ポイントをすべて回り終えたショウたちは、入ってきた通路の入り口まで戻ってくる。

 途中に本来このエリアに出るという低レベルのモンスターにも遭遇したが、そちらにはスタンが発動したので、難なく討伐することができた (リリィが)。


「本日はこれくらいに致しましょう。あまり根を詰めても仕方ありませんからね」


「そう、ですね。ログアウトするにも街へ戻りたいですし、今日は帰りましょう」


 そう固い笑顔で答えたショウに、リリィは一度微笑んで頷く。

 そして、来た時と同じように彼を先導するように前を歩き始めた。

 リリィは今回の採掘で、少しでもショウが作成するモノの助けになればと思っていた。

 目当ての物が出ないにしても、それを他で手に入れる手段はあるにはある。ただお金がかかるだけだ。

 その負担を減らせれば、と気長な気持ちでいたため彼女の足取りは軽かった。

 しかし、後ろを付いて歩くショウは違っていた。

 二つ目の『金絲鉱』と『星河龍晶』。

 その両方を手に入れたショウは、またアイリたちに攻め立てられるのだろうな、と重い気分になる。

 しばらく坑道を戻り外へ出ると、ランタンをしまったショウたちは馬へ乗り、ヴェコンへ帰還するのだった。

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