5.襲来
そんな中セラスは未読のメッセージが一件、ボックスに存在している事に初めて気が付いた。
開いてみると、それはショウからの合流を希望する内容だった。
「あ、あれ!? ショウさんから製図の作業が一段落したから合流したいってメッセージが届いていたんだけど……」
「えっ、アニキから!? 今、今っすか?」
「んー、ちょっと前みたい。気が付かなかったなぁ、今からでも間に合うかしら」
「……終わった……ということは」
「うん、シャルのローブも完成が近いってことだよ、楽しみね」
「……ん」
「とりあえず、今からでもショウさんに連絡とってみるね」
そう言ってメニュー画面を開き、返信を打ち始めるセラス。
しかし、それはいきなり彼女の前を横切ったアイリによって中断させられた。
普段ならこんな邪魔をするような事は絶対にしない彼女の性格を分かっていたセラスたちは、一様に驚きの表情を浮かべる。
そして、ケンもアイリを追うように歩き出した。
二人とも街がある方向を険しい顔で睨んでいることに気が付いた三人は、自然と身を寄せ合うように集まる。
「ケン、私が話すから」
「……分かった」
短いやり取りの後、ケンはセラスたち三人を守るように、前に陣取る。
アイリはさらに数歩進み、腕組をして前方を睨んでいた。
セラスは二人の出す重い空気に負け、詳細を訊くことが出来ないでいたが、ケンの背中越しに視線を追う。
小高い砂丘の向こう、蜃気楼に揺らいだ人影が二つ、しっかりとした足取りでこちらに真っ直ぐ向かって来ていた。
その影が近づいてくるにつれて、なぜか身体に力が入り固くなる感覚を覚えたセラスは、持っていたネメスィを強く握る。
それはルナールとシャルムも同じようで、三人は歩いて来ただけの人物たちに威圧されていた。
「あれ~? おかしいな、ソロで活動してるプレイヤーだって聞いてたんだけどさ」
お互いに声が届くくらいの距離まで来ると、前を歩いていた忍び装束の女が意外そうな声を上げる。
しかし、アイリが警戒していたのは彼女ではない。
後ろを歩きながら周りを遠くまで見渡していた、『深紅の戦姫』を睨んでいた。
「あら、誰かと思ったら『紅焔の巨神の方々がこんな所に何か用かしら?」
「やいや、君たち『オルトリンデ』に用は――ってアヤ、凄い睨まれてるけどさ、何かしたの?」
「? ……誰、あんた」
一度アイリを見たアヤが片眉を上げる。
その言葉に額に青筋を浮かべたアイリが、腰のバゼラードに手を掛けた。
「ちょちょっ! ウチのリーダーが何したか知らないけどさ、ちょっと落ち着きなって。本当に君たちと事を構えるつもりは無いんだからさ」
ノートの声に、数ミリ刀身を抜いた所で彼女の手は止まる。
止まっただけで、納めることもしなかったが。
「それじゃ何の用? ここは私たちが先に使っていた狩場よ。練習がしたいんだったらもっと広い所へ行けば?」
「んー、私はそこの幽爆の魔女さんに用事があるんさね。少し、お話ししたいことがあってさ」
「……私?」
「おい、シャルム! 構うな」
「……大丈夫」
ケンの後ろからシャルムが出てくる。
表情は困惑していたが、自分のせいでセラスたちに迷惑を掛けたくないと思ったシャルムは自分を精一杯奮い立たせて、一歩前へ出た。
「……何?」
「君が幽爆の魔女ちゃん? イメージより大分可愛い子だねぇ。いやさ、ひとつ君に確認したいことがあって――」
ノートは笑みを浮かべて一歩、シャルムと距離を詰める。
いつでも踏み込めるように、アイリは足に力を入れていた。
「……君が持ってるんだろう? 金絲鉱をさ」
「――っ!」
ノートがシャルムを指差し言葉を言い切る瞬間、アイリは彼女に向かって低い姿勢で駆け出し、抜刀からの斬撃を繰り出した。
行動を予想していたかのようにノートは跳躍でそれを躱し、飛び越えると同時にクナイを彼女の『影』に投げる。
瞬間、アイリは自分だけ時間を止められたように、身動き一つできなくなってしまった。
「!? ……ぐっ!」
「忍法、影縫い……なんてね。いきなり切りつけて来るのはあまり感心しないさ」
「アイリ! くそっ!」
自分も参戦しようと、ケンは武器を構えて踏み出そうとするが――
「……待って」
左手を上げたシャルムに制止され、踏み止まる。
「……ルナールを」
「っ!? ……分かったよ」
彼女の一言で自分のやるべきことを理解したケンが、セラスとルナールの前で盾を構える。
何事も無かったように、変わらず笑みを浮かべていたノートが、さらにシャルムに近づいて来た。
「で、どうなのさ。私の推理ではあなたが噂の張本人だと思っているんだけどさ?」
「……持っていない」
「本当に? ……あははっ、だよねぇ」
「……」
シャルムの言葉に、声を上げて笑うノート。
片手で顔を隠し、指の隙間から彼女を見据えた。
「……素直に言うわけ無いか。ちょっとインベントリの中身さ、改めさせてもらおうかな」
「……断る」
「だーいじょうぶ。君が神殿送りになっている間、残った所持品を見るだけだけ――」
「――ふっ!」
ケン、そしてシャルムの影に隠れて、完全な不意打ちを完璧なタイミングで、セラスは成功させた。
棍を横に薙ぎ払い、ノートの側頭部へ叩き込まれる瞬間――
――ガキンッ!
驚異的な反射神経か、それとも何かのスキルか、セラスが放った攻撃はノートの小刀によって防がれた。
見た所、初心者に毛が生えたくらいのレベルだと見て取っていたノートはセラスとルナールに大して警戒もしておらず、ただの悪あがきだと思っていた。
……そう、『油断』していた。
「っ!? ――へ?」