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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
ヴェコン編Ⅲ
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4.砂漠の訓練

 広大な荒地に佇む街、ヴェコン。

 各地域の流通の中心を担っているこの都市は、四方数多に街道が伸びている。

 材木資源が乏しいという欠点はあるが、地下水による水資源、北東の鉱山から掘れる鉱物資源、土地の広さを生かした巨大な麦畑など、見た目に反して他の都市にも勝るとも劣らない豊かな地域だ。

 そんな中、なにも恩恵を生まないであろう砂漠地帯は、街の北西に広がっている。

 しかし、恵みが無いというのはシムの視点から見た場合であり、プレイヤーたちからしてみるとそうとも限らない。

 暑さも寒さも設定次第で感度を変えられるプレイヤーにとってはエリアの一つに過ぎず、その広さだけはある砂漠は度々討伐イベントの舞台として活用されている。

 次回開催予定とされているイベント『裂けゆく大地と土埃』の舞台ということもあり、それなりのプレイヤーが討伐環境に慣れようと戦闘訓練に精を出していた。

 それはショウと別行動をしていたセラス、ルナールも同様で――


 ――ドスッ!

 

『グギャッ!』


「アネゴ! 残り二匹っす!」


「分かったわ! シャル、動きを止めて!」


「……ん……『グラッジバインド』」


 砂の上を走っているとは思えないほどの速い速度で駆けて来る、デイノニクスに似たモンスター『デザラプト』に向けて、シャルムが杖を振るう。

 すると黒い影のようなものがデザラプトの身体にまとわり付いて、動きを鈍らせる。

 それでもなお鋭い前肢の爪でセラスを切り付けようと向かって来た。

 セラスはシャルムより数歩前へ出て、軽く足場を確認して棍を構える。

 デザラプトが前肢を振り上げ、一度強く踏み込んで勢いをつけた。


「――ふっ!」


 セラスはそのタイミングに合わせるように、自分もつま先に力を入れ、二体のデザラプトへ駆け出す。

 間を縫うように相手の攻撃を避け、すれ違いざまに棍を打ち付けるように振り回す。


 ――ドドガッ!


 片方は首元、もう片方は後頭部を打たれ、二体のデザラプトの意識は一撃で空の彼方まで飛んでいった。

 断末魔を上げる暇も無く、砂の上を転がってシャルムの足元まで滑った亡骸は、勢いを失ってそこで止まる。


「……グッジョブ、セラス」


「シャルも! ばっちり息が合うようになってきたね」


 サムズアップをしたシャルムへ笑顔を向けるセラス。

 そんな二人に、短剣を収めながら狐耳と尻尾を揺らしたルナールが駆け寄って来る。


「お疲れ様っす、アネゴ。シャルもナイスアシストだったじゃんか――イェーイ」


「……イェーイ」


「イェーイ! ルナールも無理なく敵の追い込みが出来るようになってきたし、私たち順調に強くなってるわよね」


 ルナールを加えた三人がハイタッチを決めると、後方から様子を見守っていたケンとアイリが近づいてきた。


「最初の頃と比べると様になってきたじゃない。私の見立て通り、あなたたち三人の相性は良いみたいね」


「良く言うぜ。最初の頃なんて地獄のようなしごきで、連携なんて練習する余裕なんか無かったじゃねぇか」


「あら心外。それがあったからこその今じゃない。おかげで三人のレベルも底上げされたし、結果オーライよ」


「あ、あははっ、確かに、強くはなりましたけど……」


「あの特訓は、もう勘弁っす」


「……あれは、無理」


 アイリの言葉で地獄の猛特訓の日々を思い出し、身震いする三人。

 余程厳しいアイリのしごきを受けたのだろう。


「二人はこれからも先輩の役に立ちたいからって理由で強くなろうとしてたけど、これだけ形になればどこへ出しても恥ずかしくない立派な冒険者ね」


「セラスとシャルムはともかく、ルナールもよく頑張ったな。正直、俺はお前が最初に音を上げるかと思ってたぜ」


「ケンさん、ひどいなぁ……この中で一番足を引っ張るのはあたいだろうし、弱音なんて吐いてたらアニキやアネゴの仲間なんてやっていけないじゃん」


「ははっ、そうだな。でも、この中で一番成長したのも間違いなくお前だぞ」


「それは、素直に喜んでおくよ」


「本当に。今のルナールをショウさんが見たら、驚いて腰抜かしちゃうかもね」


「アネゴ……いやいや、そんなまさか」


「ありえるわね」


「ありえるな」


「アイリさんもケンさんも……二人して」


 最初の数日こそアイリとケンが付きっ切りで特訓を行っていたが、近頃は訓練メニューを三人の連携に重きにおいて組まれており、それを自分たちで消化していく形となっている。

 その間、アイリたちは次回のイベントのシュミレーションを行っており、準備もそろそろ整う算段だ。


「それじゃルナール、一応回復かけておくね」


「かすり傷程度っすけど、ありがとうごさいますアネゴ」


 セラスはルナールに手をかざし、プレイヤーの魔法が効きづらいシムでも同等の回復を施すことができる特殊スキル『シムヒール』を発動させた。


「しっかし、『行動値』で解放されるスキルに、対シム用のモノまであるなんて知らなかったぜ」


「私も。こればかりは私たちもセラスちゃんに頭が下がる思いだわ」


 行動値とは、様々な特殊条件を満たす為の指標のようなものだ。

 火山のような地帯に一定時間居ると暑さ耐性などが身に付いたり、潜水を続けることによって息継ぎをしなくても長く水中で行動することができるようになったりなど、プレイの幅が広がるスキルを手に入れることがある。

 今回の場合は、セラスがシムであるルナールに回復魔法をかけ続けていた結果開放された、プリースト専用のスキルだ。

 これにより、セラスはシムに対しても傷を癒すことが出来るようになったのだった。

 シムヒールをかけ終わると、ルナールはその場で柔軟体操を始め、身体を解す。

 セラスとシャルムもそれぞれ次の戦闘に向けて準備を始めるのだった。

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