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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
ヴェコン編Ⅱ
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7.ギルドマスター、ケビン

 エントランスでショウたちが騒いでいることなど、応接室でソファに腰掛けていたリリィが知る由も無く。


「ふぅ……このハーブティー、美味しいわね」


「でしょ? カモミールティーよ。私、大好きなの」


 ローテーブルを挟んで向かいに座っていたラナが微笑む。

 ヴェコンの接客様式は幸いにもエーアシュタットとそんなに変わりが無いようで、応接室もあちらと大きな違いは無かった。


「ところで、ラナ。ここのギルドマスターと会うの初めてなんだけど、どんな人なの?」


「変人ね」


「……は?」


「チャラいから彼が言ってることは話半分で聞いた方が良いわよ」


「えっ……本当に?」


 真面目な顔でこくんっと頷くラナを見て、言いようのない不安を抱くリリィ。

 そして、扉からノックの音が響く。

 特に返事を待たずに扉は開かれて、一人の男性が部屋に入ってきた。


「やぁや、待たせてすまない。色々と立て込んでいてね――あっ、そのままで結構。どうせすぐ座ることになるから」


 ギルドマスターだと見受けたリリィは挨拶の為腰を浮かせたが、それを近づきながら手で静止させた男がドカッとラナの隣に音をたてて座る。

 リリィも途中まで浮かせた腰を下ろし、勢いが良いギルドマスターへ視線を向ける。

 白のカウボーイハットにくたびれたワイシャツを腕まくりして、濃い紺のジーンズの裾とブーツは砂で汚れていた。

 とても組織をまとめ上げるトップの風格を見出せないまま、リリィは自己紹介を始める。


「お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。私、エーアシュタットのギルドマスター、イザベラの使いで参りましたリリィと申します」


「こりゃどうも、ご丁寧に。ケビンだ。一応このヴェコンでギルマスをやっている。よろしく、美人ちゃん」


「……こちらこそ、よろしくお願いします」


「それで――イザベラは元気? こっちからたまに声掛けるんだけど、いっつも忙しいって言われてさ。仕事のし過ぎは身体に毒だよね」


「マスターは息災です。今回もケビン様に頼れと直々に仰せつかりましたので、無下にしている訳ではないと思います」


「そう? そうか、なるほどね。彼女なりの照れ隠しってことか。これは俺にもチャンスがある――」


「ちょっと、ギルマス? 本題はそっちじゃないでしょ? リリィの話も聞いてあげてよ」


 膝に腕を乗せて指先を弄っていたケビンの背中を、ラナが叩いた。

 喝を入れられた彼は、一度リリィに視線を戻して、ソファの背もたれに寄り掛かる。


「オーケーオーケー、分かったよ。それで、イザベラが君をここへ寄越した理由は?」


 先程ラナが言っていた『チャラい』という言葉の理由を実感して、軽い眩暈を覚えたリリィだったが、軽く喉を鳴らして本題へ入る。


「まずは、経緯から説明致します。先日、我々のギルドにSランク冒険者『深紅の戦姫(クリムゾン)』様がお見えになりました」


 リリィの一言で、ラナは目を見開いて驚いていたが、ケビンはまた指先を弄り始めていた。


始まりの街(エーアシュタット)に? そいつは珍客だな。高ランクプレイヤーが用のある所でも無いだろうに」


「どうやら誰か人を探しているようでして、マスターが心当たりは無いと答えると帰られました」


「えっ……あっ! もしかしてそれ、さっきここに来た人かも。あの逃げ出したくなるような殺気、高ランクプレイヤーよ、きっと」


「赤い髪の少女?」


「ええ、そう! カウンターの下に隠れる前に一瞬だけ見えたわ」


「……仕事しなさいよ」


「俺も感じたぜ。執務室まで届くんだから隠れて正解だ。俺も机の下に入ったしな」


「ちょっと、ギルマス! 気付いていたなら助けに来てくれても良いじゃない! 本当に殺されるかと思ったんだからね」


「無茶言うなよ。ああいうのはな、なるべく関わらない方が良いんだ。それが長生きの秘訣だ」


「……」


 正面に座っている二人の言葉を無視して、リリィはどうやったのか知らないがイザベラの工作が早くも実を結んだ事を察した。

 それを理解した上で、これからの話に入る。


「実は――」


「イザベラだろ? そのプレイヤーをこの街に来させたの」


 リリィの言葉を遮り、ケビンが彼女を真っ直ぐに見据える。


「彼女がやりそうな事だ。面倒事は全部俺に押し付けるんだよな……まぁ、頼られて悪い気分じゃないが」


「……その通りでございます」


 隠し立ても言い訳も無意味と判断したリリィが、頭を下げる。


「んで、問題をこっちに押し付けて、事の顛末を見届ける為に君がここに来た、と」


「はい」


「これは知っていたら答えて欲しいんだが、その高ランクプレイヤーが探している人物の目星は……」


「確証はありませんが、ひとり」


「なるほど。君が連れて来たっていう男か」


「どうしてそれを?」


「俺は顔が広くてね。この街で起こった事なら大抵の話は耳に入るんだ。他の街の受付嬢がプレイヤーと一緒に来た、とかね」


「……」


 言い繕う必要も無いようで、最初からリリィたちの思惑に気付いていたケビンが、少し身を乗り出す。


「そのプレイヤーの素性はラナに伝えておいてくれ、こちらで対応しよう。君は……」


 今回、仕事でヴェコンへ赴いたつもりだったリリィは、ケビンから何かしらのクエストを言われるのを覚悟していた。

 身体が緊張で固くなる中、彼女は拳を強く握る。

 が――


「――ゆっくり観光でもしていてくれ」


 唖然とするリリィは知らん顔で、ケビンはお茶うけの豆菓子を食べ始めたのだった。

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