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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
ヴェコン編Ⅱ
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5.ヴェコンの冒険者ギルド

 それからしばらくして、心労で倦怠感を感じていた二人の元に、ショウとリリィがやってきた。


「ケン、アイリ。ごめん、待たせたな……ってどうしたんだ? 元気が無いようだけど」


「おぉ、やっと来やがったか。いや、タイミングが良かったと言えば良かったのかもな」

「先輩、こんちわ~です」


 今にもテーブルに突っ伏しそうなケンと、すでに突っ伏していたアイリを見て、ショウは目を丸くする。

 てっきりもっと熱烈な歓迎を予想していた彼は肩透かしを食らったようだ。


「アイリ様、ケン様。ご無沙汰しております」


「って、エーアシュタットの受付さんじゃないですか。まさか先輩と一緒に来たんですか?」


「はい。こちらへ赴く用事がありましたので、ショウ様とご同行した次第です」


「あー、それは楽しそうでなによりです」


 そう言うとアイリは腕枕に顔をうずめてしまった。


「おい、アイリ……本当に大丈夫か? 具合が悪いようだったら今日はもうログアウトした方が良いんじゃ」


「ショウ、もう少し休ませてやってくれ。多分、今日一番頑張ったプレイヤーはアイリだからな」


「? よく分からないけど、無理はさせるなよ」


「わーってるよ」


 立ち話も何だと思ったショウはケンとアイリの向かいの席へ近づく。


「では、ショウ様。私はギルドの方へ報告がありますので、これで失礼させて頂きます」


「えっ? ああ、そうですよね。今回は本当にありがとうございました。助かりました」


「いえいえ、私も楽しかったので。では、また」


 ついリリィも席に着く気持ちでいたショウは慌てて、会釈をしてカウンターに向かうリリィに手を振って見送った。

 その余韻を漂わせながら、彼は着席する。


「随分と楽しかったみたいだな」


 怪訝な顔でケンがショウへ言葉をかける。


「いや、大変だったぞ。まさかゲームで乗馬初体験するとは思ってもいなかったし。まだ馬に揺られてる感覚が残ってるしな」


「それを含めて、あの受付嬢と一緒で楽しかっただろ?」


「……まぁ、リリィさんとの会話も色々勉強になったし、楽しかったけど」


「そうだろうそうだろう。良かったなぁ、有意義な冒険生活を送れて」


「なんだ? お前もおかしいぞ? 俺が来る前に何かあったのか?」


「……いや、すまん。ちょっと今グロッキーというか、テンションが低い方にヤバイだけだ。気にしないでくれ」


 気にするなとは、自分の態度と今の発言の二つの意味だろう。

 首を傾げたショウはケンの意を汲んで、気にせず飲み物の注文をすることにした。

 一方その頃、カウンターにやってきたリリィは表示板を見て顔をしかめる。

 身を乗り出して左右に視線を動かすが、人影は無かった。

 ふっと業務机の下のスペースに気配を感じたリリィ。

 他支部のカウンター内ということに後ろ髪を引かれながらも、彼女は脇からその中へ入っていく。

 腰をかがめ、カウンターの下に居た女性と目が合う。


「……何やってるのよ、『ラナ』。仕事は?」


「――っ!? ……えっ、もしかして、リリィ?」


「久しぶり。元気に……はしてないみたいね」


 腰が抜けたように尻餅をついていたラナと呼ばれた女性は、声を掛けてきた人物が旧知のリリィだと分かると、彼女へ飛びついた。

 首に手を回し、涙で滲んだ目を固く瞑って喜びの雄たけびを上げる。


「ああ、リリィ! 助けに来てくれたのね、ありがとう! もう私、ダメかと思ったわ!」


「……何言ってるの。ほら、このままじゃ仕事にならないでしょうから代わりの人を呼ばないと」


「えぇ、えぇそうね」


「それと私、ここのギルドマスターに話があるの。目通りをお願いしたいのだけれど」


「ギルマスに? ……分かったわ。一度奥に入りましょう」


 やっとリリィから腕をほどき、離れたラナは頷きながら手櫛で乱れた髪を直した。

 黒いロングの髪と、栗色の瞳。

 そしてリリィたちが普段着ているギルドの制服ではなく、まるでベリーダンサーのような赤い衣装に身を包んだラナ。

 そんな彼女を見てリリィは少し眩暈を覚え、苦笑いを浮かべた。


「これから踊りにでも行くの?」


「えっ? あー、違う違う。これがここでの制服なの。その土地に合った衣装を取り入れるのは別に珍しくないでしょ? まぁ、ギルマスの趣味って言うのもあるけど」


「……そうなのね」


 他のギルドがどんな衣装を制服にしているのかなんてリリィの意見するところではなかったが、彼女は心でこう思ってしまう。

 エーアシュタットの受付で良かった、と。

 イザベラの部下で良かった、と。


「あぁ、リリィ。私、まだ膝が笑ってるから、肩を貸してくれない?」


「はいはい、どうぞ。早く行きましょ――ってちょっとラナ、くっつき過ぎ」


 肩と言っておきながら、ラナはリリィの腰に手を回し、彼女の左足に自分の右足を絡める。


「えー、良いじゃない。久しぶりに会ったんだから、スキンシップよ、スキンシップ」


「……へぇ、そう。分かったわ、じゃあこのまま行くわよ」


「へっ――あっ、ちょっと!――あははっ、リリィ、ちょっと待って!」


 絡められた足はそのままに、リリィもラナの腰に手を回して彼女を持ち上げるように一歩踏み出す。

 笑いながらさらに抱きついてくるラナを無視して、リリィはギルドの事務局へ繋がる扉の奥へ『荷物』を運ぶのだった。

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