2.女子会
ショウがリリィに遊ばれている頃、ヴェコンの街の中央に位置している広場に到着したセラスは、人混みをかき分けながら待ち合わせ場所に向かっていた。
広場と言っても面積の半分以上が露天商店で占拠されているため、人がごった返しており、慣れないセラスは歩くのだけでも苦労する。
多少開けた場所に出て少し歩くと男性の石像が置かれており、その元には同じく待ち合わせだろうか、何人かの人が時間を気にしていた。
その中にルナールとシャルムを見つけたセラスは、一度人混みで乱れた服を直し、二人に近づいて行く。
「ごめんね、待たせちゃって。人が多くて……」
「お疲れさまっす、アネゴ。随分お疲れみたいっすけど、大丈夫っすか?」
「う、うんなんとか。昨日も見て回ったから分かってたけど、凄いねやっぱり」
「……どこかで、休む」
「シャル、良いの?」
「……ん」
「ありがとう。じゃあ、どこかお店に入りましょうか」
気遣ってくれたシャルムに、微笑んで提案するセラス。
しかし、この街の地理にまだ疎いセラスは、その場で首を振ることしかできないでいた。
そんな彼女の袖を引っ張り、シャルムが広場の出口を指差す。
「……店、知ってる……あっち」
「本当? それじゃ、案内してくれる?」
「……ん」
頷いたシャルムを真ん中に、セラスとルナールは並んで歩き出す。
その姿は三姉妹のように、仲睦まじく見えた。
広場を出て何本かの通りを過ぎると、シャルムはある店の前で足を止め、入り口に設置された看板を見上げる。
「ここがシャルの言ってたお店?」
「……ん」
「へぇ、喫茶店か。さっそく入ってみようぜ」
シャルムが頷くのを見て、ルナールは扉の取っ手を押す。
チリンッとベルが鳴り、それに気付いた店員が三人に近づいて来た。
「いらっしゃいませ、三名様でしょうか」
「はい、そうです」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
店員に案内された席に着き、三人はそれぞれメニューを眺める。
飲み物にスイーツ、軽食などが載っているホログラムをざっと見ると、ルナールは隣に座っていたシャルムへ訊く。
「シャル、どれがおすすめなんだ?」
「……え、知らない」
「へっ? 来た事あるんだろ?」
「……ない……ひとりじゃ、入る勇気がなかったから……外から、見てただけ」
「そ、そうか。んじゃえっと、あたいはクリームソーダとケーキにしようかな」
「私はアイスティーとフルーツタルト。シャルは決まった?」
「……ん、決まった」
それぞれで見てたホログラムに表示されているメニューをタッチする。
プレイヤー向けの店であるここは、注文を店員に伝えなくて良い。
メニューをタッチすると支払金額が表示されて、石板に手を置くと決済される仕組みだ。
ピロンッと通知音が鳴ると、すぐに店員が注文したものを持ってくる。
「あっ、シャルのそれ、おすすめにあった季節のパフェ?」
「……そう……美味しそうだったから」
「確かに。なぁ、あたいのひと口あげるからそっちもくれない?」
「……良い、よ」
向かいの二人のやりとりを微笑んで眺めていると、セラスにショウとケンからメッセージが届いた。
『もうしばらくで街に着きそう。冒険者ギルドで合流しようかと思うんだけど、セラスは大丈夫かな?』
『そろそろショウが着くらしいんだが、今どこにいる? 先に合流しておくか?』
ショウには合意の返信を送り、ケンには――
『今、みんなとお茶してるから、時間を見て冒険者ギルドに行く。お兄ちゃんは先に行ってて』
と、少し突っぱねた返事を送った。
「アネゴ、アニキからっすか?」
「うん、そう。もうちょっと掛かるって。それまでゆっくりしてましょ」
「はいっす!」
「ところで、シャル。ヴェコンの冒険者ギルドって、ここから近いかしら? そこで落ち合うことになっているんだけど」
「……ん、近い……ちょっと行った、先」
「そうなのね。それじゃ安心」
こうしてショウを待っている間、楽しいお喋りをしながら昨日に続き三人の女子会は盛り上がっていくのだった。




