11.帰ってきました
「ショウ様!? どうなさったんですか? ヴェコンに発ったはずでは……?」
「あ、あははっ。お恥ずかしながら帰ってまいりました」
冒険者ギルドの受付業務を行っていたリリィは、予期せぬ来客に目を丸くした。
もちろんショウのことであり、当の本人は決まりが悪そうに鼻の頭を掻いている。
「いや、ははっ。実は道中で寄り道をしたらバジリスクに遭遇しまして、俺だけ神殿送りになっちゃったんです」
「バジリスクって……セラス様とルナールちゃんは?」
――バンッ!
リリィの隣に居たアンリが机を叩いて立ち上がり、鋭い目でショウを見る。
「ルナールは無事なんですか!?」
彼女の気迫に押され、ショウは一歩後ずさりながらも頷いて答えた。
「ぶ、無事です。今セラスと一緒にヴェコンに着いたみたいです」
「……はぁ、良かった」
安堵のため息を漏らしながら、アンリは椅子に座り直した。
そんな彼女を見て、胸を撫で下ろしたリリィがショウへ向き直る。
「確かにバジリスクの相手は今のショウ様たちのレベルでは厳しいと思いますが、良く助かりましたね」
「セラスたちを助けてくれた冒険者が居たみたいです……それで彼女たちにはヴェコンで先に活動をしてもらうことになりまして」
「なるほど。ショウ様もあちらへ向かうために手段を探していると」
「そうなんですよ。街同士を行き来している相乗りの馬車があるって聞いたんですけど」
「……少々お時間を頂いてもよろしいですか?」
「? はい、大丈夫です」
そう言うと、リリィはアンリに目配せして、カウンターの横にある事務局へ繋がる扉に入っていった。
視線で彼女を追っていたショウは、その姿が扉の奥に消えるといよいよ手持ち無沙汰になる。
「……ショウ様。不躾なことを言うようですか、ひとつよろしいですか?」
座ったまま、アンリがショウを見据える。
ショウは頷いてそれに答えた。
「ルナールは……シムです。ショウ様たちと一緒に冒険はしていますが、一度命を落とせば彼女は、その――」
「……すいません。今回も助けようと全力を出したんですが、力及ばずで」
「……」
「でも、今度はしっかり守ってみせます。それこそ、俺の命にかえても」
「……ふぅ」
アンリは一度息を吐き、今度は静かに席を立つ。
そしてショウに向かって深々とお辞儀をして――
「あなたのその言葉を信じます。どうかあの子の事、改めてよろしくお願いします」
「あっ、はい。分かりました」
それに同じくお辞儀で返したショウ。
身体を起こした二人は顔を見合わせ、照れ隠しに苦笑いを浮かべるのだった。
「お待たせしました、ショウ様」
丁度その時、扉からリリィが戻ってきた。
カウンターには戻らず、そのままショウの元までやって来る。
「ヴェコンへ行く手筈が整いましたので、また明日こちらへ来ていただけますか?」
「えっ、それってギルドで手配してくれるってことですか? そんな、悪いですよ」
「ご心配なく。丁度こちらでもヴェコンへ赴く用事がありましたので、ショウ様がよろしければ同行も可能だそうです」
「そう、ですか。すいません、助かります。こちらこそお世話になります」
「はい。では明日、ログインされましたらまたお越しください」
「分かりました。よろしくお願いします」
リリィへ礼をした後、ショウはギルドを後にした。
それを見送り、再びカウンターへ戻るリリィ。
隣のアンリが耳打ちするように声を潜めて――
「どういうこと? ヴェコンへ行く話なんて聞いてないけど?」
「ギルドマスターの『私用』よ。そんな訳だから明日からしばらく居ないけど、よろしくね」
「……えっ!?」
エントランスに響いたアンリの声は、虚しくも中二階の喧騒にかき消されるのだった。