6.道具屋
『道具専門店 ラビット』
看板に書かれた文字を見て、ショウは立ち止まる。
教えられた場所的にもここだと思い、出入り口の脇に仔牛を繋いで、店のドアを開けた。
チリンッチリンッ
ドアに付けられたベルが澄んだ高音の聞き心地のよい音色を鳴らし、店の中に来客を伝える。
店内に入ったショウは入り口からすぐ横に設けられたカウンターを見て、驚いた。
そこで店番をしているであろう位置に座っている人物が――
「いらっしゃい、ぴょん」
ウサギだった……しかも人間サイズの。
ジャケットだけを羽織り、椅子に腰かけて足を組んでいる。
手には文字が書かれた紙の束を持っており、一度ショウを横目で見ると、視線をその紙に戻した。
どうやらあまり積極的ではない店主(兎)のようだ。
店内を一通り見て回ろうかとも思ったが、見てもどうせ分からないだろうと、ショウはカウンターへ足を向けた。
「あの……こんにちわ」
「あいにく、挨拶は取り扱って無いぴょん。金にならないからな、ぴょん」
「あっ、そうですか……あの、回復薬っていうのは――」
ドンっとカウンターの上に木箱が置かれた。
中から緑色の液体が入った細長い容器を取り出した店主が、それをショウに差し出す。
「ひとつ100Jm、ぴょん」
「ジェーム? あ、お金か……えっと」
店主の言葉に、ショウは慌ててステータス画面を開く。
所持金の欄に1000Jmと書かれていた。
「それじゃあ、5個ください」
「あんた、初心者かぴょん?」
「あっ、はい、そうです。たった今始めたばかりです」
「ほいじゃ、これ……ぴょん」
と、手のひら大の石板を差し出され、ショウは首を傾げた。
「ここに手を置きな、ぴょん」
ウサギの店主の言葉に従い、ショウはそこに右手を置く。
「……はいよまいどあり、ぴょん」
置いて数秒、店主がそうショウに言うと回復薬を6個渡してきた。
「えっ、あ、あの――」
「支払いは今ので終わってるぴょん。品物は触れればインベントリに収納される、ぴょん」
再び所持金を確認すると、確かに残りが500Jmとなっていた。
先ほどの石板が支払機だったのだろう。
「なるほど。ありがとうございます」
「あんたがお礼言ってどうすんだ、ぴょん」
「えっ、あ、あはは」
ショウは鼻の頭を掻きながら苦笑いを浮かべ、回復薬を受け取ったのだが――
「あれ、1個多いですよ」
5個を収納した時点でまだ余っていた1個を返そうとする。
「それはサービスだぴょん。どうせすぐ神殿送りだろうから無くなったらまた来な、ぴょん」
「あ、ありがとうございます。ではありがたく」
「それとな――」
「はい?」
「回復薬を買いに来たってことは、これからモンスター討伐へ行くのか、ぴょん?」
「え、ええ、そのつもりですが」
「……そんな身なりでかぴょん? まぁ、良いぴょん。それだったら最初に冒険者ギルドへ登録して行きな、ぴょん」
「冒険者ギルド……とは?」
ポンッとヘルプウインドが現れ、そこにショウの疑問の答えが書かれていた。
『冒険者が集まる登録制ギルド。様々な依頼を冒険者に提供する仲介所。まずはここで腕を磨こう』
「ギルドに討伐の依頼があったらそれを受けたほうが金になる、ぴょん」
「なるほど……分かりました」
「せいぜい頑張んなぴょん」
それだけ言った後、店主は再び手元の紙に視線を落とした。
挨拶の代わりに、長い耳をピョコピョコとまるで手を振るかのように揺らす。
それを見たショウは、出入り口の前で立ち止まり――
「その紙の束って何なんですか?」
「新聞だぴょん、ニュースペーパー」
「へぇ、媒体が紙なんて初めて見ました」
「ほっとけぴょん。ただの趣味だ、ぴょん」
店主がフンッと鼻を鳴らして背中を向けたので、ショウはそのまま店を出るのだった。




