3.新しい街
そんな出来事あった数日後、匠太こと『ショウ・ラクーン』は今日も『フリーダムバース』へログインしていた。
クラン『スケアクロウ』との事件も影を潜め、それまでは割と平和に冒険をしていたショウとパーティーメンバー。
事件解決に協力してくれた冒険者ギルドが、ショウのジョブが『造形師』であるということに緘口令を敷いたことも要因のひとつだろう。
おかげで今の所は彼の万能な作成スキルを狙って近づいて来る輩はいない。
クエストの成功を重ねて、ショウたちは順調にレベルを上げていた。
そんなある時――
「そろそろ次の街へ行っても良い頃だな」
討伐クエストを終え、報告の前に街道沿いの草原で一休みしているショウたちに、同行していた『ケン・ナガレ』が明るい調子で言った。
「次の街? それって、ここを離れるってこと?」
ケンの言葉に首を傾げたのは、彼の実の妹でショウのパーティーメンバーでもあるプリーストの『セラス・プリア』。
「そうだ。といっても転移魔法陣を使えばいつでも帰って来られるし、そんなに気にすることでもない」
「へぇ、確かにケンは自分の拠点と始まりの街を行き来してるもんな」
「新しい街かぁ……楽しみですね、ショウさん!」
「そうだね。どこか候補になる街ってあるのか?」
笑顔でショウに向き合ったセラスに頷いて、彼はケンに質問を投げかける。
「そうだな……ルナールが育った街はどこだったっけ?」
腕を組んで考えたケンが、セラスとはショウを挟んで反対側に座っていた狐耳の獣人『ルナール』に訊く。
彼女はショウたちとは違い、ゲームの中で生活をしているNPCだ。
当然、生まれ故郷もこのゲームの世界にあるわけで――
「あたいは『神獣の街 ガルドガルム』の生まれだよ」
ケンの問いかけに、あっけらかんとした様子で答えた。
「神獣の街か……遠いところから来たんだな」
「街から街へは馬車も出てるし、乗り継げば行けないことも無いけど……」
「ログアウトするプレイヤーじゃ、移動だけで何日も費やすことになるな」
ケンの言葉にルナールは頷く。
「いずれはルナールの故郷にも行ってみたいけどね」
「えへへっ、その時は案内するっすよ、アニキ」
「それは良いね。楽しみが増えたよ」
そう言ってショウはルナールの頭を撫でた。
二人の出会いはそれなりに波乱があったものだったが、彼がルナールを助けたことにより今はこうしてアニキと慕っている。
それはセラスにも同様で――
「私も、ルナールの親御さんには言いたいことが山ほどあるの。こんなお転婆になった教育方針を問いただす必要があるもの」
「あ、アネゴ! そ、それだけは勘弁してくださいっす! そんな事になったらあたい、お仕置き部屋に閉じ込められちゃうっす!」
セラスをアネゴと慕っているルナールが涙目で懇願する。
その様子が微笑ましく、その場に居たショウたちは皆声を上げて笑った。
ひとしきり笑った後、ケンは気を取り直して話を戻す。
「となれば、次は『岩と砂の街』にするか」
「岩と砂の街? そこは近いのか?」
「歩いて行ける距離だが、荒野を進む必要がある。馬車があれば楽なんだが……」
ケンは一度言葉を区切った後、少し離れた草原で食事をしていた『牛』の『パール』へ顔を向ける。
パールは、ショウがこのゲームを始めた時に特典で貰った『ペット』だ。
彼のパートナーであり、仔牛だった身体は今では大人二人を乗せても大丈夫なほど立派に成長していた。
「……牛車でも行けないことは、無いか? いや、速度的に心許ないな」
『モォーッ!』
ケンの独り言に、パールは食事を中断して反論するように鳴き声をひとつ響かせた。
そして再び足元の草を食べ始める。
「その街にする理由はあるのか?」
ショウの問いに、ケンは頷いて指を三本立てる。
「理由は三つ。ひとつは俺のクラン『オルトリンデ』の活動拠点であること。他のメンバーにもお前たちを紹介したいからな」
「ふむふむ。アイリがリーダーのクランだよな。お世話になったし、確かに挨拶はしたい」
「もうひとつはルナールの故郷、神獣の街に行くのに中継地点になることだ」
「確かに、あたいもこの街へ来るとき立ち寄った街っす」
「最後は……次に開催されるイベントの舞台だからだ」
「イベント?」
最後の理由にピンと来ていない様子のショウたち三人を見て、ケンは肩を竦めた。
「次のイベント、『裂けゆく大地と土埃』。その討伐対象となるモンスターが出てくるフィールドの最寄り街なんだよ」
「そういえば私たち、イベントなんて一度も参加して来なかったですよね」
「確かに……でもそれって俺たちでも参加できるのか?」
「イベントには個人単位の報酬とクラン推奨クエストで別れてる。参加するだけで貰える報酬もあるし、いい経験になるんじゃないか?」
ケンの言葉を聞いて、ショウは両隣のセラス、ルナールを見る。
二人が静かに、そして力強く彼に頷き返すのを確認したショウはケンへと視線を戻す。
「よし、じゃあ次はその街を目指そう!」
「歓迎するぜ、『岩と砂の街 ヴェコン』に!」