エピローグ.エーアシュタット編
冒険者ギルドを後にしたショウたちは、少し前に届いたケンのメッセージに書かれていた場所に向かって街中を歩いていた。
あの後、イザベラとリリィから大爆笑をかっさらったショウであったが、これ以上のお咎めは無し、ということで解放された。
ただし、以降の作成については一層慎重に行う事、と釘を刺されたが。
「なんだろ、俺は特に何かしたわけでも無いっていうのにかなり疲れたんだが……」
「わ、私もです。ゲームでこんなに緊張するとは思ってませんでした」
「あたいもっす。早く家に帰ってベットに飛び込みたいっす」
「みんな頑張ったからね。ケンたちと合流したら早めに解散しようか」
「……はい」
足を引きずるように歩いていた三人が街の中心にある噴水へ辿り着くと、先に来ていたケンがショウたちを見つけ手を上げた。
「おぅおぅ、揃いも揃ってお疲れみたいだな。ギルドでみっちり絞られたか?」
「見ての通りだよ。最後の最後でとどめをもらった気分だ」
「もう、お兄ちゃんこそどこ行ってたの? 肝心な時に居なくなっちゃうんだから」
「わりぃわりぃ、ちょっと用事があってな。でもなんとかなったじゃないか、よく頑張ったな」
妹の成長が嬉しい様子で、満面の笑みを浮かべてセラスの頭を撫でるケン。
それを割と本気で拒絶したセラスが、ショウの背中へ隠れる。
「……ま、まぁなんだ。これにて一件落着ってことだな。あははっ」
「ところで、アイリは? 一緒じゃないのか?」
「あぁ、あいつは……買い物でも行ってるんじゃないか。待たなくても大丈夫だ」
「? まぁ、お前がそう言うなら」
決まりが悪いように空を見たケンに、ショウはそれだけ言ってこの話題を終わらせた。
「それより疲れただろ? 今日の所はゆっくり休んで、次の冒険に備えた方が良いんじゃないか?」
「そうだな。そうさせてもらうよ」
「では、ショウさん。お疲れさまでした!」
「おつかれっす! アニキ」
「ああ。お疲れ様!」
お互いに労いの言葉を交わして、ショウはフリーダムバースをログアウトするのだった。
――
路地裏から店が立ち並ぶ通りへ出ると、アイリは迷うことなく道具専門店『ラビット』へ入っていく。
フリーダムバースを始めた頃から何一つ変わっていない店内を眺めるアイリ。
その表情は、懐かしさに浸っているようにすら見えた。
「……なんだ、お前か、ぴょん」
出入り口の脇に設けられているカウンターから声が聞こえ、アイリは顔を向ける。
そこには人間サイズのウサギの店主、『アレッグ』が興味無さそうに持っていた紙の新聞へ視線を戻していた。
「まだ何か用事があるのかぴょん?」
「いいえ、別に無いわよ。この街での用事が終わったから、お礼でも言っておこうかと思って」
「……」
手元の新聞へ目を落としたまま、アレッグがアイリの言葉を待つ。
それを横目で見ながら、アイリはぶらぶらと店内の棚を物色し始めた。
「店主が用意してくれたリング、効果抜群だったわ。ありがとね」
「モノを売るのが俺の仕事だからな、わざわざ言わるような事でもないぴょん」
「そ? でも本来なら扱って無いでしょ、アクセサリーなんて」
「……古い常連の頼みだからな、ぴょん。まったく、顔を忘れた頃にふらっとやって来やがって――」
「あははっ、そういう素直じゃない所も変わってないわね。もっと愛想良くすればこの店も繁盛するでしょうに」
「ほっとけ、ぴょん」
アレッグが鼻から息を深く吐くと、アイリは彼が座っているカウンターまで戻って来た。
「今日でこの街もちょっとは綺麗になったし、住みやすくなったんじゃないかしら」
「……」
「それじゃ、もう行くわね。さようなら」
アイリが出入り口に向かい、扉のノブに手を掛けたとき――
「……変わらんさ、お前たちがいる限りな、ぴょん」
アレッグの言葉に一瞬動きを止めたアイリは、聞こえなかったフリをしてラビットを後にする。
それを背中で見送ったウサギの店主は、脇に置かれた家族写真を哀愁の目で見つめるのだった。
――エーアシュタット編・完