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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第四章 戦えませんがなんとかなるみたいです
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19.なんとかなりました

 アッシュが光になった頃、ショウたちは冒険者ギルドの応接室にて、アンリが淹れてくれていたお茶を飲みながら何かを待っていた。

 何か、というのは、アンリがお茶を出した後すぐに退室してしまったからだ。

 呼ばれた要件すら聞けずこうして待ちぼうけをくらっていたショウたちがカップの中身を飲み干そうかという時、扉からノックの音が響く。

 返事も必要無くすぐに開かれた扉から、ギルドマスターへの報告を終え、いつもの制服に着替えたリリィが入室してきた。

 いつものショウたちに見せる笑顔ではなく、事務的な淡々とした表情で近づいてきた彼女が、三人に頭を下げる。


「お待たせしました、ショウ様。今回の件につきまして、ギルドマスターからお礼が言いたいという事なので執務室までお越しください」


「えっ、お、お礼? いやいや、そんな。お礼なんて言われるようなこと……」


「逆に騒ぎを起こしてご迷惑をお掛けしてしまったんじゃ」


 セラスの言葉に首を振り、リリィは姿勢を正した。


「不注意とはいえ、ああいった輩に造形師の武器が回ったことはこの街のパワーバランスが崩れる程の大事です」


「……」


 ごくっと喉を鳴らすショウ。


(え? そこまで? いやいや、だってただの棍だよ?)


「本来であれば対処に慎重にならざるを得ない事案の解決に貢献してくださった皆様に、是非お礼を言いたいとのことです」


 どうやら行くしか選択肢は無い様だとショウたちは立ち上がり、リリィの先導のもと最上階の執務室へ案内される。

 ノックもせずにギルドマスターの部屋へ入っていくリリィを見て、ショウとセラスは驚いたが何も聞けなかった。


「ギルドマスター、造形師のショウ様とお仲間のお二人をお連れ致しました」


「ご苦労。どうぞ、掛けてくれ」


 すでにソファに座っていたイザベラが立ち上がり、テーブルを挟んで向かいのソファへショウたちを促す。

 三人は緊張した面持ちで歩みを進め、着席をした。


「私がエーアシュタットの冒険者ギルドでマスターをやっているイザベラだ。以後、よろしく頼む」


「ショウ・ラクーンです。こっちは仲間のセラスとルナール」


「よ、よろしくお願いします」


「どうも、っす」


 各々がそれぞれ挨拶をするのを頷いて聞いたイザベラが、ショウに目を向ける。


「そんなに緊張しないでくれ。別に今回の事で君たちに説教しようというわけでは無いからな」


「い、いえ。どちらかといえばそっちしか呼ばれる理由が思い当たらないと言いますか……」


「ん? そうか。君たちがそう望むのなら、そちらにするが?」


「……いえ、すいませんでした」


「うむ」


 頷くイザベラと、ショウたち三人の前にリリィが淹れた紅茶が出された。

 リリィはその後、イザベラの後ろに回り姿勢を正して待機する。

 それを待ってから、イザベラが口を再び開く。


「さて、若い造形師。この度はこちらの対処への協力、本当に感謝している」


「そんなことは……」


「あ、あの! 元はと言えば私がショウさんの棍をすり替えられたのが原因です。私の不注意が、皆さんに迷惑をかけてしまったんです……本当にすいませんでした」


 立ち上がり、深々と頭を下げるセラス。

 その姿に、イザベラは微笑んで答える。


「そんなに思いつめることは無い。初心者だったらよくある話だ。それが今回たまたま造形師が作ったモノというだけのこと」


「でも……」


「それに、お礼が言いたいのはそれだけでは無い。受付の報告によればそちらの獣人に対しても力添えをしたとか」


 イザベラは視線をルナールへと移し、優しい目を向けた。


「プレイヤーらしからぬ博愛の心を持っている人物だと聞いている。私もこの世界に住むシムとして、彼女を助けてくれたことにもお礼が言いたかった」


「い、いえそんな。出会った時は色々ありましたけど、今は大切な仲間なんで……」


「そうか。なるほど、実に素直な性格をしているようだ。好感が持てるよ、君」


「はぁ……ど、どうも」


 笑みをこぼしながら手で口元を隠したイザベラに、ショウは返事をしながら鼻の頭を掻く。


「君も座ってくれ。騒動の件はこちらでもすでに片が付いている。自分が許せない気持ちはわかるが、次が無いように気を付ければ良い」


「……はい」


 頷いたセラスが申し訳ないように再びソファへ座り、身体を小さくした。


「ただ……」


 そう言ってイザベラがショウの真意を見抜くために、身体を少し前へ倒す。


「そんな騒動を簡単に引き起こしてしまう造形師がどんな人物か、ギルドマスターなら見極める必要があってね」


「う、それは……反省しています」


「ひとつ、訊いて良いかな?」


「なんでしょうか」


「君は、これから何を求めてこのゲームをしていこうと思っているんだ?」


「それは……」


 イザベラの問いに、一度言葉を区切ったショウは、両隣に居たセラスとルナールへ順番に顔を向ける。

 そして、こちらをじっと見ていたリリィへ。

 最後にイザベラへ視線を戻して――


「……仲間と一緒に、広い世界を冒険したいです」

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