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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第四章 戦えませんがなんとかなるみたいです
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17.称号

 街の中は古い時代の建物が再現されており、建て方も例に漏れず集中している所にはいくつもの細い路地が存在する。

 以前にセラスを素材屋へ案内したときには覚えやすいように大きな通りを利用したが、今回は事情が違う。

 ショウたちより早くついて、待ち伏せを画策していたアッシュは、仲間と共に路地裏を足早に進んで行く。

 そんな時、仲間の一人から声が上がり、全員足を止めるのだった。


「ちょっと待てよ。あいつら……というよりあのモンクが持っている武器って、アッシュが持ってきた棍より強力なんだろ? どうやってこっちが有利に勧誘するんだよ」


「確かに。酒場での動きを見るに、戦闘慣れしている感じだったし。俺たちの方が危険なんじゃ?」


「あんな攻撃喰らったら、俺たちでもヤバいんじゃ……」


 それぞれ口に出した仲間の弱気な発言を、アッシュは大声で叱咤する。


「なに言ってんだ! いくら強力って言っても警戒するのはあの棒だけだ。数で押せばなんとかなる! 他の仲間を人質に取ってでも動きを封じれば良いんだよ!」


 そんなアッシュの言葉に、他のメンバーはお互いに顔を合わせ、不安感を露わにする。

 アッシュは腰が引けた仲間に近づき、さらに言葉を続けた。


「どっちにしろ、俺たちがこの街で覇権を握ろうとしたらあの男を利用するしかない。ギルドや他のプレイヤーたちから白い目で見続けられても良いのか!?」


 それまでの自分たちの行いを棚に上げて好き勝手言い始めるアッシュだったが、その片棒担いできた他のメンバーたちもそう自分に言い聞かせるしか今は手段が無かった。


「……よし、行くぞ。強力な武器を作らせて、俺たちがこの街を牛耳るんだ!」


 アッシュの言葉に頷いた他のメンバーたちを見て、彼は振り向き再び路地裏を歩き出す。


「――スケアクロウの皆様、少々よろしいでしょうか?」


 彼らが今来た方向から呼び止められる声が聞こえ、全員がそちらを向く。

 そこには、先ほど酒場で彼らと話しをしたギルドの受付、リリィが頭を下げて立っていた。

 振り向くまでそちらを見ていたアッシュは彼女の接近に気付けなかったことを妙に思ったが、それ以上に彼に違和感を与えていたのは、リリィの服装だった。

 いつものギルドの制服では無く、黒いレザースーツを身に纏い、丈の短いジャケット、腰にはヒップバッグを装備していた彼女が物々しく頭を上げてアッシュを見据える。

 その威圧感に、アッシュだけでなく他のメンバーも困惑して雰囲気に一歩気圧された。


「先ほどお伝えし忘れた案件を思い出し、こうしてお伺いいたしました」


「ご、後日で良いですか? 俺たち、これからちょっと用事がありまして……」


「いえ、お時間は取らせませんので。皆様に送るはずでした『称号』を渡し忘れておりました」


「しょ、称号って……まさか」


 アッシュの言葉など耳に入っていない様に、リリィは彼を静かに指差し、低くもはっきりした声で彼らに称号を与える。


「クランマスター、アシュトン・ライヤー。およびクランメンバーの方々に『罪人』の称号を贈らせて頂きます」


「なっ――!?」


 目を見開いたアッシュの声に被さるように、ピロンッと通知音が鳴り響く。

 それと同時にステータス画面が自動で開かれ、称号の欄に『×罪人』と表示されていた。

 その表示に慌てふためくスケアクロウの面々。


「ま、マジかよ……これってゲーム内で犯罪行為を犯した奴が強制的に付けられる称号だろ!?」


「これを付けられたら、奉仕クエスト以外受注できないって話だぞ!」


「……ふ、ふざけるなぁ!! シム風情が、プレイヤーに向かって生意気な事やってんじゃねぇ! 何も証拠が無いのに勝手にこんなもん付けやがって! 運営に報告してやるからな!」


 激高したアッシュが、唾を飛ばしながら喚き散らす。

 その醜態を見たリリィが短くため息を吐き、アッシュを睨んだ。


「証拠? 馬鹿ですか、あなたは。そんなもの、こちらはすでに用意しているんですよ」


「なんだとっ!?」


「そもそもこの称号は我々シムが『管理AI』に申請して受理されなければ贈ることができません。その際、対象のプレイヤーの行動ログの開示を要求できます」


「行動、ログ?」


「獣人のシム、ルナールのアイテムを盗んだこと。プレイヤー、セラス・プリアが持っていた武器を騙し取ったこと……等々。すべて『記録』されております」


「う、ぐぐっ!」


「それを含めて考慮した結果、『管理AI(この世界)』があなたたちを罪人と認めたのです」


 反論する余地すらなくなったアッシュは奥歯を噛み締め、リリィを睨み返した。

 意気消沈して、顔を真っ青にした一人のメンバーが声を震わせる。


「ど、どうするんだよ! このままじゃ俺たち、『罪人の街』へ送られちまうぞ!?」


 罪人の街。

 称号、罪人を与えられたプレイヤーはリスポーン地点を強制的に変更され、この街の神殿に送られる。

 奉仕クエストでその罪を償った者だけがその街を出ることを許され、それまでは自分でリスポーン地点の設定が出来なくなってしまうのだ。

 罪人のみで構成された街、そこは間違いなくこの世界の地獄。

 三下程度の実力しか持っていないアッシュたちではとても生き残れない所である。

 額に青筋を浮かばせていたアッシュが、荒い息を落ち着かせるように、深く呼吸を繰り返す。


「……大丈夫だ。称号を与えられただけでは罪人の街へは送られない。リスポーン地点が変わっているだけだ」


「お、おう。つまり?」


「死ななきゃ良いのさ。そしてシムはプレイヤーを殺すことはできない。この場を乗り切って街を出ればまだ手はある」


「どんな手があるって言うんだ! 適当な事ばかり言いやがって、元はと言えばお前が俺たちをそそのかして――」


「どっかの街に称号を自由に変えられる魔術師(プレイヤー)が居るらしい。そいつならこの称号も消せるはずだ」


「……確かか?」


「ああ、攻略サイトに載ってたから間違いない。とりあえずはあの男は後回しだ。まずは俺たちの問題を片付けるぞ!」


「街を出るってことは……」


「あの受付嬢を倒すってことだな?」


 アッシュに言いくるめられたメンバーたちがリリィの方へ向き直り、腰に携えた各々の武器を抜く。


「半端にして追って来られるのも面倒だ……どうせ罪人なんだ。この際、やっちまうぞ」

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