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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第四章 戦えませんがなんとかなるみたいです
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16.追跡

「……は?」


 セラスの動きすら追えず、棍が破壊された事もすぐには理解できなかったアッシュが、呆けた声を上げる。

 彼が手にしていた部分は、破壊され、床に散らばった破片と共に光の粒となってこの世界から消滅した。


「……生まれ変わったんです、この棍も、私も。その点だけには、あなたに感謝しても良いと思います」


「あっ……えっ」


「テストの結果は大満足です。ご協力、ありがとうございました」


 丁寧にお辞儀をしたセラスがショウとルナールへ顔を向けて――


「もう用事は無いので、行きましょうか」


「ああ、そうだね。俺も要件は大体終わったかな」


「はいっす、アネゴ」


「では、失礼します。皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした」


 セラスが酒場の客全員に見えるように頭を下げる。

 その横でショウとルナールも彼女に倣い謝罪をすると、セラスを先頭に階段を下りてその場を後にするのだった。


「あたいにやった非道はこれでチャラにしてやるよ。今度変なちょっかい出してきたら、本気でぶん殴るからな!」


 去り際に、ルナールが放心状態のアッシュへ叫んでも、彼が正気を取り戻すことは無かった。


 ――


「お疲れ様、セラス。ルナールも、よく頑張った」


「き、緊張しました。それに、笑顔の演技も限界でしたし、上手くいって良かったです」


「アネゴの迫真の演技、かっこよかったっす!」


「あ、ははっ、ありがとう」


 階段を降りながら、エントランスへ戻って来たショウたちは気が抜けたように明るい表情で会話をする。

 そこでショウたち三人を待っていたのは、ケンとアイリではなく、リリィの同僚のアンリだった。

 彼女は三人が来るのを頭を下げて待機しており、ショウが言葉をかける前に口を開く。


「皆さま、お疲れさまでした。今回の件で少しお話がございますので、奥の応接室まで来ていただけないでしょうか?」


「えっ……あ、でも俺たち他にも連れが居るんですけど」


 アンリの言葉に辺りを見回すショウだったが、その場に二人の姿は無かった。


「その方たちでしたらセラス様が棍を破壊した後、急用を思い出したと言って出て行かれました」


 それだったらショウに直接メッセージが届いていてもおかしくないはずなのだが、彼の通知には何も書かれていなかった。

 騒ぎを起こしておいてただで帰れる訳も無いだろう、と思っていたショウは肩を竦めてアンリに頷いた。


「分かりました。行きます」


「ありがとうございます。では、他の方もご一緒にこちらへ」


 アンリに促されて、ショウたち三人はギルドの事務局へ入っていくのだった。


 ――


「……」


「……それでは、私はこれで失礼します。今回の件は上に報告させて頂くので、そのつもりで」


 スケアクロウへお辞儀をして、リリィはその場から立ち去った。

 しばらく沈黙が続いていたが、他の酔っ払いたちはやっと終わったかと言った顔で再び喧騒が戻り始める。

 そんな中、まだ自分の手の平をぼうっと見ているアッシュに、他のメンバーが声をかけた。


「お、おいアッシュ、どういうことだよ? あの棍って、凄い性能だったじゃねぇか、なんで壊されるんだよ」


「あれがあったからお前の言う通り作った奴を探していたが、これからどうすんだよ」


「ギルドにも目を付けられてるみたいだし、散々だな……おい、アッシュ聞いてるのか?」


 肩を掴まれたアッシュがやっと我に返り、頭の中で状況を整理し始めた。

 破格の性能を持った武器が壊されたということは、あの初心者が持っていた棍がそれ以上に強力だったということ。

 こんな短時間でそんな武器を用意できたこと。

 そして獣人のシムとこの騒ぎ。

 アッシュはある可能性に気付き、騒ぎの前まで話していた酔っ払いに再び近寄る。


「おい、あんたがさっき言ってた初心者のプレイヤーって、どんな奴だった!?」


「な、なんだよ、まだ絡んでくるのか、こいつは」


「いいから、教えろって!」


「……ったく。あー、俺が見たのは牛を連れた男だったな。見た目普通のシムと変わらなかったが……あっ、そういえばさっき居た男に似ていたかも――」


「くそっ!舐めやがって!」


 酔っ払いの話が終わる前に、アッシュはテーブルを叩いて、階段へ向かい始める。

 状況が分からず、彼を呼び止めようと声をかけるメンバーたち。


「お、おいアッシュ!」


「どうしたんだよ、いきなり」


 肩越しに彼らを睨んだアッシュが大声で叫ぶ。


「あの男、シムじゃなくてプレイヤーだったんだ。恐らく生産職、棍を作った奴で間違いない! 追いかけるぞ!」


 再び音を立てて歩き出したアッシュを、他のメンバーたちも慌てて追いかけ始める。

 目の前に居たのに平然と生意気な口をきいていたショウに対して、アッシュは怒りで顔を真っ赤にしていた。

 無理矢理にでもクランへ入れて自分たちのために馬車馬の如く働かせてやる、と心で叫びながら階段を下りるアッシュたち。

 しかし、エントランスにはすでにショウたちの姿は無かった。

 アッシュはちっと舌打ちをして、近くに居た目深くフードを被った二人組の冒険者に早口で訊く。


「おい、お前たち。今ここに三人組が来ただろ、どこ行った!?」


「は? 三人組? ……ああ、そいつらだったらここを出て行ったわよ。素材屋に行くとか言ってたけれど」


「素材屋だな? よし、お前ら行くぞ!」


 フードを被った女性の声に頷いて、アッシュは仲間を連れてギルドを出て行った。

 その場に残った二人組は彼らが去ったのを確認してフードを取る。


「これで誘導は成功。ここから素材屋へ早く行きたいなら細い路地を行くはずよ」


「この街はお前の方が詳しいからな、頼りにしてるぜ」


「任せなさいって。さぁ、じゃあ私たちも行くわよ、ケン。へましないようにね」


「クランマスターには逆らえないからな。アイリこそ、油断するなよ」


 お互いに頷き合った後、アイリとケンはスケアクロウの面々を追いかけるため、ギルドを出るのだった

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