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Freedom Birth 戦えませんがなんとかなるみたいです  作者: なろといち
第四章 戦えませんがなんとかなるみたいです
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15.対峙

 予想外の事態に困惑したアッシュだったが、この場をやり過ごそうと眼を鋭くして、勢いで捲し立ててきた。 


「そちらがこいつの言い分を信じるのは勝手として、なにも証拠は無いでしょ? 言い掛かりに近い戯言に付き合うほど俺たちも暇じゃないんですよ。全部こいつも同意の上で俺たちにアイテムを渡してくれたんですから」


「そんな訳あるか! あたいをクエスト中に置いてけぼりにして、家のアイテムまで盗っていきやがって!」


「……それは本当ですか? もしそうならば窃盗ということになりますが?」


「ははっ、そんな事あるわけないじゃないですか。プレイヤーの俺たちを妬んだシムの出任せですって」


「この子だけでなく、他にもあなた方に騙されたという声もギルドに届いているのですが」


 リリィに真っ直ぐ顔を向けられたアッシュはたじろぎ、舌打ちをして頭を強く掻いた。


「あー、面倒くさい。もうこいつが自分の言ったことは全部嘘でしたって言えば良いんだろ!?」


 リリィからルナールへ向き直ったアッシュが、ルナールの頭を掴もうと手を伸ばす。


「ほら! お前が頭を下げて正直に嘘でしたって――」


 しかし、アッシュは言葉を言い切ることもルナールの頭を掴むこともできなかった。

 アッシュが伸ばした手は、ショウによって手首を握られ、止められる。


「な、なんだお前。シムのくせに邪魔するんじゃないよ!」


「……汚い手で俺の仲間に触れるな。インチキ野郎」


「んだと――っ!」


 ショウが握っていた手首ごとアッシュを弾き、退かせる。

 自分が座っていた椅子まで戻されたアッシュは、そこに立てかけられていた棍の事を思い出した。


(もう面倒だからこの棍でこいつらをしばくか……いや、ギルドの職員が居たんじゃそれもできない。ビビらすくらいにしておくか)


 それでも棍を手にしたアッシュが再びルナール、そしてショウへ近づいて来る。

 鋭い目つきでショウを睨んだアッシュが棍をちらつかせて二人を脅した。


「お前たち、いい加減にしないとこいつで身体に分からせることになるぞ? いいのか? プレイヤーの俺が使えば最悪神殿送り……あっ、シムにはそんなシステム無いんだったな!」


 この時点で、ショウの怒りは沸点を越えていた。

 目の前でヘラヘラ笑っている男の顔を盾で殴りたいという衝動を必死に理性で抑えていた。


「これは見た目は普通の棒きれだが、武器としての性能は破格なんだよ。信じないって言うなら試してみるか?」


「……それは、脅迫になりますが?」


「貴女は黙っててください! 嘘を信じて事実確認をしないギルド職員に代わって、俺が真実をこいつらに認めさせるんですから」


「つまり、これまでこの子が言っていた話には一切心当たりが無いと?」


「無いですね。他にも似たような事を言ってる奴がいるみたいですが、俺たちには全部心当たりなんてありません」


 顔も向けずにリリィと会話をしていたアッシュが一歩、ショウとルナールへ近づく。

 彼の態度を見て、ひとつため息を吐いたリリィが、ショウに向かって頷く合図を送った。

 それに頷きで答えたショウがその場から少し横へ移動する。

 今までショウの背中に隠れてアッシュたちからは見えなかった位置、そこにはセラスが笑顔で立っていた。


「こんにちわ、アッシュさん」


「っ!? き、君は……!」


 まさかそこに人が、しかもセラスが居るなど思いもしなかった彼は目を見開き、身体を硬直させた。

 その時リリィが言っていた他にも騙されたという声があるという言葉を思い出し、アッシュは額に冷や汗を浮かべる。

 セラスは一歩前に出て、アッシュと向き合う。

 ショウとルナールは立ち位置を変え、リリィの方へ避ける。


「先日はお世話になりました。おかげさまであの時の素材を使ってこの子の外套が作れました」


 手でルナールを示したセラスは、笑みを絶やさずに話を続ける。


「き、君の仲間になったんだね。驚いたけど、シムを気に掛ける君らしい、かな」


「ええ。アッシュさんと別れた後、出会ったんです。とてもいい子で、頼りになりますよ」


「へ、へぇ……そ、そうなんだ。それで、今日はなんで?」


「あなたが持っているその棍について、ですね」


「っ!! こ、この棍がなにか?」


「しらばっくれるなよ、それは元々アネゴが持っていたやつだろ?」


 二人の会話に、ルナールが言葉を飛ばす。

 それに反応したように、リリィがアッシュを見る。


「それは、盗みを働いた、ということですか?」


 リリィの言葉に、アッシュは慌てて彼女の方を向いた。


「ひ、人聞きの悪いことを言わないでください! これは、その……そう、これは初心者のこの子と俺の武器を交換しただけです」


「それは同意あっての交換だったのでしょうか?」


「もちろん。初心者の彼女に良い武器を使ってほしくて、先輩プレイヤーの俺が代わりの武器を用意したんです」


「先ほどあなたは自分でその棍を『破格の性能』と言っていましたが、それ以上のモノを渡した、と?」


「そ、それは……」


 言い淀んだアッシュが視線を逸らす。

 その時――


「交換。そうですね、確かに私はアッシュさんと武器の交換をしました」


「……へ?」


 笑顔のまま頷いたセラスの言葉に、その場の全員が驚いた顔をしたが、一番面食らっていたのはアッシュだった。

 先輩プレイヤーの自分とこれ以上騒ぎを起こしたくないのだろうと勘違いした彼は、強気な姿勢を取り戻す。


「ほ、ほら! 彼女もこう言ってるじゃないか。俺は何も疚しいことはないんだ」


「……」


「そこで睨んでるシムとは違って、彼女はとても利口じゃないか。ギルドも同意の上ならなんら文句は無いでしょ?」


「……そうですね」


 セラスの言葉でリリィとルナール、ショウは口を噤んで一歩、下がった。

 これが今回の騒動の終幕だとまた勘違いをしたアッシュが、胸を撫で下ろして勝ち誇った顔になる。

 そんな彼に、セラスが笑顔のまま言葉を続けた。


「では、アッシュさん。交換したときの約束、覚えてますか?」


「へ? ……や、約束?」


「はい。新しく武器を手に入れたらそれの性能をテストしてくれるって言ったじゃないですか」


「そんなこと言って……いや、そういえばそんなこと、言ってたような気が……」


 否定したら交換の件も蒸し返されてしまう事を恐れたアッシュがしどろもどろに頷く。

 それを見たセラスが満足気に頷き返した。


「ええ、確かに言いました。それで準備が整ったのでアッシュさんに会いに来たんです」


 セラスはアッシュに見えるように、手にしていた棍『ネメスィ』を身体の前に出す。

 その棍を見て、困惑の表情になる一方だったアッシュが口の端を吊り上げる。


「それって、俺と交換したやつだろ? そんなのいくら強化したって――」


「――ふっ!」


 ――ボキッ!


 杖の様に持った逆手のまま、セラスは空気を切り裂く様にアッシュが持っていた棍へネメスィを打ち付ける。

 瞬間、アッシュに騙し取られた、ショウが練習で作った棍は後も無残に粉々に砕けた。

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